表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

読んでいただいてありがとうございます。

 紅茶を堪能した後、アンジェラはキリアムに頭を下げた。


「先日は、失礼いたしました」

「先日というと、あなたの弟君のことですか?でしたら、謝るべきは往来でジェラール殿に変な言いがかりをつけた弟君であって、あなたではない」

「きっかけは私です。無関係ではありませんから。ですから、これは私がきっかけで騒動が起こったことへのお詫びです。私ではヴァージルの代わりにはなりませんから」


 昔から、家族の中での信頼度や重要度はアンジェラよりヴァージルの方が上だ。

 だから、アンジェラではヴァージルの代わりは出来ない。

 ヴァージルからしてみれば、自分が見下している人間が彼の代わりに謝ったなどという事実は認めたくないだろう。

 

「分かりました。では、アンジェラ嬢からのお詫びは受け取りました。ですが、弟君は別です。それでいいですね」

「はい。スーシャ様が介入してくれたおかげで、あれくらいの騒動で済みました。あのままだったらジェラール様に何を言っていたのか分かりませんでしたから、とても助かりました」


 大国であるフレストール王国の公爵家に喧嘩を売れば、いくら他国の伯爵家とはいえ無事では済まない。

 まして、売った場所が王国の人通りの多い道の真ん中だ。

 あれだけの証人がいる中で、自分の思い込みだけで喧嘩を売るような未熟な人間が自分の血を分けた弟だと思うと、ため息しか出てこない。


「確か、アンジェラ嬢はこの国の生まれではありませんでしたよね?あなたの発音は完璧だが、弟君の発音は少しおかしい部分がありましたし」


 初めて会った時に、半年ほど前にこの国に来たばかりだと言っていた記憶がある。

 あの日のアンジェラとの出会いは、けっこう印象的だったのでしっかりと頭の中に残っている。


「はい。私はディウム王国の出身です。私はこの国の方に直に発音を教えていただける機会に恵まれましたが、祖国の学校の講師にはフレストール王国出身の方はいらっしゃいませんでしたから」


 外交官などを目指している人なら自分でフレストール王国出身の人間を雇ったりして発音も完璧にしていたが、それ以外の人間は学校で習うくらいの発音で覚えている。そうなると微妙に違うのだ。通じないことはないけれど、フレストール王国の生まれでないことはすぐに分かってしまう。


「あの子の発音は学校で教えてもらったものなので、こちらの発音とは少し違います。この国に来てまだ日が浅いので、直っていないようです」

「そうですか。まぁ、俺も他国の出身なのであまり人のことは言えませんが」

「え?スーシャ様はこの国の出身ではないのですか?」

「えぇ。妹がこの国の伯爵に嫁いだのを機にこちらに移ってきたんです。騎士はどの国でも需要があるので、仕事に困らなくて助かっていますよ」


 キリアムがそう言って笑うと、アンジェラもつられたようにくすりと笑った。


「義弟のコネだと言われないよう必死に仕事をしている最中です。真面目に仕事をしていないと妹にも叱られますので」

「ですが、すでに第二騎士団の副団長をしていらっしゃるのでしょう?スーシャ様が真面目で優秀な方であることを、皆様、ご存じなのだと思います」

「はは、嬉しいことを言ってくれますね」


 キリアムは笑うと少し子供っぽく見えるので、令嬢方にも人気があるのだろう。

 そういえば、最近、学園でも騎士団の話題をしている令嬢が多い。

 ……皆さんのターゲットに、この方も入ってそう……。

 騎士団に関わることなどあまりないので気にしていなかったが、彼女たちの話を聞いていればキリアムがどういう人なのかも分かっていただろう。

 ここに来るまでの間、肉食のお嬢さん方に姿を見られずに済んだ。

 帰りも絶対に見つかりたくない。

 こそっと誰にも見つからないように帰ろう。

 万が一見られて、変な噂が立ったら困る。

 後見人の宰相閣下なら、変な噂くらい片手間に処理してなかったことにしてくれるかも知れないけれど、基本はなるべく自分の手で何とかしたい。

 この国に来るまでに色々と世話になったのだから、これ以上、迷惑はかけたくない。


「スーシャ様、もし弟が皆様方に迷惑をかけるようならば、ディウム王国のトウニクス伯爵家に抗議してください。あの子はトウニクス伯爵家の次男ですから。……両親は役に立たないと思うので、兄のブレンダン・トウニクス宛にしてください」


 最後の最後で少しだけまともな会話をすることが出来た兄ならば、ヴァージルを叱ることも出来るだろう。あの一家の中で、唯一話し合いが出来そうなのは兄だけだ。


「ブレンダン殿だな。分かった。……失礼だが、その、アンジェラ殿とご家族の関係は……」

「良くはありません。家族の中での忌み子、それが私の立ち位置でした。ですから、私はあの家を出て、この国に来たんです。兄との関係もあまり良くはありませんでしたが、出てくる時に少しだけ話をしました。多分、兄ならば大丈夫です」


 アンジェラは最後に会った時の兄の何とも言えない顔を思い出した。

 痛みを堪えるような、どうしていいのか分からなくなっているような、大人のくせに迷子のような顔をしていた。

 兄の顔がちょっとだけ、キリアムと初めて会った時に一緒にいた迷子の子供に重なった。

 そのことが何となくおかして、アンジェラはくすりと笑った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ