『邪正明暗』という男 あと
お試し投稿part⑨です。
「ハッハッハッハッハ!その通りさ!全て最初から計画通りだ!」
私の、私の心の、絶望は、明暗さんの計画通りだったのです。
「なんで…なんで分かってたのに私を止めなかったんですか!止めてくれたら!私は!こんなに!壊れなかったのに!なんでなんですか!」
「私は言っただろう!『ほぼ全ての願いが叶う店』だと!心が読めるようになりたいと願ったのは!レンジア・サザンローズ!お前なんだよ!お前が!自分で!望んだんだ!」
「あっ………」
「はぁ…」
わたしは、たしかにねがいました。こころがみえるようになりたいと。それをきいてねがいをかなえてくれたのはめいあんさんです。なのに、なのに、わたしは、さかうらみを…
「………あのな、実は計画通りじゃなかったこともあるんだ。」
「…へ?」
「まさか、ここまで心が傷ついてるとは思わなかったんだ。感情を見せてほしかったとはいえ、煽るような真似をしてすまない。」
そういった明暗さん、いや彼の顔は、笑っていました。まるで泣いている子供をあやす母親のような、優しい微笑みでした。
「レンジア。君には選択肢を2つあげよう。」
「せん、たく、し?」
「そうだ。1つ目は、心を読めるようになった記憶を全て忘れて城に戻る、というものだ。これは簡単だな。『覚の結晶』の事や私の事、そして君がここにいたという事を全ての人に忘れて貰う。そうすれば君は日常に戻れるだろう。」
「記憶を、消せるんですか?」
「大変だから疲れるけどね。」
大変だから、ですむんですね。でも、記憶を失くす…ですか。私は…
「2つ目だ。君にはうちの店で働いてもらう。もちろん衣、食、住は完備するし、部屋も用意しよう。ただしここでの記憶はもちろん嫌な記憶も残させてもらう。あとこれが一番デメリットだが、君の家族には記憶を失くしてもらう。私とて王族行方不明事件の犯人として捕まりたくないからな。その代わり、ある程度の自由は保証しよう。」
「まあ、ある程度とはいっても私の店の事を口外しない、くらいだがな。正直言って私も緩いと思う。ハッハッハ。」
「…働く、とは?」
「主に接客だな。この店には品出しもないし、宣伝もする必要がないからな。」
「そうですか……」
「あと、どっちを選んでも『覚の結晶』の効果はどうにかしよう。これは私の不手際のお詫びだ。それも踏まえて、どちらを選ぶか決めてくれ。」
明暗さんは、一方的に罵倒してしまった私に選択肢をくれました。1つ目の選択肢は明暗さんに関する記憶を全て忘れていつもの日常に戻るというもの、2つ目の選択肢は『暗明堂』で働く代わりにほぼほぼ自由を保証してくれるというものです。…お父様は確かに好きです。だから1つ目の選択肢を選びたい所ではあるのですが…。お父、様、は。
『レンジアを嫁がせて隣の国と国交を広げられれば私の計画が実行出来るはずだ!』
………お父様は、もう私の知っているお父様ではありません。どうせ記憶を失くしてお城に行った所で隣の国に嫁いで悲しい思いをするくらいならば私は、私は、私は…
「決めました。」
「ん。で?どうするんだ?城に戻るのか、働くか。どちらを選ぶんだい?」
私は
「私は」
辛い思いをするくらいならば
「私は」
心に傷を抱えるくらいなら
「私は」
「私は?」
「明暗さんのお店で働きたいです!」
「…………は?」
「え?」
「…いや、いいんだ。いいんだが、なんで選んだんだ?」
「また、辛い思いをするくらいならいっその事明暗さんのお世話になって働いてみようと思って…。」
「そうか…。私は選ばれないだろうと思ってギャグのつもりで出したんだが、まあそれはともかく考えがあって選んだならオーケーだ。」
「歓迎するぜ。お姫様。」
そういった彼の顔は、笑っていました。
はい。これにて一章は終了になります。
と思ったか!まだ1話あるぜ!
すみません。深夜テンションです。
次回、「邪正明暗と言う男 裏」お楽しみに。
なお、作者は明暗のような喋り方ではないので悪しからず。