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43話 いざトムじいとダンジョンへ!

 翌日。寝袋やら食料やらを詰め込んだ重いリュックを背負い、槍もばっちり装備した上で俺はダンジョンへ向かった。ちなみに今日もバッチリかわいい。


 エントランスに着くと周囲がにわかに騒がしい。どうしたんだろうと辺りをうかがっていると知った顔があったので人をすり抜けて会いに行った。迷宮カメレオンに襲われてた冒険者たちだ。


「おーい」

「わ、シュルスちゃん」

「なにかあったのか?」

「それが……」


 聞くと、いくつかのパーティーが昨日から帰っていないらしい。単に長引いているだけならいいが、ウワサの件もある。魔物にやられているのかもしれないと話していたそうだ。


「巨大スライムも出たって話だし、方針とか役割とかいろいろ話し合ってたとこ。こないだはカメレオンにやられて成果を上げられなかったから、今度こそね」

「なるほど」


 こいつらのパーティーは《こぐまのしっぽ》という名前らしい。かわいいねと言ったら、だまって立っていた熊男が嬉しそうな顔になった。命名はこいつか。


 今のところ五人構成で魔術師と弓使い、剣士がふたりと盾役権荷物持ちがひとりで、先日いたナビゲーターはここのダンジョンに詳しい人を臨時で入れていたそうだ。バランスは悪くないと思うけど、やっぱり斥候がほしいとこだよな。敵の気配にいち早く気付いて注意を呼びかける存在は大きい。


 先日の教訓から、先頭と後尾に見張りをかねた剣士を置いて、魔術師の近くには盾役。弓使いには索敵能力の素地があるので前の方に出て経験を積んでいく、というのが今回の方針のようだ。


「うん、悪くないと思う。がんばれよ」

「おう!」


 男どもと歓談していると、いかにも魔術師のお姉さんが俺に話しかけてきた。


「この前は助けてくれてありがとう」

「いいってことよ」

「……あなた見た目のわりに男っぽいのね」

「まあね」


 ちょっと前まで男だったから。あはは。内心でそんなことを思っていると、魔術師のお姉さんが複雑そうな顔で俺を見つめている。


「信じられないわ。あなたみたいな女の子がひとりで魔物を倒しただなんて。よっぽどすごい槍の使い手さんなのかしら」

「いいや、槍ははじめたばっかり。俺は使える魔術もしょぼいし力も弱いから、どうにか強くなりたくて足掻いてる途中なの。迷宮カメレオンが倒せたのは相性がよかったからだよ」


 実のところ、俺は周囲に恵まれている。

 魔術や槍の基礎を教えてくれた人がいて、気付きややる気をくれる人がいて、実戦形式で昇華させてくれる相手がいる。だからやれるとこまでやってみたい。


 それじゃ、と別れて俺はひとりでダンジョンの地下へ向かう。入場料を払ったあと、受付のお姉さんに連泊する旨を伝えておいた。その方がギルドの人たちもやきもきせずにすむだろう。


 エントランスから地下へのびる下り坂を歩くときはいつも緊張する。地面や周囲の岩の質がちょっとずつ変わっていくのを感じながら、一歩ずつ足を進めていく。だんだんと緑の匂いがしてくる。鼻奥がツンとするような葉っぱの匂いだ。


 トムじいとはいつもの広場でだいたい落ち合っていたのだけれど、どこで張っていたのか、生垣の迷宮に入ってすぐ現れた。


「うむ。準備万端じゃな」

「おうよ」


 神出鬼没だ。

 俺は手に持っていたあるものをトムじいに差し出した。


「はいコレ。昨日倒してたスライムのお金で買ってきた。お酒好きかなと思って」

「おお~気が利くの!」


 トムじいが嬉しそうに俺から小さな酒瓶を受けとった。コルクをきゅぽんと抜くとアルコールの匂いをかいで上機嫌に笑った。


 その反応を横目でじとーっと見ながら、俺はいろいろと考えてしまう。なんでゴブリンであるトムじいがお酒を知ってるんだろう。この調子じゃ味も知ってる。そもそも言葉がしゃべれる魔物ってなに。なんでそんなに強いのかも謎。それにトムじいって名前もなんだよ。トムってもう普通に人の名前じゃん。……聞きたいことが山ほどあるけど俺はなんとか飲みこむ。今回の目的もそうだけど、トムじいが話してくれるまで待つ。ひとりじゃ抱えきれない自信がある。俺そんなに頭よくないし。


 あ、抱えきれないと言えば、これは聞いておかないと。


「ねえトムじい。女王アリの蜜のこと、冒険者のみんなに教えてもいい? 生死にかかわる貴重な情報だと思うから」

「好きにせい」

「ありがとう」


 よし、許可を頂いたぞ。女王アリの蜜なんて高価なものを買うのは珍しもの好きな富裕層だけだったけど、少しでも生存率があがるなら冒険者に使ってほしい。昔より死亡者は減ったとは言え、ダンジョンは死と隣り合わせの危険な場所には変わりないから。


「……生き残るのもほどほどにしておくんじゃぞ。ダンジョンが機嫌を損ねるから」

「機嫌?」

「そうじゃ。もうだいぶ悪いがな」


 トムじいは酒瓶片手に俺の頭の上へぴょんと乗った。会話はおわりとばかりに口をぴったり閉じてしまった。


 ああもう、また聞きたいことが増えたじゃん!!




 ◇




 トムじいを頭にのせたままてくてく歩いて行く。うわさのせいか、ダンジョンはいつもより人が少ないようだ。地図を確認しながら最短ルートで下の階を目指していく。最短ルートとは言っても歩きじゃそれなりに時間がかかるから、魔物との戦闘をなしにしても地下三階まで行くのに二時間ってところだ。悪路でもないし、道さえ間違えなければ大丈夫ってことで俺は鼻歌をうたいながらどんど歩いて行った。


 昼寝でもしてんじゃないかってくらい静かだったトムじいが、地下三階へ降りたとたん口を開いた。


「おまえさん、巨大スライムがでたらどう戦う」

「いやまず逃げるよ」

「戦うとしたらじゃ」

「うーん……」


 俺の認識としては大きなスライムが集合したのしたのが巨大スライムだ。核がいくつかあって、質量も多い。あの粘性のある半液体の体は衝撃を吸収するから魔術師の攻撃は基本無効化されるんだよな。かといって接近戦はとりこまれる可能性大。体内にとらわれたら窒息死はまぬがれないし、となれば最も有効なのは投擲だよな。どんぴしゃで狙えるなら弓もいい。しかし残念なことに俺にはどちらも使えない。


「槍が通用する距離であばれまくるかな。取り込まれる前に切って捨てて、どうにか核を攻撃する」


 まあ勝ったとしてもスライムまみれになること必須だ。


「まったくスマートじゃないの」

「俺も思う。だから戦いたくない。トムじいだったらどうするの」

「……こうじゃな」


 トムじいが突然俺の頭から降りて、ぴょこんと地面に降り立った。それと同時に小さな石粒を発現させると生垣に向かって撃つ。トムじいが撃ったあたりからどろりとした半液体が垂れてきた。


「うわ。いたんだ、スライム」


 核を狙い撃ちとか器用なことするよ。スライムは透明だから周囲に溶け込んでてわかりにくいし。これも厄介なとこだな。


「スライムに死角がないことは知っとるじゃろ。何に反応しておると思う」

「……考えたことなかった。じつは目があって全方位見えてるとか」

「ちがうな」


 こっちにきて見てみい、とトムじいが先ほど倒したスライムのところへ俺を呼ぶ。まだ完全に動きを停止していないスライムがうにょりと垂れている。うーん気持ちわるい。


「手でも足でもいいからスライムに近づけてみい。わしも同じようにやるから」


 俺は素直に手を近づけてみた。飛びついてきたらどうしようとか考えながら。


「……なんか俺のとこ来てる」


 同じように手を出しているトムじいがいるのに、スライムの残骸は俺のほうにゆっくりとその身を伸ばした。しかしそれもhほんのちょっとで、すぐに動かなくなってしまった。死んだな。


「トムじいが魔物だから?」

「あまり関係ない。しかしスライムはわしとおまえさんを区別している。目で見えるものじゃなくてな」

「魔力のあるなしとか」

「もっと分かりやすいのがあるじゃろ」


 言うや否や、トムじいが俺の胸をがばりともんだ。


「こんのエロじじい!!」


 俺はトムじいの小さな頭を掴むとそのまま宙へ放り投げた。手にはひんやりとした温度が残る。トムじいは体温が低いのかいつもひんやりしてる。


「……ひんやり? もしかして温度かな」

「その通りじゃ」


 いつのまに戻ってきたのかトムじいの手が尻をまさぐる。


 俺は今度こそトムじいを槍で吹っ飛ばしてやった。ナイスミート!!

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