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読んでいただいてありがとうございます。

「ジェラール様、アンジェラ、遅いから心配しました」


 ミュリエルがほっとした様子で出迎えてくれた。後ろにはクラスメイトたちの姿もある。


「今日のおやつにと思って焼き菓子を買ってきたんだ。アンジェラとは偶然、その店であったんだよ」

「すみません。個人的なトラブルがありまして……」


 アンジェラが申し訳なさそうな顔でそう言ったので、クラスメイトたちは互いに顔を見合わせた。


「トラブル? 俺たちが知っておいた方がいい?」

「はい。きっと皆さんにも迷惑をかけると思いますので……」


 ヴァージルが留学生として学園に通う以上、クラスメイトたちには迷惑をかけてしまう。

 アンジェラはそのことに対して申し訳なく思っていた。けれど、クラスメイトたちはあっけらかんとしていた。


「そっかー。まぁ俺たち、いつもアンジェラにお世話になってるしなー」

「そうそう。友人を見捨てるような人間にはなりたくないしな」


 あはははは、と明るく笑うクラスメイトたちに、アンジェラはぽかんとした。


「そうよ、アンジェラ。いつも私たちの方があなたに甘えてばかりだもの。こういう時は頼ってちょうだい。うちはこれでもフレストール王国の侯爵家なのよ」

「我が家は公爵家だな。君の実家がバルバ帝国の皇家とか公爵家でない限り、何とかなると思うよ」


 ジェラールとミュリエルも優しく微笑んでそう言った。


「……ありがとうございます……」


 家を捨て、祖国を出て本当によかった。

 あそこでは、アンジェラの言葉など誰も聞いてもらえなかった。

 誰もアンジェラを助けようとはしてくれなかった。

 手を差し伸べてくれたのは、他国の人間だった。

 その国で、こうしてたくさんの友人と出会えた。


「……詳しく語ってもいいでしょうか?」

「もちろんよ」


 アンジェラが何かしらの訳ありであることはミュリエルも知っていたが、今まで具体的なことは聞いたことがなかった。

 ミュリエルと出会うまでの間、アンジェラがどれほど傷ついてきたのか分からなかったし、いつかアンジェラの心の傷が少しでも癒えて誰かに過去のことを聞いてほしいと思った時には傍にいようと決めていた。

 どんな過去を持っていようが、それが今のアンジェラに繋がっているのなら決して否定はしない。

 少し広めの応接間に各々が好きな場所に座ると、アンジェラはゆっくりと口を開いた。


「私が生まれ育ったのは、ここより西にあるディウム王国です。ディウム王国のトウニクス伯爵家が私の生まれた家です」


 ディウム王国のトウニクス伯爵家。

 フレストール王国に来てからずっと思い出したくもなくて、口に出すこともなかった家。

 物心ついた頃には、アンジェラは他の家族とは隔離されていた。

 幼い頃はそれがどうしてなのか理解出来なかった。今も全て理解しているとは思っていない。

 けれど幼いアンジェラは、もっと良い子にしていれば家族の中に入れてもらえると本気で信じていた。

 今思えば、絶対にそんなことはないのに、その頃はそれだけを思って生きていた。


「……私と血の繋がりのある人たちは、皆、青色か緑色の瞳を持っています。けれど私の瞳は琥珀色です。たったそれだけの理由で、私は生まれたその日から隔離されて育てられました」


 父と母がアンジェラに嫌悪感を持って接したから、他の兄弟姉妹もアンジェラはそういう存在なのだと認識した。

 

『嫌だわ、その瞳。本当に大っ嫌い。どうして私のお腹の中からこんな瞳を持つ子供が生まれたのかしら。あぁ、嫌だ。こちらを見ないでちょうだい』

『本当に、どうしてお前は生まれたのだろうな。お祖母様にそっくりだ』


 アンジェラがどうのこうのということではなく、父母にとってはこの琥珀色の瞳そのものが嫌悪の対象だったのだ。

 いくらアンジェラが努力しようとも、父母がアンジェラを認めることなど決してないと悟ったのは、いつの頃だろう。

 それからは、どうやったら家を出られるかということだけを考えて生きてきた。

 そしてどれだけ忘れたいと思っていても、父母の言葉はその冷たく蔑んだ表情と共に、はっきりと思い出せる。

 父の祖母、アンジェラの曾祖母にあたる方とは会ったことはない。

 聞いた話によると、とにかく厳格な女性で、孫の父やその妻である母に対しても厳しく接していたらしい。父母と祖母が言い争っている場面を、何度も屋敷の者たちは見たことがあったそうだ。

 アンジェラが生まれる前に亡くなっているのだが、ようやくいなくなったと思ったら生まれた子供が祖母と同じ瞳の色を持っており、祖母の生まれ変わりのように思えて嫌ったのだそうだ。

 単純で、だからこそ根深い恨みが、自分たちに厳しかった祖母の生まれ変わりのような実の娘に向いた。

 自分が、よりにもよって一番嫌っていた存在の生まれ変わりかも知れない子供を産み落とした。

 その事実が、母は許せなかった。

 何かと口うるさかった祖母がようやくいなくなって自由になったのに、またもやぐちぐち言うつもりなのかと、父は祖母と同じ色の瞳を持つアンジェラを見るのを嫌がった。

 結果、父母の嫌悪感が家族全員に広まり、アンジェラを嫌う家族が出来上がった。

 そしてアンジェラを憎み蔑むことで、家族というものを保っていたのだった。

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