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12 Good Old Fashioned Lover Boy


 前書きは最初以外書かない、いう前言を撤回して失礼します。

 3週間も放置して、すみませんでしたぁ!……たぶんまた放置します……。

 さて、そんな久しぶりの投稿がこんな話で、もうなんていうか、……申し訳なさすぎて、涙が……。

 ちなみに今回の話は絶対しなければならない物語です(キラリン)。たぶん。




 少年は気づいた。気づいてしまった。

 ソファの上、体育座りで昼ドラを見る座敷わらしを横目に、彼は静かに怒りの炎を灯らせる。

(ここ最近、エロ成分が足りんッ!)

 15歳、男子高校生の夏休み。

 青春くささを感じる前に、不健全さが漂うそんな年頃。

 正確には、夏休み前の短縮授業期間なわけだが、せっかくの午前授業も寄り道もせずまっすぐ帰宅した彼にしてみれば、あまり意味のないものになっていた。

 それもこれも、全部コイツのせいだっ!

 声に出さずおかっぱ頭の少女を糾弾する。

 せっかく一人暮らしできるようになったんだから【自主規制】とか【自主規制】とか【自主規制】とかやり放題のはずなのに、リコがいるせいでエンジョイ出来やしない!なんで高一の夏を健全に過ごさないといけないんだよ!


 彼は決心した。

(やってやる!やってやるよ!こんなクソガキに邪魔されてたまるか!俺は、俺は漢だ!くにおくん!)


 こうして彼は快楽という絶頂を求め、天国への階段ステアウェイトゥヘブンへ足を踏み出したのだった。


 Misshon1.一人きりになろう


「よぉ、リコ」

「ん?なんじゃ?」

 そのためにはまずこのくそ生意気なガキをどこかにやらなくてはならない、作戦を脳内で固め、テレビに釘付け状態の座敷わらしに話かける。

「悪いが後にしてくれんか。ホストになった康夫が邦子の元に帰ってきて、八重子がどう動くか目が離せんのじゃよ」

「……」

 彼女が見ている昼ドラの内容である。

「そんな事よりそろそろ夕飯の買い出しに行く時間じゃないのか?」

「む、そんなこととは失礼な。記憶喪失だった八重子が康夫に告白して泥沼の三角関係なんじゃ。それはそうと今日の料理の材料は昨日の内に冷蔵庫に入れてあるぞ」

「あ、夕飯じゃなくて、ほら、あれだよ。あれ」

 しまった。いまの橘家の台所事情はリコに掌握されているのだ。買い物をダシに一人きりになる作戦は失敗だ。

「映画でも見てこいよ。いま話題だろほらジブリの新作」

「……話が随分変わるのう」

「金なら俺が出すからよ。レディースデイだから1000円な」

「ひょっとしてデート?」

 妙にきらきらとした瞳で、画面に向けていた視線を藍に向きなおし、少女は訊いてきた。

「いや、頑張った座敷わらしにご褒美。いつもお世話になってるから俺の奢りだ」

 一人になるために千円の出費、……致し方あるまい!

 彼の金銭感覚は夏だからか、多少狂っていた。

「むう。どうせなら一緒に行こうではないか。我ら付き合っておるんだし」

「それじゃご褒美になんないだろ。今日はゆっくり羽を休めてくれよ」

 テメーはいつもダラダラしてるだけだけどな。と心の中で付け加える。

「いやしかし映画というものは一人で観るよりみんなで観るほうが、」

「まじアリエナイッティ!誰にも邪魔されず平穏な気持ちで観るのが映画の醍醐味じゃないか」

「見解の相違、というやつかのう」

「いいから俺を気にせず見に行けって、あとで感想聞かせてくれよ!」

 親指をぐっと立てる。

「そこまでいうなら好意に甘えさせてもらうかのう。ふふっ、藍も優しいとこあるじゃないか。見直したぞ」

「はは、いいってことよ」

 玄関から出ていった座敷わらしを見送り、

(あいつにチケット買えるのかな?)

 と疑問に思いながらも、無事一人きりになることに成功したことを祝い、ガッツポーズをしながらほくそ笑んだ。


 Misshon2.邪魔されない環境作り


 さて、次に必要なのは気分が盛り上がってきた時に乱入される危険性の排除である。

 実家暮らししていた時の事だ。自分の部屋でエロ本眺めている時に限って親がノックもなしに「洗濯物ここにおいとくわよ」と空気も読まず部屋に入ってくるのだ。

 その時は恥ずかしさを「か、勝手にはいってくんなよ!」と怒りでごまかしたが(母親の分かりきったようなしたり顔がうざかった)、座敷わらしにソレが通用するとは思えない。

 あれからもう二度と同じ轍を踏まい、と誓ったのだ。

 彼は拳を固めた。

 まず玄関の鍵をしめ、チェーンをかける。リコに怪しまれたら訪問販売がしつこかったから、という言い訳をしよう。

 次に窓をしめ、クーラーのスイッチをいれる。これはただ単に気分だ。誰かに覗かれているかもしれないという気分を紛らわせるため。

 そして最後に

「そこにいるんだろ?」

 独り言をさも誰かがいるかのように意味深に呟きはじめた。

 もっとも警戒すべき相手は妖怪。全身全霊をもって相手しなくては。

「俺相手に未熟な気配遮断は通用しないぜ?出てこいよ」

 クーラーの稼働音だけが響く。

「……」

 一人では奇行だが、一人だからこそバレるおそれはない。

 念の為、声音を変えて叫ぶ。

「お〜い、リコ?いるんだろ?サプライズパーティーにはまだはやいぜぇ」

 窓の外から蝉時雨があふれてくる。

「ハッピージャムジャムさいこぅ踊ろうよっ!……」

 静寂が耳に痛い。エロスと夏の暑さが彼をおかしくしていた。

「へぃ!今から鼻からスッパゲティ啜ってやんぜ!そん次は瞼でピーナッツを噛んでやる!見物はお早めに!

 ……いないな?誰もいないな?実は見てましたとか止めろよ、マジで」

 誰にも返事をされないことで、この部屋にいるのは自分だけと確認した。

「今から俺は【ピィーー】や【ズキュゥン!】を【ドゥン!】しながら【カーン】すんだから邪魔すんなよ!わはははは!!」

 放送禁止用語を連発してから、こみ上げてくる笑いを誤魔化すことなく、一人で大笑いした。


 Misshon3.リフレッシュ


 ここまでくれば、残されたのは快楽のみである。彼は勇み足で押し入れの奥に封印された「宝箱」を取り出した。

 中にあるのは、彼秘蔵のDVDである(内容は言わずもがな)。

 念の為、あたりをキョロキョロと見渡してから箱に手をかける。見慣れた自分の部屋があるだけだ。誰の視線を気にする必要はない。

 彼は箱の中からお気に入りの一本を手に持ち、きちんと残りを押し入れに戻してから、テレビの前に正座した。

 プレーヤーにDVDをセットし、深呼吸する。

 先ほどまでアスファルトをのたくるミミズのようなハイテンションを披露した人物だとは思えないほど、冷静で着々とした行動である。

 テレビ画面に「なんでこの世界きたの?」と怒鳴りつけたくなるほどの、美人が写しだされる。

 ワクワクと高揚した気分で目を皿のようにする藍。

(ちっ、インタビューシーンは飛ばすか)と心の中で舌打ちをし、リモコンに手を伸ばした瞬間だった。

 テレビの中の女性の顔に、リコの顔がダブった。いや、出てきたのだ。

「のわぁぁぁぁ!?」

「?」

 初登場時と同じシチュエーションなのに、その時には起きなかった叫び声がこだました。


 Misshon4.予期せぬ事態に対応せよ!


「な、な、なにしに戻って来たっ!?」

「む?なにをそんなに驚いておる。はじめてあった時はあんなに落ち着いておったのに」

 叫びながらも、テレビの電源を切る。リコは一瞬だけ怪訝そうに眉をひそめたが、怪しんでいるわけではなさそうだった。

 そうだった!こいつは妖怪だから部屋を締め切っても無駄なんだった!

 彼は吹き出した汗とともに、自らの認識の甘さを悔いた。

「いきなり現れたら誰だって腰を抜かすはボケぇ!それよら質問に答えろ!」

「いやなぁに。映画のついでに買い物を済まそうと思うての。たしかシャンプー切れかかってたろう?」

「あ、ああそうだな!シャンプーがやばかった!お願いするわ!金なら俺が出すから」

「今日は嫌に物わかりが良いね」

 首をひねりながら全身をテレビから出す。

「ところで何をしとったんじゃ?」

「べ、別になにも」

「目線が合っとらんが」

 藍はここぞという時の嘘が苦手だった。

「テレビ観とったんか?」

「あ、ああ。うんテレビを観てた」

「ふぅん」

 藍の端的な対応に彼女は唇を尖らせながら鼻を鳴らした。

「でも消えとるが」

 うるせぇよ、しつけぇな。

「しょ、省エネだ。ストップ温暖化だ」

「テレビといえば、康夫はどうなったかのう。さっきは藍がいたわってくれた嬉しさで舞い上がってしまい途中までしか観とらんのじゃ」

「あっ、バカ、止めろ!」

 リコは藍が止めるより先にテレビの電源をつけていた。


 Misshon5.泥沼を抜け出せ


 テレビの電源を落としても、プレーヤー(再生機)の電源は落ちていないので、画面にはまた動画の続きが写しだされる。

「なんじゃ、これ?」

「あ、あ」

 言葉を失いかけた彼の瞳には、未だに冒頭のインタビューシーンが写されていた。

「藍はなにを見ておったんじゃ?これ何チャン?」

 いつも、無駄に長いと感じるそのシーンに彼は僥倖とばかりに、渇いた舌で言葉を吐き出す。

「こ、これは」

 でも唾は止まらなかった。

「インタビューです」

 言い訳が浮かばなかった。

 どうやらリコはまだこれがどういったものなのか気がついていないようだ。

 あとはどうにかして『行為』に入る前に彼女を部屋から出させるかが鍵である。

「インタビュー?なんの?」

「ヒ、ヒーローインタビュー……」

 青少年に夢を与える、という点では、ある意味画面の中の女性は『ヒーロー』だ。

 彼自身気づいていないことだが、これらのビデオは、通常18歳未満の閲覧は禁止されているので、本来なら彼はまだ見ちゃいけないのだった。

「ふぅん。こんな華奢な女性が活躍できるスポーツってなんぞ?」

「……野球」

「嘘ぉ!?それはすごいのう!まさか女性が活躍できるとは」

「うん……」

 咄嗟に口を出たスポーツが、メジャーすぎて泣けてくる。

「そ、それより映画みにいけよ。チケット早めに取っとかないと混んじゃうぞ」

「まだ時間あるから大丈夫じゃよ。それより彼女がどんなファインプレーしたか同じ女としてみたいんじゃが」

「も、もう試合は終わったからなぁ〜。諦めろって」

 試合が始まりそうだから怖いんだよ!

「ハイライトあるじゃろ。それにしても最近のヒーローインタビューは私服でやるんじゃのう」

「……」

 テレビ画面では、『初体験はいつ?』なんてプライベートに突っ込んだ質問がされている。女優は恥ずかしそうに『中3の時、先生と』答えているが、彼が思うのは、日本の教師終わってんな、などという感想ではなく、ディスクよ早く壊れろ!という願いだった。

「むぅ、どういう意味じゃ?スポーツはよくわからん」

「バッテリーを組んだのが、先生とだったんだろ」

「ああ、なるほど」

 嘘です。この瞬間も嘘になればいいのに。

 彼が笑えない冗談を飛ばしている間も、刻一刻とタイムリミットは近づいてきている。

「も、もうなんでもいいから早く外に出てけ!早くしろ!間に合わなくなってもしらんぞ」

 彼の中で何かが吹っ切れた。

「え、なに、急にどうしたの?」

「爆弾だ!この部屋に爆弾が仕掛けられている!いいから早く外に避難するんだ!」

「そんなバカな」

「嘘じゃない嘘じゃないぞ!とてつもなくデカい爆弾だ!爆発すれば世界が、」

 室内に、テレビの中の女性の嬌声が響いた。

 快楽に溺れた、視聴者をいざなう魔の声音。

「……」

「え、なにこれ」

 爆弾は、爆発した。

 その爆風は、室内の時間を停止させ、真夏を真冬にする、奇跡の爆弾だった。


「なぁに、みとんじゃぁー!」

「うるせぇ!俺だって男だから仕方ないだろ!」

 リコの怒りの鉄拳により真っ二つになったDVDの横で二人は町中に響くのではないかという大声で叫びあっていた。

「カノジョがいるのにそんなものを観るなんて最低じゃ!浮気じゃ!裏切りじゃ!」

「うるせぇ!夏だから仕方ねぇんだよ!」

「季節は関係なかろう!」

「俺にはセミの鳴き声が『やらせろー!やらせろー!』にしか聞こえないんだ。そんなん四六時中聞いてたらおかしくもなるわ!」

「おかしいのはおぬしの脳みそじゃ!カノジョ持ちのする行為ではないわ!」

「昼間っから居間でゴロゴロする穀潰しのくせして、今更カノジョ面すんなよ!」

「ば、バカにしおって、私というものがいながらこんなもんに手を出すなんて最低じゃ!」

「その考えが可笑しい!男にとってそういうのは、カレシ居る女がアイドルでキャーキャー言うのと同じレベルのことなんだっつうの」

「わ、私に対して悪いとは思わんのか?」

「その質問事態意味不明だって。明太子食ってるときにスケトウダラに罪悪感感じるヤツはいないだろ。俺は明太子は好きだし、タラもタラで愛している。それを浮気というのは俺は絶対に認めないからなっ!」

「あ、愛してる……」

 リコの顔がみるみる薔薇色に染まっていく。

 どうやら純情な乙女にはDVDの内容は刺激が強すぎたらしい。 それを見て彼は泡を飛ばし熱論していた自分が恥ずかしくなった。

 考えて見れば、年齢不詳とはいえ、年端のいかぬ少女だ。男性に憧れを抱いているといっても過言ではない。そんな少女に現実を見せるのはまだ早すぎたのだ。

「……いや、わりぃ。今回の件は俺が完全に悪かった。DVDは捨てとくよ……」

 男の宝箱を手放す気はないが、一応体裁としてそう言っておく。

 素直な謝罪が効いたのか、リコもしょんぼりとつぶやいた。

「いいんじゃ。考えてみれば私も一度も藍に体を許さず、蛇の生殺し状態にしてたから……。健全な男子であれば、性欲が溜まってしまうのは当然のことだったんじゃ」

「ああ、わかってくれればそれでいいんだ」

「すまぬ。私が座敷わらしだから……。で、でも、の」

 たどたどしく、耳まで真っ赤になったリコは伏し目がちに続けた。

「じ、実体化、で、できるから。藍の望み、叶えられるから」

「え、それって」

「藍なら、私、いいよ。す、好きにして」

「リコ、お前」

「藍……、は、初めてだから、やさしく、してよね」

 そのあと二人は【ズキュゥン!】して【ドジャァン!】して【ポンピロピー!】。


 薄れゆく意識の中、彼の神経は現実から目をそらすよう妄想に逃げていた。

 DVDの内容がバレ、それが叩きわられてから食らった強烈なビンタ。飛びかけた意識を繋ぎ止めたのは大切にしてきた彼の宝物が、座敷わらしの驚異の第六感により掘り起こされていたからだった。

「そこ!」

「ああ、俺の団地妻セット…」

 机の引き出し。

「そこ!」

「マユちゃん、16歳…」

 官能小説。

「そこぉ!」

「嘘だ、ろ」

 押し入れの中の桃源郷。

 みな寂しい時、辛い時をともに乗りこえてきた戦友だ。それらが日の目を浴びるなんてあってはならない。

「ふぅ。こんなところかのう」

「リコ、おい、……」

 藍はすでに半泣きだった。

「これで全部かのう?」

「……うん」

「……」

「……」

「……そこぉ!」

「ああ、俺のロリータセットがぁッ!」

 床にズラリと並ばされた戦友たち。初めは頬を赤くして腫れ物でも触るように指先だけでつまんでいたリコだったが、最後には穴を掘るモグラのように率先してかき分けるようになっていた。

「よくもまぁこれだけ」

「ぅう」

「捨ててきなさい」

「はぁ!?」

 それらの処分を言い渡された。

 戦友を、殺せというのか!

「なんでだよ!なんで指図されなきゃなんないんだよ!横暴だ!」

「私がおぬしのカノジョだからじゃ」

「だからってやっていいことと悪いことがっ……はっ!」

 空気がリコを取り巻いていた。恐怖モードを発動するまえの空気が。

「……はい」

「わかってくれてうれしいのう」

 紙袋に戦友をつめ泣きながらゴミ捨て場に向かうことを強要される。

 灼熱に焦げたアスファルトに彼の涙が滴った。

「おれに、こいつらを殺すことはできない」

 拳は握り過ぎて血が出ている(気がする)。

「避難させてもらおう」

 彼はその足で親友の家に向かった。

 無理やり押し付けようという魂胆だった。


 その後、戦友は無残にも親友の手で不法投棄されることを彼はまだ知らない。




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