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35話 若いってすごい

 ジョンたちを仲間にしてくれそうな人たちを探すため、俺たちは通りでいちばん目立つ建物である冒険者ギルドへと足を運んだ。


 冒険者ギルドとはその名の通り冒険者がダンジョンへ挑むときのあれこれをサポートしてくれる組織だ。冒険者パーティーの登録やダンジョン資源の買取や販売、また採取依頼などのとりまとめなどをしてくれる。


「ここに掲示板があるだろ。こうやって依頼書なんかが貼ってあるんだけど、パーティーが仲間募集するときも案内を貼ったりするんだよ。ほら、これなんかがそうだな」


 メンバー募集の案内がざっと三枚貼ってある。


「うーん、募集しているのはどれも魔術師だな。わりといい金額で迎えてくれそうだけど」

「まだダンジョンに行ったことないから魔術が使えるかどうかわからないです」

「だよねえ」


 やっぱり自分の適性もわからずパーティーもなにもないよなあ。俺はガタイのよさを買われて荷物持ちに誘われたけど、ジョンたちはまた幼いし。下っ端の雑用も需要があるんだけど、募集するほどじゃないんだよな。ダンジョンのエントランスまで行って潜る前のパーティーに雑用いりませんかって声かけてみるかな。


 むしろダンジョン行って俺が魔術の適性があるかどうかだけ見てあげた方がいいのか。そうしたらジョンの武器選びも……ああ、際限がない気がしてきた。


「よお、お嬢さんたち。もしかして誰かのパーティーに入りたいのかな」


 俺が掲示板前で悶々としていたらチャラそうな男が話しかけてきた。


「……そうだって言ったら?」

「俺が所属してるとこにふたりだけ空きがあるんだよ。本当は加入するのに金貨三枚もらうんだけど、そっちの女の子ふたりならタダで話付けてあげてもいいよ」

「俺たち魔術も使えないし、弱いよ」

「いいよいいよ、かわいいから」

「じゃあ断る。さよなら」


 俺はジョンとサラの肩を抱いてさっさとその場から去る。ギルド職員の近くに行けば男もしつこく追いかけてはこないだろう。


「いいかふたりとも、ああやって新人や女の子を食い物にしようとする輩もいるから気を付けるんだぞ」

「……こわい」


 俺たちがかわいいのは確かだが、それだけで誘ってくる奴らなんて信用ならん。




 仕方がないのでその足でダンジョンまで行った。今日もそれなりににぎわっていて、出張所につめる職員さんやダンジョンから出てきた冒険者たち、人待ちをしているような冒険者たちをちらちら見かける。


 エントランスまでなら誰でも入れるので自分に魔術の才能があるかどうかはすぐわかる。なるだけ人目につかない端っこに行って俺はふたりにセルフィナ先生受け売りの授業をした。


「魔術使える人はダンジョンに入ると魔力的なものを感じるらしい。どう?」

「……うーん」

「よくわかりません」

「正直俺もよくわかんない」


 ふたりが「え?」という目で俺を見る。今まで信頼していた人物の評価が一気に降下したような空気を察知した。まずい。挽回しなければ。


「え、えーと、次はどのエレメントが出るか試すんだっけ。手のひらを上に向けてみて」

「エレメントってなんですか?」

「なんだっけ。自然界を構成する……火とか水とか、なんかそういうのだと思う」

「……」


 だめだ。しゃべればしゃべるほど生徒たちの信頼が下がっているような。俺は慌てて自分の手のひらをだして小さな火をともした。ふう、またキラキラした瞳に戻ってくれたぜ。


「こんな感じですか?」


 サラはそう言って、右の手のひらからまぶしく光るものを発現させた。


「ん???」


 あまりに予想外な出来事に俺は目を点にする。


「わあすごいよサラ、どうやったの?」

「光よでろーーみたいなこと考えてたら出たよ」

「…………んんん???」


 セルフィナ先生。俺、エレメントは四つしか知らないんですけど、なんかこの子ちがうの出しちゃってます。どうしたらいいですか。俺のとまどいにサラが困ったように口を開いた。


「だって、シュルスさんが自然界のなんとかって言うから……最初に思いついたのが太陽の光だったんだもの。これだってエレメントでしょう?」


 まさか……俺の説明が至らぬせいで、サラは自由な発想のもと光の属性を発現させたというのか。天才か。


「……そうか。俺はエレメントは四つだと教えてもらったけど、本当はもっとたくさんあるかもしれないのか。やってみる人とできる人があまりに少なくて今まで認知されていなかったのかも」


 俺のぼそぼそしたひとりごとなんてお構いなしにふたりはテンション高くいろいろ試している。


「火よでろーー」

「水よでろーー」

「野菜でろーー」

「風ふけーー」

「肉でろーー」

「夜になれーー」

「嵐よこいーー」

「雷おちろーー」

「氷でろーー」

「春になれーー」

「お金もちになりたいーー」


 す、すごい。これがしがらみのない発想。怖い。この子たちの才能が怖い。若さとは可能性のかたまりなんだ。だから大人は頭が固いとか言われるんだよ。この世界に必要なのはフレッシュな発想なんだよ。


「光以外でませんでした」

「俺はぜんぜんダメでした。あ、あれ、シュルスさん?」

「俺なんかが偉そうにしてすいませんでした」


 自分の矮小さにちょっとだけ泣いた。




 ◇




 はれてサラには魔術の才能があることがわかった。しかも光とかいう稀少な属性だ。これがなんの役にたつかと聞かれたら「安全に洞窟内を照らせる」と俺は声を大にして主張するだろう。あとは本人がどれくらい幅を広げられるかだ。


「そういえばパーティーの推奨人数は十人前後って聞いたことがあるんですけど、なんでですか? 十人といわずにもっと多い方が有利な気がするんですけど」


 ジョンがまたよい質問をしてきた。


「あんまり多いと連携しにくいっていうのはある。ほそい道が続くダンジョンなんてのもざらにあるからね。ただいちばん重要な理由はダンジョンに目を付けられるからだよ」


 ウソのようで本当の話。

 これもまたダンジョン七不思議。


「パーティー人数が多くなると魔物との遭遇率が飛躍的に上昇する。パーティーの機能と魔物との遭遇率を加味して推奨されているのが十人前後だ。資源回収をメインにせず冒険や調査だけだったら六人前後がいいとも言われている」


 過去にいろんなことを試して、わかったことがいろいろあるのだ。


「ついでに教えとくと、ダンジョンには中に入れる人数が決まってるんだ。それにも理由があって、一度にたくさんの人が中に入るとダンジョンの口が閉じるんだよ。ばくんってね」


 クジラが小魚をいっきにのみこむあれに似てるらしい。俺は見たことないから知らんけど。


 昔どっかの国が自分とこの兵士を小規模ダンジョンへ大量に投入した。そしたら900人くらいのところでダンジョンの口が閉じた。エントランスに待機していた兵士たちも合わせて1000人くらいが一気にいなくなった。ダンジョンがあった場所はただの土塊になっていて、その国は自国の兵士約1000人とダンジョン資源を一瞬にして失った。


 それからいろいろな事例も加わって、ダンジョンには一度に潜行できる上限を決めている。


「ちょっと話ずれちゃったけど、入れてもらいたいパーティーを見つけたらまず構成を見てみて。女の人がいるパーティーは魔術師か回復師がいる可能性が大だからおすすめだよ。獣人がいるのもいい。彼らは索敵能力や空間把握能力が非常に優れているからパーティーの危険回避につながる」


 なるほど、とジョンが納得した顔で頷き、辺りを見回した。


「僕、あそこの人たちに話しかけてきていいですか?」


 ジョンが指さしたのは人待ちをしている感じの冒険者パーティーだ。壮年の落ち着いた男を筆頭に装備をつけた男が四人、魔術師っぽい女性ひとりの。誰かを待っているようだ。全体で六、七人くらいかもしれない。


「うん。ここで待ってるから行っておいで」

「ありがとうございます。サラ、行こう!」


 ふたりはリーダーっぽい壮年の男に自分たちを売り込みにいったようだ。装備はしっかりしているし、パーティーの雰囲気としては悪くない。雑用でもいいからなんか仕事があるといいな。


「……あ」


 彼らが待っていたのは、食堂で見かけた褐色の美人だったようだ。彼女も冒険者なのかと少々おどろくが、この通りでひとりごはんを食べていたのだから、考えてみれば当たり前かもしれない。


 そうか、彼女がいるパーティーなのか。


 やや緊張した心持ちでふたりを見守る。

 サラが手のひらから光をだしてその場の人間を驚かせた。そうそう、アピールできるものはしていかんとな。そうこうしているうちに話はまとまったようだ。にこにこと笑顔を浮かべて俺に駆け寄ってくるふたりを見たら、なんとなく想像はつく。


「どうだった?」

「しばらくお試しで仲間に入れてくれることになりました! やったあ!」


 俺もつられてにやにやしちゃう。


「よかったな」

「はい!」


 これで俺もひと安心ってもんだ。

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