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12話 魔術って不思議

 さあ今日もはりきって探索。

 明日には地上に戻るのでなるだけ成果を上げたいところだ。なので出発前の自由時間に俺は魔術の先生であるセルフィナの元へ行った。


「なあセルフィナ。ウォーターショットって水球何個出してるの? 威力は?」

「だいたい15個くらいかしら。その時のコンディションによって前後するんです。最大で20かな。相手がオークくらいになると殴打くらいの衝撃しか与えられないけれど、相手を怯ませるのには十分ですね」

「なるほど」


 いきなり20発も殴られたらそりゃ怯みもしますわな。


 俺が次に狙っているのは数で押せ押せ作戦だ。セルフィナいわく、元の発現量が多くなくても技術さえあれば複数の魔術を同時発動できるらしい。つまりうまくいけば質量でおとる俺が数の暴力に頼れるというわけだ。


 術を同時発動することで戦略が増える。しかしその分クールタイムなるものが必要になるので見極めが大事だとか。それに意識していないと術のコントロールを失うのでどんな優れた術師でも膨大な数は管理できない。セルフィナの発動数は優秀な方らしい。


「ダンジョンの中にいる限り魔力は無尽蔵に使えます。だからあとは術師の精神力次第ですわ」


 ものを言うのはやる気、負けん気、根気。意外と体育会系のノリだ。そしてなんと言っても集中力。ところがあまりに過集中になると頭がパンクして激しい頭痛や鼻血、ひどいとその場で卒倒するという。戦闘中にそうなったら足を引っ張るどころじゃないから気を付けなきゃな。


 俺がひとりでふむふむと考えていると、セルフィナが感心したようにほほ笑んだ。


「シュルスさんに魔術の適性があるのはとても喜ばしいことだと思います」

「そう?」


 まあ俺も無力よりかは適性あってよかったと思うけど。


「魔術師の適正は女性の方が多いです。その理由はわかりませんが、適性のある男性も女性的というか中性的な方が多いらしいです。不思議ですよね」


 ダンジョン七不思議のひとつよな。


「女という生き物は基本あまり好戦的ではありませんの。どうしても力は男に劣りますし、子どもを産み育てる立場ですもの。命をかけた戦いには強い恐怖や忌避感を抱く者が多い。なので適性があっても魔術師として戦闘に身を置くものは少ないのです。まして腕利きの術師はひとにぎり。冒険者パーティーに魔術師と回復師はつねに不足していますが、適性の少ない回復師と状況が変わらないのはそのためですわ」

「なるほどなあ」


 うちのパーティーにはちゃんと二人いるけど、実はどちらか片方しかいない、あるいはどっちもいないってところは多い。そういう意味でもうちは一目置かれていた。


「だからシュルスさんのようにやる気に満ちあふれた魔術師は重宝されますのよ。ぜひ頑張ってくださいまし」


 魔術師は貴重な戦力とは知っていたがその辺りの事情は知らなかった。なるほどね。


 そしてそういう話を聞くとセルフィナはすごいなあと改めて思う。探索にも意欲的、魔物と対峙するときも物怖じせず冷静に魔術を使える。ひとつのパーティーに席を置いていても常に勧誘にあう魔術師だが、セルフィナは義理堅いのかアベルの側にいたいのか、ずっとうちにいてくれるし。


 俺のそんな考えを見透かしたんだろう。セルフィナが不敵に笑った。


「わたくしには夢がありますもの。その為なら多少の危険もいといません」

「頼もしいなあ」


 ほんと、アベルが関わらなかったらいい子なんだよ。




 ◇




「さて諸君。昨日は9階へのルートも見つけ、かなりの収穫を得ることができた。本当なら9階のさらなる調査をしたいところだが……少し気になることがあってね。明日にはここを引き上げる予定だから、少し君たちの意見を聞きたい」


 打ち合わせの席で依頼主であるチャロアイトさんは俺たちに語りかける。


「ブタ男くんの家には彼自らがあつらえたであろう家具や道具がそろっていた。中にはダジライト鉱石を使った照明器具もある。つまりこの近辺でダジライト鉱石が眠っている可能性が高いんだ。わたしはそれを見つけたい」


 まじでブタ男はマメだな。

 家具職人になれるぞ。


「9階はおもに亜熱帯のジャングルに似た空間だ。植物資源は豊富だが、ダジライトが採れる条件としては10階の方が近い。それで相談というのが、パーティーをふたつに分けてそれぞれで探索できないかということだ」


 アベルが横目でちらりと俺を見て、首を横に振った。


「ダメだ。ふたつには分けられない。大穴と10階にハーピー、9階にオークという厄介な大型魔物がいると分かっている以上、戦力は分散させられない」


「……オーケー。アベルくんがそう言うなら従おう。ならば今日の探索は10階に絞る。エリア内の横穴を片っ端から確認していこう。もしかするとさらに地下への道があるかもしれないからね」


 たぶん。俺が男のままでもアベルはパーティーをわけなかったと思う。ここは新発見のダンジョンの地下深くで、全てが謎に包まれていると言って過言でない。その状況なら安全を優先することが当たり前だ。


 だけど、あの視線が物語ってるんだよなあ。

 無意識だろうがアベルは俺を役立たずに見てる。


 そりゃ俺が言ったけどさ。女であることを受け入れろって。でも俺は女なりに力をつけて、今までみたいに背中を預けあう関係でいたかった。保護対象なんかじゃなくて。


 各々出発の準備に取りかかったところで誰かが俺の腕を引いた。思わず振り返るとそれはアベルで、怒ったような目付きで俺を見下ろしている。


「シュルス、勘違いすんなよ。パーティーを分けないのはおまえが役に立たねえとかそんな理由じゃない。安全を重視してだ。俺たちの目的はダンジョンの調査と報告だ。誰かひとり欠けてそこからパーティーが全滅したらせっかくの調査が無駄になる。もうある程度調査はできた。なら注力すべきは全員そろっての帰還だ」


 まっすぐに射抜かれる視線は真剣そのもの。


「……わかってる。おまえの意見に反論はないさ」

「じゃあなんだよそのツラは」

「ん? かわいいだろ」


 へらりと笑って見せる。

 へこんでる暇はない。

 強くならなきゃ。


「あ、チャロアイトさん、俺はまた助手だよね!」

「おお、今日も頼むぞシュルスくん!」


 逃げるようにアベルから離れて俺は敗北感を飲みくだした。女になって何度も味わっているが、もうそろそろ終わりにしないと腹をこわしそうだ。

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