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21話 ダンジョン再開

 

「おーい戻ったぞー……って、あれ?」


 宿に帰ってもアベルの姿はなかった。


 テーブルにはメモが置いてあり、「今夜は帰れないかも」と記してある。きっとどこぞのお姉さんといっしょに過ごしているんだろう。仕方のないやつめ。ご丁寧に、具合悪くなったらダンジョンに行けとかフローラを頼れとかいろいろ書いてあるけど、あいつこんなにマメだったったかな。


 仕方なしに俺はひとり今日買ったものを整理したり明日の準備をしたりと忙しく過ごした。夕飯をひとりで食べるのもなんだかなーと思い、下の食堂で陽気な酒飲み連中にまじって食べてたらお酒とか色々おごってもらった。聞けば新しいダンジョンの噂を聞きつけてやってきた冒険者らしい。


 酔ったひとりが武勇伝を語りはじめたので俺が聞き入ってると、オレも自分もといろんな奴らが武勇伝(?)を語りだした。魔物のよだれまみれになって仲間のハイタッチに自分だけ入れなかったとか、好きな子にいいとこ見せたくて頑張ったのに他所のイケメン冒険者に取られただとか。


「聞いてくれよシュルスちゃあん!」

「ちゃんと聞いてるよ」

「うわでたよヒューゴの泣き上戸」

「びえええええん」


 楽しいやつらだった。こういう場は大好きだ。



 夜も更けたので部屋にもどり、毛布にくるまって目を閉じる。アベルとは話せなかったけど、急ぐ話でもないから構わないだろう。





「おい、生きてるか」


 楽しく夢に浸かっていたのに、ひっそりとした声に現実へ引き戻される。その声音には心配というか、恐怖心がにじんでいるような気がした。


「……アベルか」

「具合はどうだ」

「わるくない、けど」


 昨日も思ったけど起こしてまで確認することか?

 いやそうか、はたから見たら寝てるのか気絶してるのかわからないのか。心配だったんだな。


「帰ってきたのか。今夜はてっきり……」

「仕方ねえだろ。女にフラれたんだよ」

「なにしたんだよ」

「知らん。向こうが急に機嫌悪くなって」

「そういうとこだぞ」


 俺は上半身を起こすとぐーっと伸びををした。寝入った時間からさほど経ってないようだ。


「体はたぶん大丈夫だ。今日も元気に動けたし。心配かけたな」

「大丈夫ならいい」


 アベルはベッドから離れると、はあ、と大きな息を吐いた。よくよく観察するとうっすらと汗をかき、小さく肩で息をしている。


「……もしかして走って帰ってきたのか」

「わりいかよ」

「俺が心配で?」


 俺に背中を向けたまま外着を脱いでいくアベル。指摘されたのがイヤだったのか不機嫌そうに言葉を返す。


「目を離ししたすきに仲間が死んでたらいやだろ。誰だって」

「それもそうか……」


 らしくないなあとも思ったけど、言われてみるとその通りか。昔からアベルは仲間想いのいい奴だし。




 いい機会だから、もうアベルに話しておこうか。


「アベル」

「……なんだよ」


 ちょっと緊張するけど仕方ない。大事な話だから。



「俺、今の依頼が終わったら少しのあいだパーティーを抜けようと思う」



 しんとした部屋に声が響く。

 小さくてか弱い女の声だ。


 どんな返事がくるだろうか。自分勝手なことを言っているので怒られる覚悟はあるが、逆に、この際パーティーから抜けてくれと言われる可能性だってある。それも覚悟の上だ。パーティー内のバランスを考えるならパワー型がひとりはほしいはず。今の俺ではもうその役割は担えない。


 アベルは相変わらず俺を見ず、しばらくの間があって「そうか」とつぶやいた。


「必要なら俺が抜けた穴を埋めてくれ」


「……わかった」


 仲良しごっこで互いの命を危険にさらすわけにはいかない。俺が言いたいこと、思っていることをアベルはきっと分かってくれているんだろう。


 それから寝るまで、俺たちはなんの言葉も交わさなかった。




 ◇




「やあシュルスくんおはよう、元気だったかな! 君の助手っぷりが恋しくてこの日が待ち遠しかったよ」

「おはようございます。俺も会いたかったですよチャロアイトさん」

「今日もよろしく頼む」

「こちらこそお願いします」


 今日もみつあみメガネのチャロアイトさんは元気だ。意欲が全身からあふれているのがわかる。前回はいろいろ発見があったから、今回も期待したいところだ。足手まといにならないよう頑張らないと。


「さてみんな。今回の調査だが、一泊二日の探索は事前に伝えていた通り。今日は地下三階以降の発見に注力したいと思う」


 ダンジョンの奥にある大穴は地下二階から十階までを直線でずどんとあいている。


 十階は距離から換算したおおよその数字なので、実際に何階なのかわかっていない。もしかしたら十階ではなく八階かもしれないし、十二階かもしれない。階数の存在はダンジョンの規模を把握するのに必要な情報だ。できることならそこまでの正規ルートを見つけつつ、正確な階数を調べたいところだと思う。


 今回も俺はチャロアイトさんの助手に徹底する。動きやすい服に靴、荷物がたくさん入るリュック。悩んだ結果、槍は置いてきた。その代わりに護身用の短剣と、杖の代わりにもなる長めの棍棒。ほうきを分解して棒だけにしたものだ。太さも長さもほどよくあって槍の練習になりそうだと思った。たいまつにもできるし、洗濯ものも干せるぞ。


 あと武器ではないけれど、俺が使える魔術も惜しみなく出していくつもり。


「さて、久しぶりにおまえも出しとくか」


 おなじみになった砂ツバメを頭の上にぴょこんと待機させる。いつだって修練だよ。


「相変わらずシュルスくんは器用だねえ」

「チャロアイトさん、ちょっとこの子にぎってみてください」


 俺の右肩にいた一匹をはばたかせ、彼女の手の中へぽすりと置く。


「……む。あったかい」

「ぬくぬくツバメです。ちょこっとだけ火であっためてみました」

「これはいいなあ。寒い日は重宝しそうだ」


 一応俺があつかえるのは水・火・土・風の四属性なんだけどいかんせん出力が弱い。いちばん大きいので土だけど、もろい。すぐ崩れる。それもこぶしサイズ。うーん弱い。役に立たねえ。しかしチャロアイトさんから器用だと褒められる程度には複数個出せるし、形もいじれる。それらを駆使した嫌がらせが俺の術の全てである。パッとしないぜ。


「ようし、では出発だ!」

「はいっ」



 ところで俺は最近、土とはなんぞやと考えることが多い。これは俺が土の魔術を頼りにしているからなんだけど。


 土と砂はどう違う。岩とはどう違う。


 俺はもともと農家の息子だから、土といって思い起こすのは畑の土になる。落ち葉とか灰とか腐ったくず野菜とかさらには虫なんかがいろいろ混ざったふかふかの土で、親父はよく「土は生きてる」と言っていた。


 でも俺の出している土の魔術って、そういうのとは少し違うんだよな。もっとさらさらしていて、それこそ砂っぽくて。だからツバメの名前は直感的に砂ツバメにしちゃったんだけど。


 そのあたりの理解を深めたら魔術をもっと有用に使えそうな気がするんだよ。悲しいことに俺にはあまり学がないので本もあまり読めないし、そういう機会にもめぐまれない。だから誰かに教わるしかないのだが。


「今日は新しい発見があるといいな。なあシュルスくん」


 詳しそうな人が目の前にいるから聞いてみるのもありだよな。

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