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読んでいただいてありがとうございます。

 ベルナルドにとって、アンジェラは特別な女性だった。

 そう気が付いたのは、アンジェラが逃げ出した後だったというのは皮肉なことだったが。

 図書館で出会った“アン”という少女とアンジェラが結びつかなかったのは、痛恨の極みだ。

 気が付いていれば、すぐにでも自分の家に連れ帰っていたのに……。

 当時はアンジェラという婚約者が嫌で、どうにか婚約破棄をして“アン”を出来れば婚約者に、もし出来なかったとしても彼が本当に愛する女性としてどこかで囲おうと考えていたのだが、そんなことは綺麗さっぱり忘れて、ベルナルドは、アンジェラは婚約者だから、と言って何度もブレンダンにその行方を尋ねた。

 その時は教えてくれなかったのに、今更どうして教える気になったのかは知らないが、連れ帰ればきっとあの時の“アン”のように接してくれるはずだ。

 彼女が“アン”と名乗っていた時は優しい友人として接していたのだから、彼女もそのことを覚えているはずだ。

 アンジェラとのことは……彼女の兄弟姉妹の口車に乗ってしまっただけで、そこは謝れば許してくれるはずだ。

 優しい“アン”ならば、あのちょっと困ったような笑顔で許してくれるだろう。

 アンジェラと一緒に帰れば父も何も言わないだろうし、サマンサのような軽薄な女と結婚することもない。

 何回考えても、ベルナルドにはアンジェラが必要だった。

 アンジェラにはベルナルドが必要ではない、ということは一切考えることなく、現状を変えるため、ベルナルドの将来のため、そして何よりベルナルド自身がアンジェラを欲しいから、ベルナルドはアンジェラを手に入れるためにどうすればいいのか考えていた。


「……他の男に笑いかける必要なんてないから……」


 見知らぬ騎士に向けられていたアンジェラの笑顔。

 その隣には、ヴァージルが立っていた。

 ……そのどちらも、ベルナルドのものになるはずだったものだ。

 アンジェラの隣に立ち、彼女に笑顔を向けられるのはベルナルドのはずだった。

 ブレンダンからアンジェラに近寄るなと言われたが、貴族ならば裏を読まなければいけないと教えられた。

 つまり、あれは、アンジェラを連れて帰って来いという意味なのだ、きっと。


「ブレンダン殿も意地が悪い」


 そんな遠回しに言わなくても、ちゃんと連れ帰るのに。

 そうなると逆に連れて帰って来いと言われたサマンサは、厄介者なのだからフレストール王国に置いていけ、という意味になる。

 アンジェラとサマンサの交換という形になるが、同じ伯爵家の姉妹が交換するだけなのだから、問題はないはずだ。

 アンジェラはさすがに嫌がるかもしれないが、婚約者である自分が迎えに来たのだから、帰るのが一番正しいことなのだと気付くだろう。

 全てを元に戻すのだ。

 

「さて、どうしようかな」


 ただアンジェラの前に姿を現したところで、アンジェラはすねてしまっているので素直になれないかもしれない。

 必要なのは、アンジェラが安心して婚約者である自分に甘えられる時間と場所だ。

 今のアンジェラの傍には、ヴァージルがいる。

 先日見た時は、子犬のようにアンジェラの後を付いていた。

 ディウム王国にいた時は、あれほどアンジェラのことを嫌っていたというのに、ずいぶんな変わりようだ。

 だが、アンジェラがいなくなった後のことを知っているだけに、ヴァージルはベルナルドとサマンサが結婚することは決定だと思っているだろう。

 そうなると、今更何の用だと言われてヴァージルが立ち塞がる可能性が高い。


「……仕方ない、サマンサに頼むか」


 協力してくれたら、フレストール王国に長くいられるようにブレンダン殿に交渉するとでも言えば手伝ってくれるだろう。

 あと、邪魔をしそうなのは、アンジェラの友人か。


「アンジェラに友人なんているのか?」


 こちらでの生活は知らないが、ディウム王国にいた時、アンジェラに友人と呼べる者はいなかったはずだ。いたら、彼女を多少なりとも助けようとしたはずだが、それがなかったということはやはり友人はいなかったのだ。

 そんなアンジェラが、いくら住む国を変えたとはいえ、友人が出来るとは思えない。いたとしても、打算が入った仲だろう。そんな人間なら、たとえ急にアンジェラがいなくなったとしても、祖国に帰ったと聞けば、それで興味をなくすだろう。

 だとすれば、友人の邪魔はない。


「友人はいないとしても、この間話をしていた騎士とは親しそうだったな」


 ヴァージルも交えて三人で何か楽しそうに話をしていた。

 正直、かなりイライラしたのは確かだ。

 騎士はさすがに厄介だ。

 たとえ何の役職を持たない騎士でも、騒げばそれなりに上が動く。ましてアンジェラは、他国の伯爵令嬢だ。誘拐だとでも騒がれると、本格的に騎士団が動く


「素直にアンジェラが説明してくれれば……手紙を残すように言うか」


 ベルナルドは全て自分の都合のいいようにしか考えられなくなっていた。

 思い描くのは、全て思い通りにいって自分に微笑むアンジェラの姿だけ。

 隣で笑っている彼女だけ。

 ディウム王国にいた時のアンジェラと、フレストール王国に来た後のアンジェラを同じだと考えていた。

 アンジェラが家族というものから解放されて取り戻した本来の性格、ここで繋いだ縁、その全てを無視して、自分の都合のいい未来しか見えていなかった。

 そもそもベルナルドが知っているのは、家の中で大人しくしていたアンジェラと図書館で真面目に勉強ばかりしていた“アン”だけだということにも気が付いていなかった。

 繋がっていた手を放してしまったから、アンジェラは遠くに行ってしまった。ベルナルドが手を差し伸べれば、もう一度、繋がると信じていた。

 ……アンジェラがずっと昔に、ベルナルドに向かって手を伸ばすことを止めてしまっているとも知らずに。

 

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― 新着の感想 ―
馬鹿だ馬鹿だと思っておりましたが、今回で更に馬鹿度が露見しちゃいましたね…。面倒くさい(溜息) 近付くなと言われた事とアンジェラさんが出国した後の会話を全く覚えてない様ですし、愚妹共々強制送還の刑を食…
“繋がっていた手を放してしまったから“ “もう一度繋がると信じていた“ いや、いつ繋がったんですかね? 図書館で勉強の合間にちょっと話してただけだよね? 別れも、アンの正体すら本人から教えてもらえなか…
以前のお話では、馬鹿だけどまだ救いようがあるかなと思っていたけれど、もう・・・ 自分の都合のいいようにしか考えられないところはもともとにしても、サマンサと同類に成り下がってしまった。 裏を読むって、自…
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