15話 お宝発見
鎮火を待つため四時間ほどしてから例の場所の様子を見に行った。メンバーは俺とチャロアイトさんとアベルの三人だ。他の人は待機。生き残りがいたら俺の術で足止めしてとどめを刺す、なんかあったらすぐ逃げるを合言葉にして一歩ずつ進んでいく。
「見事に焼けてますね」
「ああ、こんがりだ」
「そして熱気がすごい」
「汗が吹き出そうだよ」
「あとやっぱり暗い」
「もう火は出さなくていいからね」
俺とチャロアイトさんののんきな状況検分にもアベルは無反応。あいつは心を無にしている。俺らだけを送り出すわけにはいかないから同行しているが、本来ならアベルも顔面蒼白になるほどの苦手勢なのだ。ご愁傷様である。
ブタ男の家から拝借してきたクワのような畑道具を駆使して、階段に横たわる骸を左右にかき分ける。これで通路を確保していく寸法だ。下に行くにつれ左右の山が盛り上がっていく。
「この下には何があるんだろうね。先に明かりも見えないし、まさか行き止まりとかってことはあるだろうか」
え。そんなことがあるのか。
だとしたらブタ男はキモいやつらを閉じ込めておくためだけにあの扉を作ったことになる。わざわざ階段まで作って。
ここにはさらなる地下階層への入口やダジライト鉱石の可能性を感じてもぐっている。あんな大騒動しておいて調査結果がやつらの群生地とか。いやでもダンジョン探索ってそんなもんか。行動が全部報われるとかそんな優しい世界ではない。
「でも四時間のあいだに他のところも見て、それっぽい所ってここぐらいでしたよね。あとはただの横穴だったし」
「そこなんだよシュルスくん。ダジライト鉱石が近くにあるのは間違いない、と思うんだが……」
珍しくしゅんとしているチャロアイトさん。いつも元気いっぱいの年齢詐欺少女がしょんぼりしていると大きな飴とかあげたくなってくる。
「あの、ここ自体がもうダジライトの鉱石場ってことないですか」
「……ん?」
別に元気づけたいから適当に言ってるわけじゃない。
「ほら、岩ムカデってなんかの石があるところによくいるんですよね」
「ああ、孔雀石のことだね。見た目が美しく幸運が舞い込むとかいってダンジョン産のなかでも人気の石だが」
「苔ムカデがいたところにダジライトがあるって可能性ないですか?」
「むむむっ」
そうであってほしいって願望もあるけど、なくはないよな。実際暗かったし壁面はあいつらに占領されていたから岩肌を確認したわけじゃない。
「そうか、ブタ男くんのことだから勝手に採掘場みたいのものを想像していたけれど……なるほど」
「入口付近にやつはいなかったし、あいつら基準で考えるならダジライトは下のほうかなと思ったり」
だとしたらブタ男が階段作ってるのも扉作ったのも納得するよな。さっと頂いてささっと逃げる。追ってこれないようにフタする。あんな数まともに相手してたら命と精神力がいくらあっても足りない。
俺たちはこんがり焼けた骸を片付けながら下へ進んだ。もう三人とも汗だくだ。おかげでいい感じに下層にこれた。壁に張り付いていたあいつらはもういないし、チャロアイトさんは確認のために自分の懐からダジライト鉱石のかたまりを出した。
ダジライトの特徴として鉱石同士を接触させると発光するというものがある。
チャロアイトさんが持っていた鉱石を壁にこつんと合わせる。すると。
「うわあ……」
「これは……」
暗闇だった空間にぽつぽつと明かりが灯っていく。連鎖するように壁が光り、手元のランタンは必要ないほど洞窟内が明るくなった。予想通り、明かりが強いのは洞窟の下層部分のみで入口のあたりは暗いままだった。
「大当たりですね」
「……うん」
チャロアイトさんは自前の小さなツルハシでがつがつ壁を崩していく。さすが腕力が強いノームだけあって、こぶしよりも大きなダジライト鉱石をいくつも掘り出していった。
「ああ、うれしいなあ……!」
汗だくになった彼女の横顔は喜びに満ちていて、きらきら輝いている。これを美しいと言わずなんとする。
俺たちは最高の調査結果を手に入れたのだ。
ついでにやつらの体もサンプルとして一部持ち帰ることになった。適当なものを探そうと三人でその辺を漁っていたが、なんせほとんど焼けていて時間がかかってしまった。始終アベルが無言涙目でかわいそうだった。うん、早く帰ろうな。
◇
あまりにも汗だくになったので、ブタ男の家へ戻ると俺たちは順番に水浴びをしてさっぱり体を清めた。その間にフローラたちが夕食の準備をしてくれており、ありがたくみんなで頂いた。
洞窟であったことを軽く報告して、お目当てのこう鉱石を見つけたことをみんなで喜びあう。これで大手をふって帰れるわけだ。
そして就寝に関してチャロアイトさんから提案があった。この辺りの状況をかんがみて、ブタ男の家の中であれば夜番は必要ないので全員でしっかり睡眠をとろうといういうことだった。みんなそれに反対はないようだ。俺も特に反対ではない、んだけど。
「シュルスさんと約束しました」
「そ、そんなのだめです」
フローラとココポが両腕にくっついて一緒に寝ようと催促してくるのは頂けない。ふたりとも、そんなに体を押し付けたらはしたないぞ。特にフローラ。ふっくらしたものをお持ちなのだから。
「風紀的にそれはどうなんだろうか」
男女風紀に厳しいセルフィナ先生に助けを求めてもにっこり笑う返されるだけだった。そうだ、この人が厳しいのはアベルが絡んだ時だ。ならば。
「アベルー」
くらえ、必殺うるうる上目づかい。
俺のかわいさに悶え苦しめ。
あ、こいつ舌打ちしやがったぞ!
結局みんなで雑魚寝することになった。俺の両脇はふたりが陣取っていて、腕にからみついて身動きがとれない。
洞窟での出来事はほんとに怖かったらしく、ふたりとも夜中に「ひいっ」「こっちこないでぇ」と半泣きでうなされていた。夢のなかであいつらに追われているのだろう、かわいそうに。俺は俺で火だるまになったあいつらが夢に出てきそうで怖かったけど、まあそんなこともなくぐっすり寝てた。
いや俺にも怖いやつとかあるんだよ。
みんなとちょっと違うだけで。それはみんな知ってるからお互い苦手をカバーしてる。アレは見るだけで鳥肌たつっていうか直視が耐えられないっていうか、もう完全にお手上げ。逆になんでみんなアレは平気なのって思う。
こうやって人はうまいこと出来てるんだろうなあ。苦手なことと得意なこと、好きなもの嫌いなもの、みんなそれぞれ違っていて、うまく互いを補いながら暮らしている。
明日にはこのダンジョンを出る。
女になって初めての外だ。
世間じゃ男と女の役割はだいぶ違っていて、みんな大なり小なり役割をまっとうしながら生きている。
男から女になった俺はどうやって生きていけばいいかな。男に戻れるもんなら戻りたいけど、もう半分以上あきらめてる。あの苦痛にまみれた時間は肉体を改変させられたために受けたものだった。それが翌朝起きたらあっさり男に戻ってたとかそんなことはないと思う。男に戻るにはあの痛みが必要なんだ。そのための方法もわからない。
不透明な未来にヤキモキするより、もう女と思って生きたほうが楽そうだろ? 俺は必要以上に悩むのは好まないのだ。男に戻れる方法がわかったらラッキー。それまでは女を受け入れていく。これでいいと思う。
だが心身ともに女に染まるつもりはない。
こちとら二十数年男として生きてきた記憶と経験があるんだ。男と関係もつだとか、女の子とどうにかなりたいだとか、そんなこと今の俺にはできない。
悲しいかな、俺はあくまで女になってしまった元男なんだ。
まっ、かわいいのが救いかな!