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29話 好きなもの見つけた

 

「久々にこいつがプッツンしてる姿見た」

「うわ……それは相手側がご愁傷様というか」

「シュルスさんのバーサーカー状態、妙な静けさと迫力があって怖いです。瞳から光消えるし」

「前はフローラさんを誘拐した組織を建物ごと壊滅させたんですっけ」

「はい、すごかったです。でもカッコよかった」

「このプッツンがなかったらリーダーにしてよかったのにと以前いた方がおっしゃってましたわね」

「あはは、シュルスくんは怖いなあ」



 なんか俺の話してる?

 ちがうか。俺そんな物騒なことしないもん。

 おだやかで温厚だし。


「むう……」


 話し声とゆっさゆっさと揺られる感覚で目が覚める。誰かに背負われてるのかな。人材的にアベルしか思いつかないけど。


「あ、シュルスさんが目を覚ましましたよ」

「目に光あるか?」

「大丈夫です!」


 なんのこっちゃ。


 みんなの顔を見回すと元気そうだった。

 笑顔を浮かべて話に花が咲いている。ということは危機は去ったってことかな。


 話を聞くと、あの床の崩落で俺たちは三分割されたらしい。俺とアベル、フローラとセルフィナ、ココポとチャロアイトさんだ。で、大活躍したのがココポだった。俺たちの匂いをたどって探してくれたらしい。迷路のようになっていたので時間はかかったが、魔物をボコボコにしていたセルフィナたちを見つけて合流し、さらに女王アリの所でくたばりかけた俺たちを見つけてくれたそうだ。


 それぞれの話は俺が眠っている間にみんなで共有されたらしい。


「ココポ、見つけてくれてありがとう」

「いいえ!」


 嬉しそうなココポの笑顔。尊い。


「アベルも体はいいのか?」

「問題ない。フローラに治してもらった」

「そりゃよかった」


 俺とアベルの荷物はフローラたちが落ちたところにあるらしいので、それを取りに今向かっているとのことだった。


「目え覚めたんなら降りるか?」

「……ううん。歩けそうにない」


 ごめん、ちょっとだけ嘘ついた。

 体はフローラに治してもらっているだろうし、歩けないってことはないと思う。だるいのは本当だけど。


 実は俺、誰かにおんぶされるの憧れてたんだよね。小さい頃に親父にしてもらったっきりで、大きくなってからはおんぶする側だったし。


 いいなあこれ。好きだ。


 思わずアベルの首に腕をまわす。

 もう少しだけ背中貸してくれ。


「うへへ」

「……ったく」


 ちなみに横から超絶冷たい視線が突き刺さっている。


「ちっ!」


 舌打ち聞こえてますセルフィナ先生。

 ごめんって。

 今日だけ許して。




 ◇




 全員それなりに回復したものの、ボロボロな身なりで出てきたもんだからエントランスで作業していた人たちがギョッとしていた。俺の服もヘンタイ切り裂き魔に襲われたかってくらい切れ目が入って血が滲んでいるので早く着替えたい。


「これにて依頼は完遂だ。みんな、大変だったけどありがとう。世話になったね」

「こちらこそ」


 ダンジョンの初期調査に随行できるってそうそうあるもんじゃない。ダンジョンに貼り出される要項には調査パーティーの名前が刻まれる。すごく名誉なことだよな。


 結果的に俺の息子とお袋と筋肉たちは奪われてしまったけれど、まあ生きていればこんなこともあろうさ。


「みんな、よかったらこれから私が泊まっている温泉宿に来ないかい? 温泉は気持ちいいし、酒も料理も美味しいよ。費用はこっちで出すから」


 温泉で疲れを癒して、かなり遅い昼食をたっぷりとろう、なんならお酒でもいっちゃうかって事らしい。


「ええ、ぜひ!」


 意外とこういうのに乗るのはセルフィナだ。

 家は裕福だろうにこういう奢りの席には積極的。ギャップがあっていいと思うよ。


 せっかくなのでみんなでお世話になることにした。聞くと俺たちが泊まっている宿よりだいぶランクが高いところのようで、ご飯に温泉に期待が跳ね上がっていく。


 一度荷物を置いていく人や直接チャロアイトさんと行く人、用事をすませてから行く人とバラバラになったので、ダンジョンの入り口でいったん解散することになった。



「ああ、そう言えばきみたち。ハートリー・スミスって人を知ってるかい」


 チャロアイトさんのひと言にアベルの体がぎしっと固まった。セルフィナも眉根を寄せてイヤーな顔をしている。知り合いなのだろうか。


「あの困った男がどうかしたのです?」

「いつだったかな、声高らかに自己紹介されてね。ここのダンジョンが解放されるのを心待ちにしているらしい。きみたちの知り合いだったらあまり無下にはできないかなと思って」


 アベルはノーコメントのようだが、代わりにセルフィナが教えてくれた。


「アベルさんの自称ライバルを名乗るめんどくさいヤツですわ。冒険者としては悪くないのですけど、横から女性をかっさらうのが趣味のサイテー男です。この町に滞在しているのならあんまり顔を合わせたくありませんわね」


 ほえー。俺も見たことくらいあるのかな。あんまりよそのパーティー気にして見てないから全然わかんないや。


「え、アベルさん彼女とられちゃったんですか」

「……いや、彼女っていうか」


 無慈悲なフローラの追撃にアベルが口ごもる。いいぞ、もっとやったれ。


「まあまあ。それよりも今は、温泉とお料理を楽しみにしていましょう?」


 さらっと話題を終わらせてくれたココポの手腕に感動しつつ、俺たちは今度こそ解散したのだった。




「はあー、この服もうダメかな」


 宿に戻り、無惨な布切れとかした服をなんとか脱ぐと、俺は白いワンピースを着た。高級なお宿に行ってもおかしくない服ってこれくらいしか持ってない。


 軽く顔を洗って、鏡を見ながら髪をくしで梳く。前髪や顔周りの髪を整えると、鏡面にうつるかわいい女の子がにこりとほほ笑む。


「よし、かわいい」


 ほんとはベッドに飛び込みたいくらいヘトヘトだけど、高級温泉と料理とお酒が待っているとあれば気力も増していく。


 身ひとつでいいし、時間が遅くなったら泊まればいいという太っ腹なスポンサーがお待ちなので、俺は宿のおじさんにひと声かけることにした。


「おじさん、今日俺たち帰って来ないかも」

「はいはい了解した。気をつけて行っといで」

「はーい」


 ここで俺たちのやりとりを盗み聞きしている奴らが割り込んできた。


「シュルスちゃん今日もいないの?」

「おしゃれしてる。かわいい。……まままさか、男とデート!?」

「うおおおお俺たちのシュルスちゃんが!」


 元気だなあ、おまえら。


「ちがうって。依頼主とみんなでお疲れさま会やるの。お高い温泉宿なんだ」

「なんだあ。ああ焦った」


 なんでおまえが焦るんだよ。


「……温泉だ、と?」

「入浴……」


 妙に懐いてるこいつらは前に知り合った冒険者たちだ。ちゃん付けで呼ばれるのはむず痒いけど訂正するのも面倒だしそのままにしてる。


「そいじゃいってきまーす」

「ほい、いってらっしゃい」


 楽しみだなあ。どんなごはん出てくるんだろ。

 お酒もおいしいだろうなあ。


「ナンパには気をつけて!」

「変な男に気をつけて!」

「酔ってお持ち帰りされないようにね!」

「はーい」


 すっかり心配されているが俺に限ってそんな事はない。どんなにかわいくても俺は男だからな!

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