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よろしく駄文3

 眠気を飛ばす金切り声が覚醒を促す。苦情が来てもおかしくない騒がしさだ。瞼を押し上げてみるとあり得ない現実が目の前にあった。

「おひさしぶりですぅ!リコねー様!!」

 見覚えのない金髪の少女がそこにはいた。外見はチンチクリンでリコと同い年くらいだが、実際はどうかわからない。だって、あいつら、は、

「ああ、ねー様ねー様ねー様!!リコねー様!!なんて甘美な響きでしょう!ワタクシはねー様とお話出来るだけで十二分に幸せなのです!」

「それはよかったのう」

「なのにねー様ったら全然連絡をくださらないんですもの!悲しくてワタクシ、毎日枕を濡らしたものです!」

 涙が出てくるのはこっちの方だ。

 うそ…だろ…?

 机の上には試行錯誤の痕跡、芳ばしい香りを放つ焼きたてステーキや卓上ミラー、もうもうと煙をあげるドライアイスなどが、並んでいる 。

 あいつ、悪魔召喚に成功しやがったな……。

 リコの腰の辺りに彼女はしがみついている。容姿はまさしく悪魔的魅力を放っていたが、完璧過ぎて逆にひく顔立ちだ。服装は外套、というわけではなく、ドクロがプリントされた黒Tシャツに紺色のハーフパンツ、さながら女性パンクロッカーだ。幼すぎる容姿がもやもやとしたギャップを放っている。

「くっつくでない、暑苦しい」

「よいではありませんか?久しぶりの再会なのですよ!ワタクシを構成するねー様分の充電が必要なのです!」

「うまく言えんが、お主、キモさに磨きがかかったのう」

 見たままを述べるのであれば、外人の女の子が和服の少女にベタベタくっつく、なんとも微笑ましい画である。シルフスコープを通してみると魑魅魍魎の異種間交遊だ。西洋妖怪vs東洋妖怪の一騎討ち。

 できることなら、不法侵入を糾弾する気も起こらないくらい可愛らしい二人、そういうことにしておきたい。

「ああ、なんて辛辣なお言葉。でもよいのです。リコねー様からのお言葉はワタクシにとっては天恵に等しいのです。ああ、ねー様、もっとお言葉を!!罵り言葉でも! 」

「ええい、だから会いたくなかったんじゃ!気色悪い!次そんな吐き気を催す台詞吐いたら連絡切るからの」

「なんたること!?非情、放置プレイですか?……きゃ、ワタクシったらプレイなど卑猥な言葉を!?いえよいのです。ねー様相手なら、いつでも」

「切る!絶対連絡切る!絶交!!」

「ああそれだけはお許し下さい!どうかリコねー様!!この卑しい山田・メテオール・ヴァイオレットの血迷い言だと思っていただきご慈悲を!どうかどうか!」

 恥も外聞もかなぐり捨てた、美しすぎる空中土下座。俺も頭を抱えて窓から飛び出したい気分だ。

「う、うむぅ。絶交はさすがに言い過ぎたかのう。年賀状くらいならだしてやらんでもない」

「ああ、ねー様!だから好き!!」

 ホワホワと長い金髪をなびかせ彼女は再びリコに抱きついた。

「だぁぁあー反省しとらん!でぇい、お主なぞあけおめメールで十分じゃ」

「そんなぁねぇさまぁ」

 瞳を閉じて暗闇に身を委ねれば、ゲリラ豪雨の雷鳴が聞こえた気がした。

 寝よう!もう一度眠ればこんな非現実、世界から消えてくれるはずだ!

 藍が決心を固めて、睡眠の心地のよい泥に片足を突っ込もうとした時だった。

「お、藍。起きておるな?お早うー」

 薄く目を開けて見てみるとキラキラと眩しい笑顔を携えたリコが覗きこんできていた。狸寝入りは通用しないらしい。

「……おはよう」

 眉間に深いシワを刻みながら、仕方がないので体を起き上がらせる。

「おお、見よ藍。こやつが山田、職業悪魔じゃ」

 そんな職業はない。即刻ジョブチェンジを要求する。

「マッカがよく足りたな……」

「いやはや途中で生き血が必要とわかったときは困ったものよ。藍よ、協力感謝するぞ!」

「まてぇい!!そんな献血協力した覚えないぞ!」

「ほら、お互いに自己紹介する!」

 無視しリコは華やかなる笑顔で、二人を向き合わせた。

「……どうも」

 静しず挨拶を行う。

 ウェーブがかった長い金髪、派手な服装とは対称的な稚児めいた翠の澄んだ瞳、ほんのりと赤いふっくらした頬、将来的に北欧美女になる可能性を秘めた美しい容姿……。悪魔、といえばその通りだが、どちらかといえば天使のような見栄麗しい少女がそこにいた。

 とにかくめっちゃ可愛い。筆舌にしがたい。五年後くらいなら土下座してでもお付きあいしたいレベルだ。

「なんですこのブタ」

 そんな彼女が醜く顔を歪めそういい放った。

「ヒモですか?いえ、そんなの許しません。そうですね、せいぜい財布、いや奴隷。うーん、家畜ですね?ねー様!言ってくださればワタクシが提供しますのに」

 ああ、やっぱりあいつ(あやめ)と同じ匂いがすると思ったんだ。

 罵詈雑言の嵐に外出を申請したくなってきた。というか部屋から出させてくれ。

「ちゃうぞ、藍は我のカレシぃ(語尾上がる)じゃ」

「はい?」

 リコの端的な一言に沈黙が落ちる。

「……は、え?」

 立っていられなくなったのか、がたんと彼女は尻餅をついた。

 目をしばたかせ、顔を青くし蚊の鳴くような調子で呟く。

「NTR……?」

「は?」

「冗談ですよね?」

 涙を流しながら震える声でリコに問いかける。

 なんだか病的だった。

「お互いにハジメテはヴァージンでいようって誓い合ったじゃないですか!?ねー様ねー様ねー様!!嘘だと仰って、あのときと同じ笑顔でワタクシを慰めてください!」

「誓いあっとらんわボケぇ!そんな記憶微塵もないわい!」

 山田は力無くだらりと、藍を指差し、

「このゴミムシですね!?このゴミムシが淫隈な手段を持ってねー様を手込めに!許しでおくべきか!清純無垢清廉潔白なリコねー様をピーーーーー(禁止用語)するなんて!!!」

「だまれぃ!」

 狂ったように叫び続ける山田に堪忍袋が切れたのか、いつになく乱暴にリコは彼女をソファに投げ飛ばした。

 それでも頭を抱え髪を振り乱しながら彼女は元気一杯に、

「許さない絶対に許さないから。ねー様ねー様ねー様!!ワタクシだけを見てください」

 尚もぶつぶつ呟いている。正直気持ち悪かった。

「ウザイのう……」

 ここまで機嫌悪そうなリコを藍は始めてみた。

「まぁ、よいほら自己紹介」

 リコは和やかに藍の背中を叩いたが、

そんな場合ではないことくらい一目瞭然である。 現状を冷静に見てほしいが、彼女にそれは叶わないことくらい藍はすでに理解していた。

「橘藍です。よろしく」

 波風たたぬよう極力申し訳なさそうにいう。負い目を感じることなどなにもないが相手は悪魔、怒らせるのは得策ではない。

 ソファの上で踞る少女。彼女は頭を抱ながらこちらにちらりと視線をやった。

 長い睫毛は涙でしっとりと濡れている。

 ぶつぶつぶつ……。返答はなく、プックリした唇を動かしているだけだったが、やがて、ソファびょんと飛び上がると大きな声で彼女は叫んだ。

「吹っ切れましたぁぁぁぁ!」

 あまりのボリュームにびっくりして仰け反ってしまう。

「ええ、ええ!リコねー様の選んだ御仁!それはもうすばらしい殿方に違いありません!ワタクシ、応援します!」

 意外な反応に戸惑う。これはいい意味で予想外だ。

 そうだ、俺はこういう平和な反応をずっと待っていた!

「そうです!ねー様!!3Pも悪くありませんよね!」

「……」

 こいつなにいってんだ。

「なにそれ?」

「聞くなリコ、耳を塞いでろ」

 思わず真顔でそう言っていた。

「まあ、リコねー様ご存知ありません?スリーピース!三つの幸せなのです!」

「ようわからんが認めてくれたようでよかったわ」

「ええ、自己紹介させていただきます!」

 ペコリと可愛らしくお辞儀してから

、彼女は続けた。

「山田・メテオール・ヴァイオレットと申します。職業は悪魔。対価次第ではどのような願いも叶えさせていただいております」

「ん?山田・メテオール・ヴァイオレット……さん?」

「ええ、バイオとお呼びください」

「山田さんってよばせてもらうわ」

 その敬称じゃ悪魔じゃなくてゾンビみたいだ。

「て、リコ、お前彼女の名前」

「ん?山田・メテオール・ヴィオレット?」

 紹介段階ではリコは確かにそう言っていた。

「いや、だからヴァイオレットだろ?」

「む?じゃから山田・メテオール・ヴィオレット」

「いやヴィオレットじゃなくてヴァイオレット」

「む?なにを言うておる?ヴィオレット。あっとるじゃろ」

「いやいやだからー」

 耳の穴をかっぽじれ、と命令しようとした矢先に、

「ワタクシの名前は山田・メテオール・ヴィオレットですぅ!ヴィオって呼んでください!」

「お前それでいいのか?」

 勝手に改名された瞬間だった。

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