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「おめえは後ろに回りなッ。――一年ッ、俺がいいって言うまで下がってろ!」

 泰樹は口早に指示を飛ばし、敵の眼下に詰め寄る。


 牛頭型(バイコーン)が両手斧を左の肩越しに振りかぶった。


――【弾攻構(スーパーアーマー)


 吹き荒れた重大な刃。

 泰樹はその太刀筋に、盾のように構えた右腕を突き出した。

 ガアン! と鳴り響く、耳をつんざくような金属音。

 泰樹の体は微動だにしない。

 代わりに斧が、握られたまま明後日の方向に弾かれた。


「なんだ今の……!」

 雅久が見開いた目をまばたかせ、

「さっきのヘイゾウステップ(・・・・・・・・)とか今のとか」

 湊輔に顔を向けた。

 かなり真面目そうな表情を。

「あの柴山先輩、人工人間(・・・・)だったりするんじゃねーの?」


 湊輔はため息をついて肩を落とした。

ヘイズステップ(・・・・・・・)人造人間(・・・・)、だろ」


「はっ、わざとだよ、わざと」

 だよな。

 てかボケすぎだろ。


「ねぇ」


 湊輔はどきりとした。

 後ろにいた有紗が声をかけてきたから。

 雅久と一緒に振り向く。


「下がってろって、前に出なければいいのよね?」


「え……」


 湊輔は言葉に詰まった。

 切れ長の目が、確かに自分に向けられていて。

 途端に体が熱くなる。

 そんな状況ではないはずなのに、心拍が跳ね上がって、早く、なにか答えなきゃ、と焦り出す。

「ま、まあ、そういう捉え方も、できなくはないけど――」



「それなら――」

 有紗はおもむろに矢をつがえ、狙いを定めた。


「え、いや、でも……」


「援護射撃よ。早く終わらせたいから」


――【槍高跳(ハイジャンプ)


 有紗が最初の質問をしたとき。

 牛頭型(バイコーン)の背後で、巧聖が長槍の石突を地面に突き立て、高々と跳び上がった。

 わずかばかり体勢の崩れた巨影の頭よりさらに高く。

「泰樹さーん! 左に押しますよお!」


 宙に舞う巧聖の声が降ってきて、湊輔が「大丈夫」と答えたと同時、弦音が鳴った。

 有紗の放った矢は牛頭の右の(ほお)に突き刺さり、牛頭型(バイコーン)(ひる)んで頭をのけ反らせた。


「おおおッ!?」

 巧聖が驚きつつ、間近に迫ってきた巨影の後頭部めがけて長槍を払った。

 鈍い打撃音と共に、牛頭が左半身側に弾ける。

 それに引っ張られ、巨体が左に揺らいだ。


――【霞脚(ヘイズステップ)】【疾破撃(アサルトクラッシュ)


 泰樹がすかさず超速を発揮し、巨影の左脚に肉迫する。

 体の輪郭が露わになると、刀身を肩にかつぐような構えを取っていた。

 左腕を引き、ひねられた体の勢いに乗せるように得物を握る右腕を振り下ろす。

 放たれた袈裟斬りは、標的に深々と爪痕を刻み込んだ。

 そして矢継ぎ早に――


――【終一閃(エクストラ)


 左腰に据わった白銅の剣を抜き放つ。

 真一文字の一閃(いっせん)が、飛沫(しぶき)のように爆ぜた。


 牛頭型(バイコーン)の体が左に沈み込む。

「ひゅーッ、さっすが泰樹さんッ」

 と巧聖が着地しながら感嘆するのと同時、巨影の左の蹄が大地を踏みしめた。


「うっそーん……あ、泰樹さん手加減したっしょ!?」


「るせえ。たりめえだろ」

 巨影が傾いた時点で後退していた泰樹は、背後に控える三人を肩越しに見る。

 なにか言いたげに口を薄く開くものの、牛頭型(バイコーン)に向き直りながら、

「いや、よくやった」

 とつぶやいた。


「おい湊輔、荒井先輩もなんかすげーぞ!」

 雅久が前線と湊輔を交互に見ながらはしゃいだ。

「普通あの長さであんだけ跳べるわけねえって」


「うん……まあ、確かに?」

 湊輔は生返事した。

 正直よく分からない。

 陸上競技とか見ないから。


「荒井ッ、潜り込んで炸火砲(ブラスト)だッ」


「はいよッ。合図お願いしますねぇ……!」


 巧聖は牛頭型(バイコーン)の死角に移動し始めた。


 泰樹は次々と降りかかる重大な刃を、超速でくぐり抜ける。

 腕を盾のように構えて打ち払う。

 攻撃の合間に隙を見せた巨影の足下に潜り込み、白銅の剣を閃かせた。


「なあ湊輔、俺らの出番まだか?」

 雅久がカンカン、と短剣で大盾を打ち鳴らした。


「たぶんあれ、ヘイト稼ぎみたいな感じだろ」

 湊輔は眉をひそめながら答えた。


 敵の前に立ち、敵の注目を集める。

 実際、今一番牛頭型(バイコーン)に攻撃しているのは泰樹だ。

 このまま倒してくれたらいいのに。


 湊輔と雅久が話している間、有紗は立て続けに弦音を鳴らしていた。

 牛頭型(バイコーン)の動きが止まる瞬間を狙いすまし、矢を射る。

 巨影にはすでに六本もの矢が刺さっている。


 牛頭型(バイコーン)が両手斧をめいっぱい振りかぶった。


「荒井ッ、今だ!」


 泰樹の号令と共に、巧聖が走り出す。

 同時、牛頭型(バイコーン)の体がわずかばかり伸び上がった。


 巧聖が左の足下に着いて構えた瞬間――


「あれぇ!?」


 左に大きくよろめく巨影。

 見据えた左脚が大きく離れたせいか、巧聖は素頓狂な声を上げた。


「なッ」

 泰樹も呆気に取られて絶句した。


「マジかよっ。クリーンヒットじゃねえか」


 驚嘆する雅久と一緒に、湊輔は肩越しに背後を見た。


 渾身の一撃を叩きつけようとした牛頭型(バイコーン)の右目に命中した、有紗の矢。

 痛恨の一射により、巨影の体は左に大きくよろめいた。


「泉! やめろッ、もう射つなッ!」


 泰樹が荒々しく声を張り上げると同時、牛頭型(バイコーン)は大きく後ずさり距離を取った。

 有紗は顔色一つ変えず、すでに引き絞っていた弓弦を緩めた。


 牛頭型(バイコーン)は右脚を踏み込み、体を深く前傾させた。

 咆哮(ほうこう)を放つように、あらん限りに開口する。

 ()えているのか、それにしてはなにも響かない。


 直後、両手斧が吹き荒れ始めた。

 蹄が重厚な音を立てて地面を踏みしめるたびに、ブゥン! と野太い風切り音が一度にとどまらず、二度三度とうなりを上げる。


「おめえらッ、離れろ! ひたすら離れろッ!」


 (とどろ)いた泰樹の怒号に、全身が激しく震えた。

 湊輔は灰黒色の竜巻から遠ざかろうと振り返る。

 雅久も有紗も同様で、一緒になって走り出した。

 こっちに来る……!

 って、まさか――


 とはいえ、巨影の進行速度が速すぎる。

 いや、踏み込む歩幅が、湊輔たちからすれば大きすぎる。

 一歩ごとにに二メートル近く進む竜巻は、あっという間に泰樹を通り越した。


「荒井ッ、止めろおッ!」


「はいはーい!」

 巧聖は得物を中段に構え、


――【迅風突(メイストーム)


 凄まじい勢いで駆け出した。

 砂ぼこりを巻き上げる姿は、まるで一陣の風。

 灰黒色の左脚に急迫すると、

「そこぉ!」

 長槍をまっすぐ突き出した。

「やっば……!」


 直撃の瞬間、巨影の脚がちょうど持ち上がった。

 穂先はその勢いに流され、本来与えるはずの威力を大きく削がれてしまったらしい。

 牛頭型(バイコーン)はなおも猛進を続ける。


「へへっ、だったら俺がッ……」

 雅久が不敵に笑い、足を止めて反転した。

 短剣をしまい込み、大盾の持ち手を両手で握り締める。

 腰を落とすと、

「おら来いよ牛ヤロウッ!」

 と叫んで挑発した。

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