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18話 フローラとお買い物

 この町はマトロックと言ってもとは温泉が湧いてできた保養地だった。今までは観光地としてそれなりににぎわいを見せていたが、ダンジョンの出現により町は大きく沸き立っているようだ。


 俺とフローラは歩きながら店先の商品を見物していた。


「うわ、ダンジョンまんじゅうだって。まだ解放されてないのに気が早いんだなあ」


 新しく発見されたダンジョンは初期調査をして規模や危険度を確認した上で冒険者たちの参入が許される。ダンジョンがあるところに金と人が集まるとはよく言ったもので、過疎気味の小さい村でもダンジョンの発見から一気に栄えることが実際にある。だから国も地域の人間もダンジョン発見をたいそうよろこぶのだ。


「おいしそうですね」

「あとで買っちゃおうか」

「そうしましょう」


 今日の目的は俺の買い物で、フローラはそれに付き合ってくれている。女の子初心者の俺には何を買ったらいいかさっぱり分からないのでフローラの申し出は心の底からありがたかった。


「服のお店、あそことかどうですか?」

「いいね」


 寄ってみたお店には数は少ないけどちゃんと女の子用の服が売ってあった。


「やっぱりダンジョンのなかは動きやすい服がいいな。フローラはスカート丈が長いけど、それは教会の服だから?」

「はい。あまり肌をさらす服は持っていません」

「俺はそんなに長いとすそを踏んじゃいそう」


 フローラが選んでくれたのは丈の長い亜麻色のチュニックとすそにしぼりのついた白いズボンだった。どちらも柔らかく軽い素材でできていて、シルエットもシンプルながらかわいらしい。カーディガンと合わせれば暑さ寒さも調整できるといって、あわい若草色のそれも渡された。さすがフローラだ。ぬかりがない。


「……あと、こういうのとか、どうですか?」


 もじもじするフローラから手渡されたの白いワンピースだった。清楚な雰囲気で、これぞ女の子って代物だ。


「すっごくかわいい。けど、俺に似合うかな」

「私の見込みではすごく似合います。ええ、もう間違いなく」


 すごく真剣な表情で言われた。

 俺よりフローラに似合う気がするけど。


「じゃあこれも買っちゃおうかな。フローラが勧めてくれるなら間違いないし」


 ついでに勧められた白いサンダルも買うことにした。それにプラスして気になったものを数点買うとそれなりの量になったので別にお金を払って宿まで運んでもらうことにした。


 買ったものを全部お願いしようと思っていたらフローラからストップがかかる。


「せっかくですから今日はこれを着てあちこち回りませんか。きっと気分が変わって楽しいですよ」

「そ、そうかな」

「ええ」


 こんなキラキラした笑顔で言われて断るような元男がいると思うか。そうだ、いないのだ。こてこての女性ものだけどフローラのために着てみよう。羞恥心はポイだ。


 俺は店主にお願いして着替えをさせてもらい、アベルの服やらを宿直行便に加えもらった。さらばアベルの一張羅。俺の今の装いは清楚な白いひざ丈のワンピースとサンダルとなった。


 スカートの下はすーすーするなあ。

 太もものあいだを風が通り抜けていくよ。

 防御力もかなり薄い。


「どうかな、変じゃないかな」

「とってもステキですよ」

「かわいい?」

「かわいい」


 魔法のことば『かわいい』をもってしても不安だ。たいていの事はこの言葉で乗り切れるし勇気をくれるのに。しかしフローラの笑顔を信じよう。本当はかわいくなくて滑稽極まりない姿だったとしても、フローラがほほ笑んでくれるのならそれでいい。


「シュルスさん、次はこっちです」

「あ、わわっ」


 手を引かれて大通りに出る。


「ほらこっち、シュルスさん!」


 フローラは本当に嬉しそうで、こっちがニヤニヤしちゃいそうなほどかわいかった。




 ◇




 さて、目下俺が探しているのは新しい武器である。さすがにこの体で斧は厳しいからもっと軽くて使いやすい武器を探しているのだが。


「そもそも武器屋みたいなのがないな」

「困りましたね」


 大通りのはしっこ。露天で売っていた小さなりんご飴をふたりでかじりながら肩を落とす。


 もとが観光地なので冒険者向けの店がほとんどない。今回潜っているダンジョンが一般開放されたら自然とそういうのも増えていくだろうけど。


「おねーさんたち、何してるの」

「りんご飴たべてる」


 とってもおいしい。

 話しかけてきたのはちょっとチンピラの香りがする三人組の男だった。アベルよりも少し年下か。俺たちのかわいさに引き寄せられたのかもしれない。仕方のないことだ。


「ここらへんの子? 俺ら冒険者でよそから来たんだけど、よかったらごはんでも食べにいかない」

「いかない」


 ここまでそっけなく話せば大体脈ありかどうか察せるだろう。俺なら声をかけたことを一週間くらい悔やむレベルだ。しかし三人組は諦めることなく、むしろぐいぐいと距離をつめる。


「そんなこと言わずにさ。あ、じゃあさ、おいしいごはん屋さん知ってたら教えてよ」

「……」


 無言で視線をそらし会話しないですアピール。

 知らない人と即ごはんって怖いし。フローラもいるしあきらめてくれ。


「おっ、この子シスターじゃん。もしかしてダンジョンで回復職とかやってない? 俺らのパーティー絶賛募集中なんだよ」


 三人組のうち眉毛がうすい男がひょいっと横から顔を出す。フローラに目をつけたらしいが、彼女はにこりともせず小さく頭を下げた。


「申し訳ありません、ダンジョンに関係したことは全て私個人ではどうしようもできないのです。教会か、もしくは冒険者ギルドへお問合せください」

「あはは、硬いこと言う。いいから俺らにちょっと付き合ってよ」


 俺はさりげなくフローラの手をとって男たちと反対の方へ歩き出した。あんまり気分のいい奴らじゃない。まったく、男子としてのたしなみがなっていない。


「どこ行くんだよ。ねえ、ねえって」


 おまえらのいないとこだよ。


「おい、無視すんなや」


 ダメだこりゃ。

 俺もフローラもまわりの人も全員もれなく引いている。もしかしたらコイツらも面子潰されて引けないのかもしれんけど、そんな狭くて小さい面子なんて邪魔になるから今のうち捨てとけ。


 俺たちの行く先をさえぎるように男がひとり立ち、これ見よがしに腰にぶら下げる剣に手をかける。


「なあ、おねーさんたち。俺ら冒険者だから帯剣が許されるわけ。意味わかる?」


 後ろのふたりもカチャリと意味深に金属音を鳴らした。


 あーあーほんともうコイツらときたら。

 男だった時の俺を見習ってほしいわ。

 凡夫はわきまえるって知らんのかね。


 俺はすばやく姿勢を低くして足を踏みだした。


 この体はすこぶる軽いし瞬発力もある。だいぶ感覚がなじんで言うこと聞いてくれるようになった。さすがに腕力は敵わないだろうけど、スピードだけならそこらの男に遅れをとるスペックではない。俺が眼前まで迫ってから男は慌てて剣のつかを握ろうとしたが、両手でそれをぎゅっと押さえ込む。


 抜かせねーよアホ。


「……っ!」


 上から押さえ込むと意外と剣って抜けない。俺くらいの力でもね。相手の困惑がありありと伝わってくるが、最後に俺からひとこと。


「じゃあ冒険者がダンジョン外で武器をつかうことは基本禁止されてるってのも意味わかるよな? 通報されたくなかったらとっとと失せろ」


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