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6話 自分の才能がこわい

 打ち合わせのあと少しの自由時間となり、俺はアベルを呼び出した。


「腕相撲で勝負だ」

「……おまえ」

「しのごの言わずに勝負しろ。手ぇ抜くなよ」


 祭壇の石畳の上でお互いに寝そべり、上半身を起こしてがっちりと手を組む。おかしいな。なんでコイツがこんなでかく見えるんだよ。どうして俺の手はこんなに小さいんだよ。なぜか視界がぼやけていく。


 あっけなく勝負はついた。悔しい。




「腹筋の回数勝負だ」


 沈痛な表情をしたアベルにまた勝負を挑む。

 勝てなかった。




「じゃんけん」


 いやせめてここは運勝負なんだから勝てよ。なんで負けるんだよ俺は。




「……こっからあそこまで、競争」


 全力でやった。体は軽いからいい線いったけど、負けた。




 全敗した俺にアベルもどう声をかけようか戸惑っているようだった。だから俺が先に謝る。


「付き合わせて悪かった。ちょっと自分の程度を知りたかったんだ。こんなざまで申し訳ない。探索中はせめて足手まといにならないようにする」


「……泣くなよ」


 勝手に出てくるんだよ泣きたくて泣いてるわけじゃない。涙を拭おうとしたのか近づくアベルの指先をパシリと払った。やめてくれよ。笑い飛ばしてくれる方がまだいい。同情されるのは余計つらい。


「……ごめん。落ち着いたら戻るから」


 なにか言いたげだったが、アベルが踵を返しゆっくり離れていく。

 はぁーあ。わかってたけど、歯が立たないってキツいな。勝手に出てくる涙を乱暴に手でぬぐう。鼻がずぴっと音を立てた。




しばらくそうしていると俺にハンカチを差し出す手があった。


「ちょっとシュルスさん。今のは見過ごせませんわ」


 セルフィナだ。

 小生意気な表情でつんと言い放つが、渡されたハンカチは柔らかく優しい色合いをしている。


「あなたは今女の子なんですのよ。真っ向から殿方と勝負しても難しいに決まっています。体の作りが違うんですから」


 俺とアベルの勝負を見ていたらしい。第三者の冷静な意見はありがたいが、事実陳列罪だぞそれ。


「……じゃあどうしたらいいんだ」


「わたくしが魔術を教えてあげますわ。女の子になったんですもの、もしかしたらそっちに才能があるかもしれないでしょう? なくなったものは惜しいですけど、新しくできることもあるはずです」


 思ってもみない言葉に、俺はパッと顔を上げた。


「セルフィナ……」


「だからこれ幸いとアベルにくっつくのやめてくださいね。アベルったらまだ気にしてこちらをチラチラ見ているんですよ。まったくお優しいんですから」


「あっ、はい」


 こうして俺はセルフィナから魔術のあれこれを教えてもらうこととなった。




 ◇




 世間では魔法・魔術はとくに区別付けられずにいるが、ダンジョン関係者のあいだでは魔術という言葉で統一されている。


 外では使えないダンジョンの中だけの奇跡。適正はなぜか女性に多いが理由はわかっていない。


 とまあ、魔術にまったく理解がない俺でもこれくらいは知っている。


「いいですか、いわゆる魔力というものはこのダンジョン中にあふれています。私たちはこれを体に取り込み、魔術という形にして放出していると言われています」


 それもどこかで聞いたことがある。魔術には基本二種類あって、フローラたちが使う癒しの力と、セルフィナたちが使うエレメントの力だ。ようは水火土風などの自然の要素をはらんだもの。


「なんでダンジョンの外で魔術が使えないんだろうな。火とか水とか、ちょっと出す術ができたら便利なのに」

「それは外の世界に魔力がないからだと思いますわ。魔力をどうにかして持ち出す方法が今とても求めれています」


 なるほど。

 ちょっと話が横道にそれてしまったので改めて魔術の授業に戻る。


「魔術の基本は水火土風の四つで、使い手はだいたい水か風に偏りますわ。本人の資質や性格によって異なります」


 セルフィナは水がメインだった。魔物を攻撃するときも超強力な水鉄砲の要領で相手を打ち抜いていたし、使い勝手はよさそうだ。


「火は少ないの?」

「そうですね。男性魔術師で誰かいたかなと記憶してるくらいですわ。扱いが難しく、下手したら味方に飛び火してパーティーが火だるま。せまいダンジョンには不向きだとされています」


 ふむふむ。

 土の系統は土玉を作って投げつけたりするらしい。子どもの遊びかよと思ったのは内緒だ。セルフィナもあまり詳しくないのでもっと有用な使い方が他にあるかもしれないと言っていた。そういえばブタ男も魔術っぽいのを使っていたけど、あれは何系になるんだろう。それにあの光のドームもなぞだ。


「じゃあ早速実践といきましょう。魔術師の素質がある人はダンジョンに入った瞬間、なにかしらの力を感じますわ。シュルスさんはどう?」

「わからないです先生」


 こちとらダンジョンの中で突然女にさせられたもんで。感じるもなにもありません。


「では素質があると仮定して進みましょう。あなたにどの属性が使えるかをみます」


 まずて手のひらを上に向けます。

 次にいずれかの属性を頭の中でイメージします。

 魔力を練ります。

 それを手のひらの上にだします。


「魔力を練るって……」

「こればっかりは説明がしづらいのです。はい、とっととやる」


 適正が大きいものほど発現量が立派らしい。セルフィナがはじめてこれをやったとき、大量の水が噴きだして周囲がずぶぬれになったそうだ。


「ようし! 俺はやるぞ!」


 まずは水。

 ショットグラス一杯分くらいの水が手のひらの上に浮かんだ。ひとくち水を飲みたい時に最適だ。


 つぎに火。

 マッチ棒の先にともった火って感じだった。タバコの火をつけるのにちょうどいいな。


 そのつぎに風。

 手の上でそよ風がふいた。暑いときにもってこい。


 ここまでは完璧なほど雑魚だった。

 まったく使えないよりはマシだけど。



 最後に土。


「う、わっ」


 こぶしくらいの土玉が湧き上がって浮いている。表現がおかしいかもしれないけれど、水が沸き上がるようにボコボコと土が玉になっていったんだ。どの属性よりも反応はあった。まさか土とは。辺り一面を水浸しにしたセルフィナとは魔術師の格が大いにちがいそうだが、そうか、いざとなればこれを敵に投げつけることができるわけだな。


「やったじゃない、シュルスさん」


 セルフィナがめずらしく笑顔でほめてくれた。いつもそうしてたら可愛いのになあ。




 ついでにフローラも呼んで癒しの力が使えるかどうかを一緒にみてもらった。ここで俺の偉大なる癒しの力が発現、最強ヒーラーの爆誕か! と心を躍らせたが、結果才能ゼロでおわった。


 まあね。

 そんなことだろうとは思ってた。

 しくしく。

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