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プロローグ『粉砕の魔女』ソフィア・W・ルスト

群像劇って見たり読んだりするの面白いんですけど自分でやろうとすると頭抱えるんですよね。それでも挑戦しないことには自分に合うものって見つからないもので。一人でも楽しんでくれたなら幸いです。

ユドラシルグ大陸北西部に位置するナヴィヘアーム地方諸国に激震が走る。

東南に位置するフリヴィム山脈より死龍が現れたと知らせが入ったのだ。

今から約四〇〇年前に現れた時には数多の国が滅び、多くの死者を生んだと伝承に残っている。

死龍が通った場所は瘴気に侵され草木も生えず、生き物も瘴気に触れ続ければ肉が腐り落ち死に絶える。口から吐き出される息吹(ブレス)は生けるもの全ての命を瞬時に刈り取り死の大地をもたらすとされている。


フリヴィム山脈に隣接するウプデサラン帝国はこの緊急事態の対応に追われていた。各国に救援と討伐議会結成の為の招集を求めた。

死龍発現に対して各国の対応は早く国内外の上層部が忙しなく走り回る中人知れず死龍と対峙する者たちがいる。

四賢者(よんけんじゃ)が一人〈粉砕の魔女〉ソフィア・W(ウェーランド)・ルスト

髪は牡丹色で瞳はエメラルドのような緑をしている。小柄な体にまだ幼さが残る顔つき、長い髪を後ろで結わえておりタンクトップの上に革のジャケット、膝丈のズボンに脛の半分まであるブーツを履き両腕にはガントレットを付けていた。

更に全身を覆い隠せるほどのローブを羽織っている。

その隣にいるのは四賢者が一人〈幻惑の魔導師〉マーティン・H(ホズ)・ディオン

一般男性より長身でスラリと伸びた手足に引き締まった体を赤いシャツと黒のズボン、両手や首まわりなどに宝石を使ったアクセサリーを纏い黒いジャケットは袖に通さず羽織っていた。赤い髪には癖毛なのか何か所か跳ねていてトパーズのような瞳は不安を滲ませながらソフィアを映す。

「なぁ、ソフィア?本当にやるのか?」

マーティンの問いに無表情かつ死龍を見つめたままソフィアは答えた。

「・・・もう決めた事だから。その為の準備もほぼ終わってる。」

「でもよぉ・・・。」

表情に寂しさを滲ませながらマーティンはソフィアの顔を見下ろしている。

「私だって本当は嫌だよ?でも今やらなきゃ絶対後悔するから。」

ソフィアもまた寂しさを滲ませた表情でマーティンの顔を見上げた。

彼女は頬を手の平で二回叩き気合を入れると死龍を見据えながら歩きだす。

「それじゃ後の事お願いねマーティン。・・・行ってきます!」

振りむことも無く地を蹴った彼女の体はそのまま空高く舞い上がる。そして死龍に向かって飛翔した。

マーティンは一言も発することなくソフィアの姿が見えなくなるまで彼女を目で追い続ける。


ソフィアは頭の中で討伐の要点を再確認しながら死龍に向かって飛翔していく。

(死龍が纏う瘴気は魔力を膜のように全身を覆って空気はスカーフに刻んだ浄化術式でなんとかなる。息吹はローブに施した対死霊術特化結界と対物理障壁の複合術式使えば理論上耐えられるはず。)

死龍は分類上アンデットである。しかし龍種の特有の巨躯に加え膨大な魔力を持つため最上位のアンデットとも一線を画す。

(腐った肉体ではあの巨躯を支えるので精一杯。物理攻撃はほぼ無いしその上動きも遅い。だけど・・・)

従来の龍種なら肉が薄く脳を破壊出来る眉間が弱点となるが死龍の脳は元より腐り果てている為弱点にならない。

残る手段はただ一つ。魔法生物共通の弱点である魔石の破壊。

問題は腐っているとはいえ肉壁は厚く膨大な魔力のおかげで対魔術障壁の強度が桁違いに高い。それゆえに攻撃が通りにくく決定打を与えられないのだ。

(いくら肉壁が厚いといっても腐ってて柔らかいはず。普通の攻撃なら通りにくいけど私ならきっと大丈夫。)

一呼吸し眼前に迫った死龍に集中する。

「エンカウント!」

気合を入れるように叫ぶと同時に加速した。


悲痛な叫びのような咆哮が一帯に響き渡る。咆哮が収まると死龍の口元から紫色の煙が立ち始める。

死の息吹(デス・ブレス)

浴びたものは生き物や草木に止まらず剣や盾といった無機物さえも腐らせ崩壊させる正しく一撃必殺の攻撃である。

意思なく動く死龍だが本能的に脅威と感じソフィアに向かって息吹を吐く。最大威力で。

予想を超える息吹の範囲にソフィアは驚愕した。範囲外に急いで回避しようとしたが間に合わない。

半身ほど直撃を受ける形となりローブに魔力を流し施された術式を起動させる。はじき出されるように息吹から逃れた。

「やば・・・。」

理論上通り息吹を防ぐことはできたがローブの端は少し崩壊していて表面も何か所かほつれている。この壊れ方からして息吹の直撃はあと一回が限度。三回目は無い。

咄嗟に利き腕を守る形で右に避けた関係上右から攻めることにした。

蛇行飛行は戦場で有効な突撃方法だがあの範囲相手では全く意味がない。少しでも射線から逃げれるように横移動を加えつつ前進する。

死龍まであと少しの所で体表面に魔法陣が複数浮かぶ。攻撃術式で属性は雷。

「我が身を雷の脅威から護れ〈リフレクション〉」

ソフィアは詠唱魔術を唱えた。数多の雷が迫り弾かれていく。

従来はリフレクションだけで大体の攻撃魔術は反射できる。しかし龍種ほどの威力には耐えられない。

対象属性を指定しその属性に特化させることである程度は対応できるが限界はある。

回避と防御で雷の嵐を抜け死龍に肉薄したソフィアはガントレットに刻まれた術式を起動する。

目前に対魔術障壁が現れた。

「残念。私のこれ(刻印魔術)は攻撃魔術じゃないの。」

発動した魔術は身体強化と加速。ソフィアは口端を上げながら右手の拳を突き出した。

障壁をすり抜けた拳は死龍の身体の突き刺さり次の瞬間には肉壁が爆散する。身体強化と加速により音速に近い速度の拳は衝撃波を生み腐った体を吹き飛ばしたのだ。すかさず左手の拳を叩きつけると同時に死龍の体内に向かって飛翔し突き進む。

再び死龍は咆哮を上げる。まるで痛みで泣き叫ぶように。

一本の矢と化したソフィアは突き進む。そしてその拳は魔石を捉えた。

勝利を確信したソフィアだったがその表情は絶望に染まる。

「う・・・そ・・・」

魔石は魔法生物の力の源。魔石から生まれる魔力を使って彼らは力を行使するのだ。

だが死龍の魔石から生まれていたのは瘴気。本来ありえるはずのないその瘴気は魔石をソフィアから守るように拳の前に壁を作り受け止めている。更にソフィアを排除するかのように吹き荒ぶ。

ローブに魔力を流し結界を展開して瘴気から守る。しかし瘴気の力は凄まじくローブは徐々に崩壊していった。

このままでは瘴気に飲まれて死ぬ。悩んでいる時間はない。

「闇を消し去る いのちの光よ 尽きることない愛が 喜び溢れる日々の 道しるべとなれ」


『いのちの讃美歌』


それは己の生命力を魔力に変える忌避された魔術。命を代償に己の限界を超えた魔力量を扱える禁忌。使いすぎれば死に至る。

ソフィアには叶えたい目的があった。その目的の為に死龍を利用しようとした結果が現状だ。

惨めに死に絶えるのは構わない。その結果何の関係もない人々が蹂躙され故郷を失い嘆き悲しむ事は別の話である。

「はぁああああ!」

命から変えた魔力を右腕のガントレットに流し込む。刻まれた術式が太陽のように光り輝く。

「貫けぇええええええええ!!」

叫びと共に魔石に向かって拳を叩きつける。瘴気は濃度増し拳を阻む。

ソフィアの髪と瞳から色が抜けだし、髪を結わえていた紐が千切れ後ろになびく。

ガントレットが軋み異音を立てながらも徐々にソフィアの拳は魔石に向かって進む。

そしてついに瘴気との拮抗は破れ拳が魔石に届いた。

「っぁああああああああああああ!!!」

最後の気力を振り絞り拳を押し込む。魔石に亀裂が走りついに砕け散る。

勢いの乗った体は死龍の背中を貫き空に舞い上がる。

死龍は断末魔を上げながら膝から崩れその巨躯を大地に落とす。体と瘴気は空に向かって霧散していく。

ソフィアの身体は揺らぎ力なく大地に向かって落ちる。

勝利の余韻に浸ることも無く朦朧とした意識の中かすれた目に映る人影があった。

(ごめんマーティン。私・・・)

「ソフィアっ!!!」

自分を呼び叫ぶ声とほのかに感じる温かさを最後にソフィアは意識を失う。


こうして〈粉砕の魔女〉ソフィア・W・ルストはその人生に幕を下ろしたのだ。

投稿日から一週間以内に次の話を載せます。未完成でも書き続けるのが大事だと思うので。

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