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読んでいただいてありがとうございます。

 アンジェラが部屋から出て行くと、キリアムはふぅと息を吐いた。

 騎士たちに熱を上げている令嬢たちとは違い、アンジェラはまだ学生なのにすごく落ち着いていた。

 若いのに、どこか全てを諦めているような雰囲気を持っている。

 かつての妹もそうだ。

 妹は元々大人しい女性であったが、あの事件以降、全てを拒むかのようにただ大人しく流されるままに告げられた言葉を受け入れていた。

 けれど元婚約者からのプロポーズは拒んだ。

 このまま結婚したところで何かの拍子にお互い嫌なことを思い出して破綻するだけだから、と。

 結婚せずに一人でいるかもしれない、と小さな声で言う妹に、兄を頼れ、と言うと泣いていた。

 それが変わったのは義弟と結婚してしばらくしてからだった。

 妹と義弟は、自分たちの結婚はしょせん傷の舐め合い婚だと自嘲していたが、そんなことはないと思う。

 実際、彼らの関係は少しずつ変化しており、妹は今、彼と一緒に船で他国に出かけるために身体を慣らしている最中だと笑っていた。

 いつか絶対、二人で東にあるセオリツ国に行くのだと笑顔で言っていた。

 義弟に誘われるまま祖国での爵位を親戚に譲ってフレストール王国に来たが、妹夫婦の仲は順調そうだし、キリアムもここでの生活を楽しんでいた。

 両親は義弟が持つ領地の一角で農業や花の品種改良にいそしんでいる。

 先日、新しい薔薇の品種を作っている最中だと手紙で書いていた。

 同じ祖国を捨てた者同士だが、アンジェラとキリアムは大きく違う。

 彼には愛すべき家族が共にいて、アンジェラにはいない。

 今のところ彼女に迷惑をかける弟にしか会っていないが、話を聞く限り、彼女は家族と上手くいっていない。唯一、兄がどうか、といったところだ。


「……兄なのだから、妹を守ってやればよかったのに……」


 色々な形の兄弟姉妹がいることは理解しているが、それでも、と思ってしまう。

 もし今ここにアンジェラの兄がいたら、説教からの拳での語り合いになりそうな気がした。




「おはよう、アンジェラ。スーシャ副団長に会えた?」

「おはようございます、ジェラール様。はい、会ってお礼を言うことが出来ました。ありがとうございました」


 年末年始の休みが終わり学校が始まると、教室でいつも通り気さくにジェラールがアンジェラに声をかけた。


「それにしても騎士団の皆様の人気はすごいですね。私はジェラール様の紹介状があったのですぐに通してもらえましたが、受付けで令嬢方が並んでおられました」

「みたいだね。騎士の方も令嬢方の応援があると張り切り具合が違うらしくて、練習の一般公開日はすごい人だよ」

「やはり、間近で会える騎士の方は人気があるんでしょうか?」

「外に出ることが少ない文官たちの恨みの声が聞こえるようだね」


 ははははは、とジェラールは笑っているがどうしても表に出てくる騎士たちに人気が集中し、文官たちの婚期が少々遅くなっている現状は、王国上層部が頭を痛めている問題でもあった。

 婚約者がいる者はいいが、そうでない者たちは、どうせ家に帰っても一人だし、という理由で職場に居座り夜遅くまで仕事をしている。

 最近は強制的に上司が仕事場から追い出して帰しているようだが、部署によっては上司がその手の人間なので、宰相が追い出しているという噂が巷に流れている。


「アンジェラも文官より騎士がいい?」

「私の理想は、仕事が出来る宰相閣下や外務大臣のオリヴィエ様です」

「……あの二人か……」


 ジェラールはフレストール王国のトップたちの顔を思い浮かべた。

 文官のトップとして国内外の全てを裁く宰相閣下は、女王陛下の右腕としてその辣腕を余すことなく振るっている。

 外務大臣のオリヴィエ卿は、宰相の従兄弟であり各国との調整役でもある。

 オリヴィエという名前なので女性と思われることもあるが、優しい顔をした腹黒い男性だ。

 各国で独自の人脈を築いており、その影響力は帝国の計り知れない。

 基本的に外国を飛び回っているので、王国国内で見かけるのが難しい人物だ。


「宰相閣下はアンジェラの後見人だから知り合いなのは分かるが、オリヴィエ卿とはどういう繋がりがあるんだ?」

「言いませんでしたか?そもそも私を助けてくれたのがオリヴィエ様です。オリヴィエ様がディウム王国にいらした時、たまたま図書館で出会って。フレストール王国の言葉もオリヴィエ様に教えてもらいました。とはいってもお忙しい方なので、ディウム王国には年に数回来る程度でしたが、その間も勉強出来るようにディウム王国にいるフレストール王国の方を紹介していただきました。この国に連れて来てくれて、宰相閣下に私の後見を頼んでくれたのもオリヴィエ様です」

「従兄弟だから、他国から引き抜いてきた優秀な女性を預けたのか」


 『人狩り』、という言葉だけ聞くと少々おどろおどろしい感じを受けるが、実際は、優秀な人間を王国に集めて王国を発展させよう、遊ばせておくのはもったいない、という名目で各国から人材の引き抜きを担当しているのもオリヴィエだ。

 最近はバルバ帝国と人材の取りあいをしていると聞いているが、アンジェラは彼のお眼鏡にかなった人物なのだ。


「オリヴィエ様の恥にならないようにしっかりと勉強をして、この国の文官になりたいと思っています」

「祖国に戻るつもりはないんだね?」

「はい。私はもうフレストール王国の者です」


 迷いなくアンジェラがそう答えると、ジェラールはにこりと笑った。

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― 新着の感想 ―
キリアムは、セルフィナのお兄さんか。ここでもつながるのね。 苦い恋シリーズ、好きでいつも読んでるんですが、 人物関係があちこちつながっていて、分からなくなってきたので メモをとりながら読んでます。 …
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