6-リアの過去
「俺、漫画描くのやめて、小説書いたほうがいいのかな」
俺の名前はイト。イト・バーレットだ。
「人間には適材適所というものがあります。あなたももうそんなことはやめて、小説を書くべきです」
リアはそういった。俺はこう思うんだ。漫画を描くことで救われる人間だっているのではないのかと。
「俺はこう思うよ。人間は皆やるべきことがあり、それを全うすることだという事。俺には漫画しかないのかもしれないなと」
「いいえ、違います。あなたは漫画の才能がないだけなのよ。今まで漫画を描いてそれが売れたことなんてあったかしら」
「ない。そうだよな。生きるのだって金がいる。いつまでもくだらない夢を追いかけても仕方がないのかもしれないな」
俺は漫画を描くのをやめるべきか迷う。漫画はすべてだった。俺の人生の半分は漫画だ。
「しかし、小説は好評みたいだな。なぜだかわからんが」
「それはあなたの小説が魅力的だからなのかもしれません」
「魅力か、思いもよらなかったな。こんな落書きみたいな小説が欲しがる人がいるなんて」
「それがあなたの才能なのかもしれません」
「絵がだめだ、話がだめだ。いわれ続けて、漫画を描いてきたが、小説はいいのか」
「今では見てくれる人がいるじゃない。あなたの小説を求めて」
「俺は漫画家になりたいんだ。夢を捨てて小説家になれるか」
そうだ。俺は小説家になりたいわけじゃない。
「あなたは書いてるではありませんか、小説を」
「そうか」
俺は何のために生きてるのかわからなかった。でも、漫画がすべてを変えた。
「おれは迷うよ。リア」
「あなたは持っている才能の取捨選択を強いられているのです。そして、選ぶことのできない選択を」
「小説か、俺にできるかな。文章を練るのは苦手なんだ」
「できるわよ」
リアがいなくなってから、俺は小説家になった。悔いはあるけど逃げ出しても意味がない。世の中そういうものだと理解している。