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メデューサ

作者: 目262

 ギリシア南部のサントリーニ島でホテル工事の最中に地下遺跡が発見された。考古学者達は調査隊を結成して現場に乗り込む。彼らが目にしたのは広々とした空間に無数に居並ぶ石像と、その奥にある玉座に腰を下ろす女のミイラだった。

 学者達は興奮した。火山島であるサントリーニは数千年前から大規模な噴火を繰り返している。これによって滅亡した古代ミノア文明の頃と思われる新遺跡と、当時の人間のミイラまで見つかったのだから。

 海に囲まれたサントリーニ島で遺体がミイラ化するのは珍しいが、その理由は後で考察すれば良い。これが歴史に残る大発見であることを誰もが確信していた。

 玉座を取り囲む様に配置された石像群はどれも若く屈強な全裸の男達で、その造りは精緻を極めており、ミケランジェロのダビデ像に匹敵する。その見事さに全員が感嘆したが、その内の誰かが不意に口にした。

「出来が良すぎる……。どの石像も、毛髪の隙間や体毛まで再現されているなんて……」

 その声に他の隊員が応じた。

「そうだな……。これ程精巧な石像を、こんなに沢山作れるものかな。まるで生きた人間が石像になったみたいだ」

「……そうすると、あの玉座に居るのはメデューサなのか?」

 別の隊員の言葉に、その場の全員が動きを止める。見た者を石に変える伝説の怪物。この状況にはぴったりな相手だった。

 薄気味の悪い雰囲気を、年長者である隊長の言葉が切って捨てた。

「当時、若い男の石像を集めるのが趣味の、大金持ちの女が居たんだろう。それが元になって、あの伝説が生まれたんだ。ここがその場所なのかも知れないな。さあ、仕事だ。ご婦人を外にお連れしろ。DNAを採取して、CTスキャンにもかけるぞ」

 一同は動きを再開して、玉座のミイラを慎重に運び出す。その頭部には当然ながら一匹の蛇も生えていなかった。

「蛇は居なくなっちまったみたいだな」

「俺達と同じで、家賃が払えなくなったんだろう」

「この発見を本に書けば家が買えるさ。その前に、記者会見用のスーツを借りなきゃな」

 彼らは軽口を叩きあいながら意気揚々と遺跡を後にした。


 研究所でミイラのCTスキャン結果を見た調査隊は絶句した。玉座の女の頭部には脳が残っていたが、その脳は通常とは大きく違っていた。大脳皮質が幾つもの渦を巻いており、それはあたかも、大小無数の蛇がとぐろを巻いている様な形だったのである。

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