第8節:親の心
森の火事は収まり、灰色の煙が空に薄く漂う。倒木や焦げた枝が散乱する森に、村人たちは手早く後始末をしていた。
雷が落ちたことは知っているが、その光の源が一人の少年であることには、まだ誰も気づかない。
家に帰ったライルを、父カイロスはじっと見守る。
肩の落ち方、歩き方のぎこちなさ、そして角の光が微かに脈打つ様子――普段の息子とは何かが違う。
(……昨日の森の後、何かあったのだろうか……)
カイロスは眉を寄せ、胸の奥で小さく息を吐く。火の力を持つ自分だからこそ、角の微かな光の変化が気になり、目が離せない。
「ライル……どうした。昨日から落ち着かないようだが」
父の声は柔らかいが、その目には心配と迷いが浮かぶ。
(……何も言わないで森に行かせたのも、俺の判断ミスだったか……だが、息子の様子を見る限り、問いただすにはまだ時期ではない……)
カイロスは角の光の微妙な揺れに目を細める。火の力で感情を映す自分の経験からしても、あの光は緊張や不安、恐怖が重なったものだと察せられる。
(……焦ってはいけない。まだ発現したばかりの何かかもしれない……)
普段のライルなら、自分の感情をうまく制御している。しかし今は違う。心配と苛立ち、混乱が混ざった光が角から漏れている。
父は深く息を吸い込み、視線をそらしながら心の中で言い聞かせる。
(……力がどうであれ、俺の役目は見守ること。焦らせず、学ばせること……)
ライルは小さく肩をすくめ、角の光を微かに揺らしながらベッドに向かう。
カイロスはその背中を見つめながら、父としての葛藤を抱える。
問いただすべきか、放置すべきか。息子の秘密を尊重すべきか、力の危険性を優先すべきか――答えは出ない。
だが一つ確かなのは、ライルの力はまだ不安定で、焦ると危険だということだった。
夜、森の余韻が静かに村を包む。
カイロスは遠くから息子を見守り、角の光の微かな脈動に注意を払いながら、心の中でそっと祈る。
(……力が何であれ、守れるように、学べるように……)
森での火事、昨夜の恐怖、そして角の光――そのすべてが、父の胸に見守るしかない苦悩と覚悟を刻みつけていた。




