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37話 見出した可能性

 迷路を構成する植物の壁はきれいに刈り込まれた植木のようで、横幅2メートルくらいある。ひとりで歩くぶんには閉塞感を感じない。植物の高さは3メートルくらいあるのかな。太陽はないけど晴れた日の空みたいな明るさがあって、散歩みたいで気持ちがいい。


「……そういえば」


 サラは光出したんだよな。俺も出せるのかな。

 そう思って歩きながら手のひらを出して光の玉をイメージする。


「うわでた」


 小さい光の玉だ。やっぱりサラは天才だな。これがあれば苔ムカデたちを焼き尽くしてしまった地獄の悲劇はもう繰り返さずにすむ。しかしブタ男も光の槍みたいなの出してたけど、これとはちょっと違う。ブタ男にしかできないって可能性はある。でも魔術は俺が思っている以上にいろいろできるんだ。


 まずはグリーンメイズにちょこちょこ点在する広場へ行こうと思う。約8キロ平米のエリアに11か所ほどあって、それぞれ番号を振ってある。入口からほど近い第1広場はもしかしたら他の冒険者が使っているかもだから少し離れたところにいく行くつもりだ。第5広場なら三十分くらいでつくはず。その間はいつものように砂ツバメたちを出して魔術の練習しよう。


 頭に一羽、肩に二羽。セット完了。

 たまにぴよぴよ羽を動かす。


「む。ここで作ったらまた体の色がちょっと違うのかな」


 そう思って肩にいた一匹を手の上に移動させてまじまじと観察した。前のダンジョンで作った子よりも赤みが強い。


「ちょっと失礼」と羽の辺りをさわるとさらさらした細かな砂が指先についた。これは砂よりも目が細かい泥かもしれない。歩きながら足元を観察すると、地面は赤茶色でサラサラの土だった。雨でも降ったらねちょねちょの水たまりができそうな土。


 ふむ。俺はチャロアイトさんの助手で身についた採集癖を発揮させ、持ってきてた小さなガラス小瓶に足元の土をつめる。


「ダンジョンが変わるとこんなにも違うのか。おもしろいな」


 小瓶をポケットにしまって、俺は第5広場を目指しててくてく歩いて行くのだった。




 ◇




 到着した広場は思ったよりも広くて快適だった。子どもたちがかけっこして遊べるくらいのスペースはある。誰が持ち込んだのか木材で作ったベンチもあるし。


「よーし、ここなら大丈夫。可燃物なし、遮蔽物なし、魔物なし」


 ベンチに荷物を置いて袖をまくる。

 一呼吸おいて、まずは基本の四つを順に出していった。水、火、風、土。発現量は当初と変わっていない気がした。


 次に複数同時展開をためす。セルフィナはだいたい15、兵長アリは4。でもやっぱり俺にはできなかった。


 しょうがない。同時とはいかなくても随時展開していけば問題ない。クールタイムもないし。


 10個と決めて水、火、土を随時だしていく。問題なくできた。風は目に見えないから確認しづらいけどたぶんできてると思う。ついでに光もやってみた。これも大丈夫だったけど結構まぶしかった。


 コントロールを失うと、水と土はその場に落ちる。火と光は消える。風は散っていく。いちばん形が残っているのは土だ。ある程度形を整えた状態ならコントールを手放してもその場に残る。これは他の属性にはないメリットではないだろうか。


 せっかくだから土以外の魔術もどうにか使えないかと試してみた。水は相変わらず簡易シャワーにできるからよい。風も髪を乾かすのによさそう。火は野外で調理するのに使えそうだった。光はいわずもがな安心安全な光源だ。


 なんというか、対魔物というより快適な野営のための術だな。


 セルフィナの真似をしてウォーターショットをやってみたが、これは子供の水鉄砲レベル。兵長アリの旋風を真似してみたけどこれも微妙。やっぱり元の発現量がネックだ。量を増やせばいけるかもだけど……仮にセルフィナレベルの攻撃ができるようになったとしても、セルフィナがいるから不要だし。まったく無意味とは思わないけど、少数精鋭パーティーとしては同系列の攻撃手段よりほかの手立てがほしい。


 イーグルアイに今足りないのは相手の注意を引き、攻撃を受け止める盾。へっぽこな俺でもどうにかできないか、ずっとずっと考えている。




「やっぱり一番しっくりくるのは土だなあ。量も多いし使いがってもいい。ただあと一歩足りない」


 試すなら今だと思って、俺は土壁なるものを作ってみる。砂ツバメ三羽でレンガひとつ分かな。試行錯誤の段階なので時間はかけていい。幅が20センチくらいの薄めなレンガ状にしてからひとつずつ地面へ並べていった。だいたいで横に80センチ、縦に160センチ。レンガにしたら64個。砂ツバメで192羽。それで俺ひとりが隠れるくらいの壁ができた。


 作るのに10分くらいかかった。今のところ硬さはあるけどコントロールを解いたらわからない。というか限界だ。頭の奥がじんじんする。早く解かないと鼻血がでそう。


「ぷあっ」


 コントロールを手放した壁は自壊こそしなかったけど、さわってみるとあっけなく崩れる。槍を持ってきてしゅばばばっと矛先を当ててみるも即座に無残な砂山となった。


「うーん使えない」


 時間はかかる。負担はかかる。強度はない。

 しかし過程でわかったこともある。俺は砂ツバメをぶっぱなすだけなら200羽はいけるってことだ。あと集中を要する作業でも10分は継続してできる。


 俺は砂ツバメをだしてその辺りを自由に飛ばせた。途中で硬化をほどこすと急に動きがぎこちなくなってスピードが半分に落ちる。


 今度は赤茶レンガを作り、ツバメのようにあちこち飛ばしてみる。感覚的に非常に重い。スピードも遅い。でも自由には動かせる。


 ツバメを二羽分合体させて薄い板にしてみた。それを宙で動かしてみる。レンガよりも軽くて動かしやすい。次に宙に浮かせたまま硬化してみた。土の種類が違うからか以前のダンジョンより硬い気がした。その浮かせた状態で槍で総攻撃してみる。板はビクともしなかった。うっすら表面に傷がついているくらいだ。これはレンガが硬いのか俺の槍術がまだまだなのか。


「……となれば」


 俺は正面で槍を構え、ふたたび板を宙に浮かせる。板じゃちょっとあれだから砂盾とでも呼ぶか。


 砂ツバメより速さは劣るけれど、砂盾ひとつなら自由自在に動かせる。これは文字通り砂で作った盾だ。守備面積をごく小さくした代わりに可動範囲を俺が視認できる半径1メートルにまでできる。


 硬くしっぱなしだと動きが悪くなる。だから攻撃が当たる瞬間だけ。


「はあっ!」


 ガキンッと穂先が弾かれる音がした。

 ぶれた体制をすぐに立て直してすぐに突きを入れる。柔らかい砂盾になんの抵抗もなく刃は入るが、次の瞬間に硬化をさせる。すると槍自体の動きを止めることができた。


「……これだ。これが実戦で使えるようになれば」


 また、盾に戻れる。

 求めていた活路を見いだせた気がした。

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