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22話 貧弱 貧弱ゥ

 地下二階までは簡易マップがあるため、魔物に注意しさえすればわりと楽に進める。この付近の魔物は最初に討伐している。小型の魔物はもうリスポーン時期に入ってもおかしくけど、それでも当初よりは少ないはずだ。なのでタイミングを見計らって聞いてみた。


「土と砂のちがいを聞きたい?」

「はい。よければ」

「ふむ」


 専門的な知識はもっていないと前置きをしつつも、チャロアイトさんは俺が知りたかったことを教えてくれる。


 まず砂というのは岩や石の小さな粒のことを言う。砕けたり風化したりで麦粒より小さくなった岩石のことらしい。さらにその小ささによって呼び方が変わる。


「砂よりも小さな、それこそ一粒の大きさが肉眼でも判別できないレベルになると『泥』と呼ばれる。さらに粒の大きさでシルトと粘土のふたつにわけることができるよ。粘土といったらレンガや焼き物の材料だね」


 明確な基準があるけど覚えてないらしい。きっと数字を言われても覚えられないから問題ない。


 大まかに岩→石→砂→泥(シルト→粘土)という順に呼び名が変わるようだ。石と砂のあいだにも砂利や礫といった呼び方もあるらしい。


「土というのは基本的に砂や泥にいろんなものが混ざった状態のものを言うよ。例えば腐った植物や動物の残骸とか目に見えない小さな生き物とかね。砂で植物は育ちにくいが土ではよく育つ、などいろいろ違いはあるだろう。もう少し難しい言葉でいうと砂は無機物で土は有機物だ」


 うーん最後のはよくわからない。命の気配があるかないかってことだろうか。


「じゃあ魔術でだす土って目の細かい砂のことですね。砂魔術じゃだめだったのかな」

「土には広義で大地や地面という意味もあるからね」

「なるほど」


 頭でもやもやしていたことが少しだけスッキリした。説明をちゃんと受けると砂と土はぜんぜんちがうな。聞いてよかった。


 魔術を使うにはイメージも大事な気がする。火や水はわりと単純にイメージを持てるけど、土って実は今まではあんまりピンときていなかった。今後うまく活用できるといいな。




 ◇




 このダンジョンは地表に近い場所からエントランス、地下一階、二階とさらに続いている。階層ごとに様相ががらりと変わるダンジョンは多いが、ここにいたっては一階二階そろってごつごつした岩壁に囲まれた巨大アリの巣のような作りになっている。


 なのでまあ虫系の魔物が多い。

 アリ、ダンゴムシ、クモが巨大化したような魔物だ。これがまあ女性陣に人気がない。というか冒険者全般に人気がないだろう。


「ん、魔物がいます。動きは感じません」


 ココポの鼻がひくひくと動く。

 というわけで通路をまがった先に魔物発見。


「ぎゃーーあいつ嫌いですわ!!」

「よーしまかせとけ」


 珍しく叫ぶセルフィナを横に、俺はダンゴムシの魔物に対峙する。足がいっぱいついてて気持ちわるいよな。


 ダンゴムシ型の魔物は攻撃を加えたり敵を知覚したりすると外殻をまるめて球状になる特徴がある。この丸まった状態がやっかいで、トゲのついた外殻がなかなか硬く、切り付けても刃がうまく入らない。しかもその巨体で転がって体当たりしてくるので無防備に受けるとそれなりにダメージをもらう。


 倒し方のセオリーとしては、盾役が攻撃を受けて動きをとめたあと外殻からわずかにのぞく頭の部分を剣で刺す、あるいは球状になる前に頭の部分を刺す、だ。特例として外殻ごと体をぶったぎるというのもあるが、これは脳筋仕様なので参考にはならないらしい。


 距離は四メートルくらいか。

 こいつは音に鈍いので大きな声じゃ俺たちに気づかない。しかし触角で空気の流れをつかんでいるらしく、近づこうものならすぐに球状モードだ。


「さあ行ってこい砂ツバメ」


 外殻の攻撃には敏感だけど、足元はどうかな。あらかじめ出していたツバメたちを静かに足元へ移動させ、足に砂がからんだところで一気に硬化していく。すると巨大ダンゴムシは動けなくなってしまった。こうなったら勝ちだ。相手が無防備な状態で助かった。


「ていっ!」


 俺は試しに槍のかわりのほうきの柄(改)でダンゴムシの外殻を叩いてみた。まあ手ごたえはない。むしろ俺の手が痛い。昔の俺だったら斧で一刀両断できてたのに。


「やっぱダメかあ」

「無理すんな」


 横でアベルがあっさりと剣でとどめを刺す。

 仕方ない、こういうのはアベルに任せよう。


「これは標本にできそうなくらいキレイな亡骸だなあ」


 チャロアイトさんはこういうのも平気だ。きらきらした目で見つめているが、彼女にとってはダジライト鉱石もダンゴムシのモンスターも等しく興味深いものなんだろう。


「盾がないのにあれを止めるってすごいです。さすがですシュルスさん」


 瞳をきらきら輝かせ、尻尾をぶんぶんふって、見ため乙女な少年が俺を全肯定してくれる。うれしい。大したことしてないのに。


 おお、俺の心のオアシス、ココポ。

 ありがとう、ありがとう。

 俺は倒してないけど。


「いい子だなあココポは」


 感動のあまりうりうりと頭をなでると、ココポはくすぐったそうに笑っていた。


「でもやっぱりすごいのはアベルだよ。俺じゃとどめは刺せないから」

「アベルさん、いつも通りかっこいいですもんね」

「うん」



 次に出てきたハチ型の魔物はセルフィナのウォーターショットで羽を落とし、アベルがとどめ。さすがのコンビネーションだった。


 その次に出てきたイモムシ型の魔物たくさんはアベルに全任せ。ああ、思い出すだけでも恐ろしい。俺はクモやムカデは平気だが、ああいう足が遅くてやわらかい虫は大の苦手なのだ。ありがとうアベル。


「体液でちょっとやられた。フローラ、回復たのめるか」

「ええ、おまかせください。ほかの皆さんもなにか不調があったら言ってくださいね」


 そうそう。あいつら柔らかいからあっさり切れるんだけど、体液がものすごく危険で肌がただれるんだよ。一度俺も追いつめられて半狂乱になりながら斧でぶっ叩いたんだけど、斧ってリーチが短いもんだから間近で体液を浴びちゃって右腕を筆頭に上半身が大変なことになった。なんて恐ろしい生き物なんだ。できれば二度とお目見えしたくない。


 気になるのは攻撃役から俺がいなくなって、アベルの負担が増えていることだ。まだ敵が少ないエリアは大丈夫だけど、やっぱり守りと直接攻撃ができる人が必要だ。できれば虫が得意な人がいい。求む、虫得意な人。



 ちらりと隣をみると、セルフィナがものすごくうらやましそうな顔でふたりを見つめていた。あいかわらずアベルにご執心なようだ。


「セルフィナってアベルのどこが好きなの?」

「全部ですわ」


 即答でこれとはすごい。

 ていうか答えてくれるんだ。


「スタイルよくて顔がよくて強くて頼りがいがあって収入もよくて優しくて誠実で紳士的で……あんな女性の理想を詰め込んだ殿方、だれもが好きになってしまいますわよね」

「う、うーん?」


 誠実で紳士的? まるきり否定はしないし俺も同感な部分はあるけど、自分に依存させるのが好きとか言ってて短いスパンで相手の女性がかわるアベルが……誠実で紳士的……? 言動は粗暴だけど実は優しいって言われたらめちゃくちゃ同意なのに。


 いや、俺が知らない一面があるのかもしれない。少なくともセルフィナはそう思ってるんだから。モテるのも確かだしそういうことにしとこう。



 地下二階の未探索地をうめるように歩いていると三階へ続いていそうな下り坂をみつけた。ココポいわく、下から水の匂いがするらしい。今回は地下三階以下の発見が優先されるので、さっそく下りていくことになった。


 はたしてどんなエリアが待ち受けているのか、やっぱりドキドキしちゃうよね。


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