表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/58

「っしゃあ! 一気に畳みかけるぜえ!」

 雅久は短剣を引き抜き、大盾を持ち手側に開いて巨鬼型(オーガ)の左足へと駆け出した。


「さーてさらにもぉ一回……」

 陽向もまた、巨鬼型(オーガ)の左足を狙おうと回り込む。


 二人の得物の切っ先が標的を見据えるのと同時、巨鬼型(オーガ)は右に転がった。


「あぁーもうっ……」


「ヤロウやりやがる……」


 陽向と雅久は悔しげにうなった。


 巨鬼型(オーガ)は転がる最中に拾い上げた棘棍棒を、立ち上がりざまに振りかぶった。

 左足を大きく踏み込み、一気に振り下ろす。

 今度は、先に左半身側に回り込もうとしている陽向めがけて。


「うおぉ……」

 陽向は自分が狙われていると気づくと、すぐさま重塊の着弾地点から離脱した。

「雅久ぅッ」と叫び、両手剣(ツヴァイハンダー)の先端を引きずるように構えて走り去る。


「うおおおおおおッ!」


 雅久がめいっぱい息を吸い込み、大声を張り上げるものの、敵の注意を引きつけるには至らない。


 猛嚇咆(レオズロア)は追い回されている味方を助けるのに便利な戦技(スキル)だ。

 しかし、また使えるようになるのに幾分か時間がかかる。

 なおかつ、人によってその長さも違う。

 同じ大盾を持つ耀大(ようだい)は、雅久よりずっと早いらしい。


「何度も使ってりゃ、早く使えるようになるっては聞いてたけどよ」

 雅久は誰に言うでもなくつぶやくと、振り向いて湊輔に目をやった。


 行けってことな、と湊輔は理解した。

 (うなず)き、駆け出して雅久を追い越す。

 巨鬼型(オーガ)は逃げる陽向を追い、テニスコートの西、体育館裏まで遠のいている。


――【縮地(シュリンク)


 湊輔は吹き荒ぶような勢いで敵の背後に詰め寄る。


 巨鬼型(オーガ)がまた棍棒を振り下ろし、重厚な音と共に土ぼこりを跳ね上げた。


――【渾撃(ホールブロウ)


 また動き出すまでの硬直の間に、

「だあッ!」

 湊輔は右足のふくらはぎに袈裟(けさ)斬りを放った。


 直撃し、肉を裂く刃。

 得物を持ち上げようとする巨鬼型(オーガ)の動きが少しばかり止まった。

 直後、角の生えた頭がおもむろに振り返った。


 瞬間、全身が燃え上がるような感覚に包まれる。

 湊輔は敵から目を離さず、跳ぶように後ずさる。


 来た。

 視界の右から左へ走る、赤い光跡。


――【流脚(ステップシフト)


 半身になり、前に出していた右足で地面を押すように蹴る。

 目の前にいる巨影が一瞬で遠ざかった。

 とはいえ、棘棍棒の間合いから多少はずれた程度。


 霞脚(ヘイズステップ)ほどの超速は発揮できないものの、流転避(ロールシフト)よりも使い勝手がいい。

 踏み込める距離は長くても四歩分ほど。

 それを一気に詰めて斬りかかり、すぐさま同じくらいの距離を跳びのく。

 流転避でも似たようなことはできるが、速度はこちらのほうが断然上だ。


 巨鬼型(オーガ)が振りかぶった棘棍棒を叩きつけてきた。

 湊輔はそれを流脚(ステップシフト)で左前方に踏み込んで(かわ)す。

 さらにもう一度続けて敵の右腕に近づくなり、逆袈裟(さかげさ)を見舞って跳び退いた。


「よし……」


 素早く躱して反撃、さらに離脱。

 これが決まるたびに胸が高鳴った。

 体が(かす)んで見えるほどじゃない。

 それでも、今までよりずっとマシに戦えてる気がする。

 これがあれば、アイツとも渡り合える――そんな気もする。


「湊輔っ、もう一体大型が――」


『ぴーんぽーんぱーんぽーん。えー、速報でーす。巨鬼型鋼甲種(オーガ・アーマード)が一体、グラウンドに現れましたぁ。繰り返しまぁす。巨鬼型鋼甲種が一体、グラウンドに現れましたぁ。大型が二体だけど、みんなぁー、がぁーんばってねぇー。以上ッ。……ぴーんぽーんぱーんぽーん』


 背後から有紗の声が聞こえてきたと同時、放送が流れた。


「グラウンドってマジかよ。――陽向!」


「いるいる! (よろい)つけた巨鬼型(オーガ)いるよ!」


 雅久が呼んで少ししたあと、再び棘棍棒を振った巨影の後ろから陽向の声が響いた。


 雅久は湊輔と入れ替わり、頭上から降りかかってきた重塊を反衝(リジェクト)で弾き返した。

「さすがに大型二体同時はきっついな」


「雅久、テニスコートに戻って一気に倒そうッ」


「おうッ」

 雅久はまた巨鬼型(オーガ)の一撃を弾き返し、素早く反転する。

 そして、先に駆け出していた湊輔に並んだ。

「コイツ倒す前にもう一体来たらどーするよ?」


 湊輔は眉をひそめた。

「それは……」


 最近になってようやく、敵について知ったことがあった。

 異空間に現れ、戦闘状態にない影が取る行動は二種類ある。

 一つは、遭遇するまでその場から動かずにいるタイプ。

 もう一つは、あちこち徘徊(はいかい)するタイプ。

 巨鬼型(オーガ)は後者だ。


「いや」

 湊輔は走りながら、肩越しに背後の敵を一瞥した。

「今は倒すことだけ考えよう」


「だな。来たら来たで」

 雅久は不敵な笑みを浮かべた。

「そんとき次第だ」


 やがてテニスコートに辿(たど)り着く。

 湊輔はなるべく奥、東端まで引きつけてから振り返った。


「雅久、おれが前やる」


「おう、頼むぜ」

 雅久は敵の右半身側に向かった。


 湊輔は棘棍棒の間合いに浅く飛び込んだ。

 巨鬼型(オーガ)が得物を振りかざす。

 視界に赤い光跡が走るのが見えてすぐ、流脚(ステップシフト)で右前方に踏み込む。

 重厚な一打が地面に直撃した瞬間、


――【破突(ペネトレイト)】【抉牙(バイト)】【流脚(ステップシフト)


「らあッ!」

 振り下ろされた前腕めがけて月白の剣を突き刺す。

 すかさず揺さぶり、ねじ込み、引き抜くなりすぐさま跳び退いた。


「おらあ!」


「そこぉ!」


 雅久と陽向が、巨影の右足へと破突(ペネトレイト)抉牙(バイト)を繰り出した。


 巨鬼型(オーガ)は再び右ひざから崩れ落ち、しかし追撃の余裕を与えないほど素早く立ち上がった。


「あーもうっ、こんだけやって立つとかイカれてるって……!」

 陽向が声を荒げ、苛立ちを露わにした。


「だったら立てなくなるまで追い込むんだよ!」

 雅久がまた短剣を突き刺し、ねじ込んで引き抜いた。


――【長遠射(ナガエウチ)


 雅久が退くのに合わせて、巨影の右足のふくらはぎで炸裂音がこだました。


 巨鬼型(オーガ)がまた右ひざから崩れ落ちる。

 今度は上半身を屈めて両手を地面につけた。


 ――これまでより、ずっと大きな好機。


「っしゃあッ、陽向、頭だ!」


 雅久が言うより早く、陽向は巨影の前方に回り込んでいた。


――【旋嵐(シムーン)


「もらったぁ!」

 体を横に一回転させ、巨影の左側頭部に横薙ぎを叩きつける。


 巨鬼型(オーガ)両手剣(ツヴァイハンダー)の一撃に弾かれ、右半身側から倒れ込んだ。


「まだまだぁ!」

 陽向は巨影の頭に近づくと、得物を上段に構え、体を反り返らせた。


「もう一体、こっちに来てるわッ」

 有紗が声を張り上げた。


「マジかよ……!」

 雅久が慌ただしく巨鬼型(オーガ)の頭部に迫る。


「大丈夫大丈夫、これで終わるか――」


――【爆噴流(ダウンバースト)


「らぁッ!」

 陽向が体を勢いよく折り曲げ、両手剣(ツヴァイハンダー)を振り下ろした。


 刀身が頭に直撃した瞬間、ズバアン! と響く鋭い爆裂音。

 同時、巨影の全身に伝播(でんぱ)する衝撃。

 巨鬼型(オーガ)は体を震わせ、ぐったりと脱力した。


「ふぅー……これ決まると気持ちいいねぇー」

 陽向がキザっぽく、得物を振り下ろしたときに乱れた前髪を直した。


「おい陽向、のんびりしてる暇ねーぞ」

 雅久が大盾を短剣でつついて鳴らした。


「分かってる分かって――」


『ぴーんぽーんぱーんぽーん。速報でーす。巨鬼型対刃種(オーガ・ブレイド)が一体、グラウンドに現れましたぁ。繰り返しまぁす。巨鬼型対刃種が一体、グラウンドに現れましたぁ。大型の連戦で大変だろうけど、みんなぁー、がんばってねぇー。以上ッ。……ぴーんぽーんぱーんぽーん』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ