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36話 さあダンジョンへ

 ジョンとサラは早速彼らとダンジョンに潜るらしいのでこの場で別れる。


「シュルスさん、ありがとうございました! このご恩は必ず!!」


 大きく手を振るジョンとサラを見送る。

 壮年の男が俺に軽く頭を下げてきたので俺も会釈を返す。この子たちをよろしくお願いしますね。


 その時、褐色の彼女と目があった。すぐにそらされちゃったけど、やっぱりキレイな人だ。名前はなんて言うんだろう。


 俺が男のままだったら声かけたのかな。普段は絶対そんなことしないけど……だって俺はアベルみたいなイケメンでもなかったし、女の人を喜ばすような気のきく会話とかできないし。


 でも、あの人だったら行っちゃうかも。玉砕上等。一生に一回だけやったナンパってことで後々語り継いだかもしれない。そんだけやってもいいって思える引力があの人にはある。


 いかんいかん、修行する身だというのに何を色気づいているんだ。俺は両手でぱんぱんと頬を叩くと気持ちを入れ直した。俺は強くなりにきたんだ。強くなって《イーグルアイ》のみんなと胸張って並びたい。


 一度エントランスを出て、宿を探すことにした。まずはこの背負っている大きな荷物を手放したい。ジョンたちの手前格好つけていたけど重くて限界だ。もうむり。肩にめり込む。歩きたくない。


 前に泊まったことがあるのは遠く離れているので、俺はダンジョンからほど近くてキレイな外観の宿にした。かわいい女の子のひとり宿だから多少お高くついても安心して眠れる所がいい。野郎ばっかりの庶民的なとこは気が楽でいいけど、いったん抑え込まれたらなす術がないのはアベルの件でよーくわかったから警戒するにこしたことはない。


 品の良さそうな受け付けのおじさんと話をして部屋を貸してもらった。期間は二週間。料金はまず一週間を先払いしたのでおじさんの心象もよい。


 お礼を言って借りた部屋へ直行すると、すぐさま荷物を下ろして服をぽいぽいと脱いだ。下着姿のままベッドへ上がってほっとひと息。


「……これからどうするかなあ」


 目を閉じて考えているうちに眠っていた。

 とても気持ちいいお昼寝だった。



 その後は通りへおもむき、フローラのセンスには及ばないものの動きやすい服を上下を二着ずつ選んで買った。当たり前だけどどっちもズボン。確かに俺はかわいいけども、積極的に女の子の服を着るのはちょっと違うかなって。


「これで当面のあいだ服は大丈夫。下着はあるし、靴も大丈夫」


 あとは細々したものを買ったら準備オッケー。


 一応修行と銘打っているものの、実はここのダンジョンで欲しいものがある。最下層の地下七階で採れるらしいラス鉱石だ。槍の穂先がこれの合成金属で、今後を考えて素材を持っておいた方がいいだろうと考えた。だからしばらくはダンジョンの表層を日帰りで行き来するけど、残り一週間は連泊しながらしっかり潜るつもりだ。


 現在時刻は夕方の四時ごろ。今日はしっかり休んで、ダンジョンにもぐるのは明日からにしよう。そう思って宿に戻って踵を返した時だった。


「お嬢さん。さっきはつれないから寂しかったぜ」


 にやけたツラの男が数人、俺のまわりを囲んだ。その中にはさっきギルドで見かけたチャラそうな男もいる。


「だからって男が複数人でかよわい女子を囲むか?」

「まあまあ、そう怒るなって」


 めんどくさい奴らに目をつけられたもんだ。でもサラがこの場にいなかったのはよかった。自分ひとりなら逃げようもあるだろう。


「なんの用」

「いやな。えらいかわいい子がいるってボスに報告したら顔が見たいって言うから。それに……オレもあんたに夢中っていうか」

「ボス?」


 待ってましたとばかりに周りのチンピラ共の目が光る。もじもじしだしたチャラ男はこの際無視だ。


「オークン・ファミリーのボス。モリスさんだよ。知らね?」

「なんか聞いたことあるような」


 嬉しそうに名前を教えるぐらいだからさぞや立派な青年集団なんだろう。無抵抗な女の子を野郎で囲むくらいには紳士的だ。そんな奴らをとりまとめるボスのモリス。……ああ思い出した。前にフローラに手を出したやつらだ。


「なんだ解散したんじゃなかったのか。それともあの町にいられなくなって移動したか?」

「はあ、おま、何言ってやがるッ」


 アジトにしてた建物も壊されたんだろ? いらんことやるからバチが当たるんだよ。なんにせよこいつらと関わってるひまはない。今はポシェットひとつの身軽な装備。面倒ごとになる前にさっさと逃げるべし。


「あ、ちょっと待って!!」


 俺は男たちのわきをすり抜けると風のように走って逃げた。この体は身軽でいい。ひとまず宿へ帰ったら大丈夫だろう。奥に怖そうなお兄さん控えてたし。どこの町にも自警団みたいなのがナワバリ張ってるるからよそから来た冒険者もでかい顔できないはずだ。


「ねえせめて名前教えて! ねえっ!」


 誰が教えるか。

 マナーがなってないっつーの。


 背後から聞こえるチャラ男の懇願めいた叫びを無視しまくって、俺は無事に宿までついた。念のために受付のおじさんに「変な男たちから声かけられて追われた。怖かった」とうるうる瞳とで訴えておく。「わかりました。もう大丈夫ですよ」と言ったおじさんは表情こそ変えなかったが、のそりと奥からやってきた怖そうなお兄さんに何か耳打ちをしていた。なんだかおおごとになった気がせんでもない。


 まあ俺はダンジョンに行くことだけに集中しよう。




 ◇




 翌朝、俺は最低限の荷物を持って宿をでた。おやつよし、水筒もよし。槍もしっかり持ってる。


 今日はダンジョンの表層にいって暗くなる前に戻る日帰りプランだ。入場料ぶんは稼ぎたいけど、今日のメインは自分がどこまでやれるかの確認である。


 サズ第三ビーミッシュ・ダンジョンは完全に網羅されてると言って過言でない。詳細な地図はもちろん、出てくる魔物の種類や特徴、とれる資源の情報などがとても充実している。過去の冒険者たちが作った休憩小屋なんかもいくつかあって、新しい刺激はないものの安定した資源回収が可能となっている。もっとも常駐している人からしたら目新しいものはないだろうが、よそから来る冒険者はそうでない。だから俺もちょっとだけわくわくしている。


 地下1階~3階はグリーンメイズと呼ばれていて、生垣がつらなってできた迷路になっている。4階はうす暗い森、5階はぽつぽつとした木々が生えた湿地帯、6階は巨大植物が群生する沼地、そして最終階の7階がごつごつした岩場からなる迷路になっている。


 まずは地下1階のグリーンメイズだ。地図さえあれば恐れることはない、てことでエントランスのギルド出張所にて地図を購入。ついでにダンジョンの情報をまとめてある図解入りの冊子も。高いけど情報は大事だよね。


 地下1階へつながる下り坂には検問所のようなものが取り付けられていて、そこで認定石を見せて入場料を払う。ひとり銀貨8枚。連日入り浸ろうと思ったら地味に痛い金額だ。ちなみにジョンとサラとでたくさん食べた昼食代は銀貨3枚である。


「では気をつけていってらっしゃい」

「いってきまーす」


 ギルドの職員さんに見送られて、俺はいよいよダンジョンへ足を踏み入れるのだった。

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