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読んでいただいてありがとうございます。遅くなって申し訳ありません。最近は、ずっとバルバ帝国に行ってました。

 王都全体を夕焼けが照らしている。

 冬のこの時期は、日が落ちるとさらに寒さが増す。


「図書館にいるとあっという間に一日が終わってしまって残念です」


 自分が吐く息の白さを見ながら、アンジェラが残念そうに言った。


「図書館にいると、どれくらいの時間が経ったのか分からなくなるからなぁ。俺も何度か司書の方に、閉館時間だから出て行くようにと注意を受けたことがあるよ」

「まぁ、スーシャ様も私と一緒なのですね」


 アンジェラも何度か注意を受けたことがある。

 おかげで最近は、すっかり司書とも顔見知りになった。


「キリアム、そう呼んでくれ、アンジェラ嬢。最近はよく会うし、妹とも知り合いになった人に家名で呼ばれるのはどうもむずがゆい」

「ふふ、ではキリアム様と呼ばせていただきます」


 身体を掻く様を見せたキリアムに、アンジェラはくすくす笑った。

 

「アンジェラ嬢は学園を卒業したら、どうするつもりなのかな?」

「王宮の文官試験を受けようと思っています。荒事は全く出来ませんので、騎士にはなれませんから」


 茶目っ気のあるその言い方に、キリアムも笑った。


「あはは、その気があるんだったら剣の使い方を教えるよ。でもその前に、基礎体力が足りなそうだけど」

「残念ながら、少し走っただけで息切れします。イスに座って書類を見ることは何時間でも出来ますが」

「俺たちはそっちの方が苦手だな。向き不向きというやつか」

「騎士の方たちの訓練を見学させてもらったことがあるのですが、すごいですよね。そもそも私だと、剣をあんな風に長時間持って振り回せません」

「腕力も体力も要る仕事ですから」

「……特に剣を向けられることもあると思いますが、怖くはないのですか?」


 アンジェラは普通に怖い。

 刃物の切っ先が自分の方を向いていたら、恐怖を感じる。


「慣れもあるけれど、怖いのはそれよりも自分が躊躇することで大切な人が傷つくことだよ。時には、命さえも落としてしまう。俺が恐怖を感じて一瞬でも動けなくなり、それで大切な人が命を落としたら、絶対に後悔する」


 一瞬、キリアムは痛そうな顔をした。

 まるで、かつてそういう思いをしたかのようだった。


「キリアム様……」


 そういえば、この方は妹君がこちらに嫁いで来たから、他国から移ってきたのだと言っていた。

 妹君は伯爵家に嫁いでいるので、おそらく祖国では貴族、それも上位貴族だったのだろう。

 それを捨ててまでフレストール王国に来たということは、きっと祖国で何かあったのだ。

 そう考えて、アンジェラはくすっと笑った。

 祖国を捨てたのは、アンジェラも一緒だ。

 アンジェラの場合は家族ごと捨ててきた。

 まぁ、ちょっと捨ててきたはずの弟が何故か追いかけてきたが、それは別としても同じ祖国を捨てた者にしては、ずいぶんと違うものだ。

 家族ごと捨ててきた者と、家族ごと異国に移ってきた者。

 そんな二人が何の因果かこうして出会って、隣を歩いている。


「アンジェラ嬢?どうかしましたか?」


 くすっと笑ったアンジェラに、キリアムが声をかけた。


「いいえ、何でもありません。ちょっと運命のいたずらとやらに笑っただけです」

「運命のいたずら?何のことか分からないけれど、何だか楽しそうだな」

「楽しい?……えぇ、そうかもしれません」


 アンジェラはさらにくすくすと笑ったのだった。

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