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9話 助手なら任せとけ

 さて問題です。

 まだ戦闘に役立たない俺は、探索においてどんな役割りをはたせばいいでしょうか。


「さあシュルスくん、私の助手を頼むぞ!」

「はいっ」


 正解はチャロアイトさんの助手でした。


 チャロアイトさんはノームという種族で小柄で見た目も幼い少女なのだけど、その実立派な大人の女性だ。かつては地底で穴を掘って暮らしていたと言われている種族だけあって腕力・握力が尋常じゃない。いたいけな少女だと思って手を出すと返り討ちにあうので気をつけたまえ。おっと口調が似てしまった。


 俺はパーティーの後方にお邪魔させてもらっている。チャロアイトさんから渡された荷物を持って、アベルたちの後に続いていった。なんだかとても懐かしい気分だ。パーティーに入りたてのころ、大きなリュックを背負って最後尾をぽてぽて歩いていたのを思い出す。


 大穴の底を仮に地下10階として、今日は9階を目指して移動している。天井は高く、広大な空間が続く。ごつごつした黒い岩肌ばかりの殺風景なフロアなので、ハーピーのような大きな魔物の襲来も遠くから発見できるだろう。俺たちは外周の岩肌にそって歩いている。たまに壁に穴があいていて大小さまざまな広さがあった。


「それにしても君は器用なんだね。水火土風のすべてを小さいながらも発現させたのはすごいよ。魔術に適正があったとしてもひとつしか出せない人も大勢いるんだ」

「威力がすごかったらもっとよかったんですけどね」

「そりゃあ高望みってやつさ」


 あはは、とふたりで笑った。

 本当にもう少しどうにかならないもんかなあ。


 俺が出せる土玉はさらさらの砂が集合した感じに似ている。指でつつくと形が崩れるから、これを大きな盾として形成しても強度はないに等しい。うーん、なにかいい手はないものか。


「この横穴、奥にのぼり坂がある。行ってみよう」


 横穴のなかは暗く、ダジライト鉱石のかけらを利用したライトを頼りにゆっくり進んでいった。地味につらいのぼり坂を長らくのぼっていくと、様相がまったくちがう場所にたどり着いた。


 あちこちに木が生い茂る林のような空間だった。空もある。太陽光が届かない場所なのにどうして、というのはもう無粋な疑問だ。ダンジョンだからという言葉ですべて片付けられる。


「……ここは9階ってことでいいね」


 これまでの道のりを詳しく書いておきたいというチャロアイトさんの要望で一時休憩となった。荷物をおいて適当なところに腰をおろし、それぞれ体を休めていく。


「シュルスさん、体は大丈夫ですか。痛いところとかあったら言ってください。治しますから」

「平気だよフローラ。ありがとう」


 あいかわずフローラは気の利く優しい子だ。思わず笑みがこぼれると、フローラもほほ笑んでくれた。ああ、癒される。


「シュルスくん、あれを出してくれ! あれだ!」


 癒しの時間は強制終了。俺はチャロアイトさんの助手をまっとうするためにせっせと働く。せめてここで役に立たないとな。




 ◇




 この9階もそれなりに広いエリアのようだ。ダンジョンの地下1階と2階はアリの巣のように入り組んだ通路と横穴という感じだったが、ここは10階と同じようにどーんと広い空間が広がっている。見たことない木々が茂り、むわっとするような熱気がある。


「傾向として、このような亜熱帯ジャングルに似たエリアには小型の魔物が多数生息している。そしてご覧のとおり資源にあふれた素晴らしいエリアでもあるんだ。ここを発見できただけでも大穴を降りた価値があるよ」


 確かに、ここは見るものが見れば魅力的なエリアだろう。ダンジョンから持ち帰ったものは高値で売れることが多々ある。危険をおかしてダンジョンにもぐるのはこの為だ。


「できればどんな魔物がいるか確認したいところだけど、無理は禁物だね。わたしとシュルスくんはこのあたりの採取をするよ。フローラくんも可能なら手伝ってほしい。いいかな、アベルくん」

「ああ、かまわない」


 チャロアイトさんに言われるがまま鉛筆を削いだり植物の葉を集めたり肩をもんだり代わりに絵を描かされたりと忙しく過ごしていた。




 魔物との遭遇もなく、順調に作業はつづいたのだが、突然ココポの鋭い声が響いた。


「なにか来ます! 武器を持ってください!」


 その場にいた全員に緊張が走る。俺はアベルから借りたこぶりなナイフを握りしめた。これくらいなら俺でも扱える。辺りを見まわし周囲の気配を探った。背後にいるチャロアイトさんも緊張した様子で目をこらしている。


 がさりと茂みをゆらし出てきたのは人型の魔物。それも既視感のある見た目に、俺の口からあいつの名前がこぼれた。


「ブタ男……」


 うすい紫色の肌と赤い目、ブタのような顔つき。しかし獣のように唸るそれに知性はまったく感じられない。手には棍棒をもち、腰まわりには何か動物の毛皮を巻いている。


 ちがう。ブタ男に似てるけどまったくの別ものだ。


「こいつはおそらくオークだ。アベルくん、可能ならばこいつの検体がほしい」

「了解。おまえらは離れてろ」


 オークは唸り声をあげつつ剣をかまえたアベルを注視している。魔物ながらに隙を見せたらやられるとわかっているんだろう。


「セルフィナ、こいつに数発食らわせてすぐに下がれ。下手に手を出すとヘイトをかって狙われる。シュルスたちを頼むぞ」

「わかりました」


 セルフィナは自分の周囲にいくつもの水球をだし、「ウォーターショット!」という叫びとともにオークを標的にする。一撃必殺の威力はないが相手の隙をつくには十分だった。


 アベルはすばやく相手の懐に近づく。しかし乱暴に振り下ろされた棍棒を剣で受けて顔を苦痛にゆがめる。


「アベル!」


 思わず叫んでしまった。ああいう愚鈍なパワー系の相手は俺の得意分野だった。俺が正面からぶつかってごり押し、その間に——


「うっせえ後ろにいろ!!」


 ふたたび大きく振りかぶられたオークの棍棒。がら空きになったその体にアベルは一閃を入れた。うめいてと後ろに一歩下がったオークだったが、その顔には憤怒の表情を浮かべている。切り付けることはできたが威力が十分ではなかったのだ。


 なんで俺はあそこにいないんだ。


 無意識に前へ出て行こうとする俺の肩を必死につかむ人がいた。「行かないで」と訴えるフローラに頭が冷静さをとり戻す。


「ガアアアアアアッ!!」


 オークは怒り狂ったようにぶんぶん棍棒を振り回した。アベルは次々に払ってはいるが防勢一方で攻めに行くことができない。


 俺の役割はなんだった。アベルがとどめをさせるよう時間と隙をつくることだ。考えろ。同じようにはいかなくても似たようなことはできるだろ。


 考えるんだ。

 女になってできるようになったこと。



「——砂ツバメ!!」



 俺の手の中から一羽のツバメがすばやく飛び去った。

 オークの顔めがけて一直線に飛び、ぶつかって砂を目の周囲にぶちまける。うまくいった。これで目を開けてられないはずだ。


「ウグ、アッ」


 オークの動きがとまった。


「アベル!」


 俺がそう言うのと同時にアベルはオークの体に深々と剣を突き刺していた。見事に心臓をひと刺し。ああ、こいつの一撃必殺はいつ見たってすごいな。力でごり押しの俺とは違ってスマートだ。


 ひとまず、オークは倒せたようだ。

 よかったよかった。

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