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23話 海! 砂浜! サメ!

 休憩をはさんで地下三階へ続くであろう道をすすんでいく。

 進むにつれて空気がしめっぽくなっていった。ココポが言うととおり近くに水場があるんだろうが、ここで「懸念がひとつ」とチャロアイトさんが口をひらいた。


「となりの国に『リザ第五ブルック・ダンジョン』という放棄ダンジョンがあるんだが」


 放棄ダンジョンとは、発見したものの有用性を見いだせなくなって管理を放棄したダンジョンのことだ。


「そこはエントランスからすでに浅瀬の水場になっている。地下に進む穴がありそうなんだが、潜水の技術がないと難しい。ということで潜りに自信のある海の男たちが何人も挑んだ。そして無事にもどってきたのはごく少数。そこからとれた証言によると、水中でなにかに大きなものに襲われたということだ」

「水中の魔物か」


 もしかしたらものすごいお宝が眠っているかもしれないけど、歯が立たない魔物が相手じゃ無駄に命を散らすだけだな。


「どうしたって水の中で人は不利だからね。地下にもいけず資源も水のみ。立ち入り禁止にするにも人と金がいるので、ダンジョンは放棄され、今では地元の人気観光スポットになっている」

「それが無難だろうなあ」

「他にもエリア全体が湖のようになっていて、それ以降の階層を確認できないということはたまにある」


 つまり、俺たちが向かっている三階は湖である可能性もあると。そうなったらお手上げだろう。


「もしそうだったら釣りでもしようかな。うまくいけば魔物が釣れるかもしれない」

「あはは、それはいいな。まあ単に湿地帯や川ということもあるから、最悪こういう場合もあるってことで考えていてくれたまえ」

「了解です」



 しばらく進むと開けた場所に出た。

 その明るさに一瞬目がくらむ。


「うわぁ……」


 最初に目についたのは青い水面だった。

 広大な周囲はごつごつとした白いの岩壁に囲まれており、下にはひたすら湖が広がっている。足元をみると白くてキメのこまかい砂。入り口の付近は三日月型の浜になっているようだ。


 そして大きな湖の中央には、ぽつんと小さな島がある。


「あーー湖だあーー」


 がっくりとうなだれるチャロアイトさん。他のみんなもあちゃーという顔をしていた。


「まさかの最悪パターンでしたね。けどあの島までいけたら何かありそう」

「うむ、あの島は実に怪しい。うーん……島まで千五百メートルってとこかな。問題はどうやって行くかってことだが」


「あ、魚がはねた」


 しかしそれは魚というよりバケモノのように凶悪でデカいなにかだった。ギッザギザの歯が一瞬見えたような気がする。そいつは着水してもしばらくは背ビレを出したまま旋回し、静かに消えていった。


「……サメ型の魔物か。島まで千五百メートルが妥当なら少なくとも体長五メートルはありそうだ」


 チャロアイトさんの目に悲壮が浮かんでいる。

 確かサメというのは海にいる獰猛な大型の魚だったはず。この湖が淡水か海水かは謎だけど、とんでもない魔物を放流していることには間違いない。あれ一匹でもなさそうだし。


「水の匂いでかき消されて魔物の匂いがぜんぜん分からないです。ごめんなさい」

「気にするな」


 しゅんとするココポにアベルが声をかけている。やっぱり優しくはあるんだよなあ、あいつ。


「ながめはいいのですけどねえ」

「はい、とってもキレイです」


 セルフィナとフローラの言うとおり、景色はいい。入り口から続く三日月状の白い砂浜。周囲を岩肌に囲まれた青く美しい広大な湖。天井まで岩で囲まれているはずなのに、太陽があるかのようにさんさんと届く光。


 もしこんなところが地上にもあったら素敵だろうなあ。



 砂浜のあたりに危険はなさそうなので野営の準備をすることになった。時間は午後の二時をまわったぐらい。いったん腰をすえて作戦会議といきたいところだ。




 ◇




 チャロアイトさんはこれまでの道順をまとめたり三階の景色をスケッチしたいとこで、ひとり作業に入ってしまった。俺たちは手分けしてテントを張ったあと、思い思いに休憩をとる。ちなみに今回俺はどちらで寝るのか問題を解決すべく、ひとり寝袋を用意した。どちらのテントにも入らないほうが精神衛生上よい。


「シュルスくん、ちょっと採取をたのみたいのだけど」

「はい、おまかせあれ」


 小さな瓶をいくつか渡されて、それぞれに浜辺の砂や湖の水などを詰めていく。俺の助手っぷりもだいぶ板についてきたようだ。


「……砂かあ」


 俺はしゃがんで足元の砂に手を伸ばす。

 さらさらと気持ちいい手触り。ほんのり温かい。


 ずっと頭にのせていたツバメを右手の上に移動させると、まじまじとその姿を眺める。同じ砂だろうけどツバメの方は黒っぽい色をしている。俺は左手の上に新たなツバメを出してみた。


 白い。

 砂浜の色と似ている。


 二羽を並べて見ると違いは一目瞭然。


「ふしぎだ」


 魔術でだす物質ってどこから来てるのか不思議だったけど、もしかしたら近くにある素材を真似してるのかもな。黒い岩からできたのがツバメ1号で、白い岩が2号。このふたつは岩石の種類が違うのかもしれない。ってことはダンジョンのなかにはいろんな岩石があるかもってことだ。


 二羽を頭の上にやって、浜辺の砂を手にとってじーっと見つめる。よくよく見れば白い粒にまじって色のついた粒がある。水色っぽい粒だ。同じ種類には見えない。


 チャロアイトさんが言っていた通りなら岩と砂のちがいは大きさだけだ。ということはこういう色の岩石があることになる。湖の底に眠っていたりするのかな。


 それなら水底にある砂や石を採取しておこう。浅瀬でもいい。きっと浜辺よりも粒の大きなものがあるはずだ。


 思い立ったが吉日。

 俺は服をぽいぽいと脱ぎ捨て、タンクトップと下履きだけの身軽な姿になった。これなら多少濡れてもいいだろう。


 足先を水につけるとひんやり冷たい。

 水の透明度が高いので周囲に魔物がいないことも確認できる。あのバカでかいサメは体が大きいから浅瀬までこれないだろうし、俺はそろりそろりと足を進めていった。すると。


「シュルスさん、な、なにをやって……!」


 背後から慌てた様子のフローラが声をかけてきた。


「あ、フローラちょっと周り見ててくれない? 俺もうちょっと深いところ行きたくて」

「え!?」

「危なくなったらすぐ逃げるから」

「シュルスさん!?」

「大丈夫、じつは泳げるんだ俺」


 実家の近くに大きな泉があったからよく泳いでたのは懐かしい思い出だ。というわけで周囲にも危険がないことを確認して大胆に足をすすめていたら急に深くなった。胸のあたりまで水に浸かっている。そのはずみに口の中へ水が入ってきた。


「うっわ、しょっぱい」


 これ海水か!

 驚きつつも足の裏をさわさわ動かすと、浜辺とは少し違う触感がある。きもちザラザラしているような。よし、この辺りでいいだろう。俺は思いきって頭までもぐり、底にある砂を両手で持てるだけ持った。そしてすばやく浜へあがる。


「ぺぺぺ、しょっぱいなあもう」


 頭から垂れる水も塩からい。


 持っていた砂を浜辺におくと、やはり粒の大きさが違っていた。これも小さいことには変わりないけど確認はこっちの方が断然しやすい。


「急にもぐるからびっくりしたじゃないですか!」

「ごめんごめん、でもおかげでいいのが採れたよ」


 フローラに怒られながら、俺は魔術でだした水を頭からあびた。ひとつひとつはしょぼいけど、たくさん出せば問題ない。途中で海水の近くで出した水は海水なのかと思ったけど、そんなことなかった。ふしぎだ。とりあえず髪は念入りに洗いながしたし、これで大丈夫だろう。


「ちょっと着替えてくる。フローラも休んでて」

「もう、早くしないと風邪ひいちゃいますよ」


 ちょっぴりご立腹のフローラを見送り、俺は脱ぎ捨てた服を拾ってテントへと向かった。俺は慎みがあるから女の子の前でほいほい着替えたりしないのだ。


「……だからって俺の前で着替えるなよ」

「仕方ないだろ。むこうのテントじゃ恥ずかしいの」


 男テントのなかで着替えていたら、昼寝していたアベルが目を覚ました。こいつは俺のハダカを見ても眉根をよせるだけだ。


「さっさと服着てその貧相な体をしまえ」


 不機嫌そうに言い捨てるとアベルは再び目を閉じた。俺としてはすごくいい肉付きなのに、アベルからすると貧相らしい。解せぬ。


 というか、ちょっとくらい動揺してもよさそうなのにな。もし俺らの立場が逆で、女になったアベル(美人)が目の前でハダカだったら俺は挙動不審になる自信がある。中身がアベルとか関係ない。惚れたとかでもなくて、美人のハダカってだけでドキドキする。ハダカを見てしまった責任を感じて結婚とかいいだすかもしれない。なのになぜこいつはこうも平気なのか。


 ……そうか、これが女性経験の差か。

 切なくてたまらないぜ。


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