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「うっし、やっとお出ましだぜ」

 雅久が意気揚々と、壁に立てかけていた大盾を持ち上げた。


「ははは……」

 陽向が乾いた笑いをこぼしながら立ち上がった。

「まだ五人(そろ)ってないのにねぇ……。これさぁ……五人目ってもしかすると――」


「はっ、巨鬼型(オーガ)一体だけだろ? 俺たちでも倒せるっつーの。なんせ――」

 雅久は大盾の裏から短剣を引き抜くと、まっすぐ高々と掲げた。

「この守護神(ガーディアン)様がいるからなッ」


 ――守護神(ガーディアン)、それは雅久の自称。

 ここ最近言い出した二つ名。

 まあ、盾持ちとしての役割が板についてきたから、名前負けはしてない。

 むしろ頼もしかったりする。


 雅久は短剣をしまい込み、

「っしゃあ! 行くぜ!」

 と勇ましい足取りで歩き出した。


「おい雅久」

 湊輔が呼び止めた。

 表口に向かおうとする雅久が「あ?」と振り返ったところで、図書館の奥を指さす。

「テニスコートだぞ? 裏口のほうが早いだろ?」


 雅久は一瞬(ほう)けて目をまばたかせた。

「あ、そっちか」


「聞いてなかったのかよ、そこ……」


 雅久を先頭に、四人は裏口から外に出る。

 そして目の前にある武道館を回り込み、北東へと進んだ。


 テニスコートといえば、その周囲にはフェンスが、中にはネットを張るためのポールがある。

 しかし異空間では、それらがまったくない。

 机や椅子といった備品は残るくせに、そういったものは残らないことを湊輔は不思議に思った。

 でも、周りを囲まれて狭苦しいよりずっとマシか。


 武道館の角を曲がったところで、すぐに見えた。

 灰黒色(かいこくしょく)の巨影が。


 三メートルほどの巨漢体型。

 人型ではあるものの、下半身が短め。

 割と極端な胴長短足だ。

 頭から短くて太い角が二本伸びている。

 ――巨鬼型(オーガ)


「っしゃあ! 守護神(ガーディアン)我妻(あがつま)雅久、行っくぜえッ!」

 雅久は大盾を構えて突撃し始めた。

 巨影との距離が中ほどまで詰まったところで、大きく息を吸い込む。


――【猛嚇咆(レオズロア)


『ウオオオオオオオオオッ!』


 人間離れした重低音の咆哮(ほうこう)に大気が震える。


 巨鬼型(オーガ)が、()えて接近する雅久に振り返った。

 そして右手に持つ棘棍棒(とげこんぼう)を振りかぶる。


――【反衝(リジェクト)


 雅久は降りかかった重塊に大盾を突き出した。

 ガアン! と一帯に響き渡る野太い金属音。

 はね返された得物に引っ張られた巨影はよろめき、体勢を崩した。

 瞬間――


――【矢継射(ヤツギウチ)


 連続する三つの風切り音。

 有紗の三連射が、太く丸まった右の肩口へと食らいついた。


「チャーンス!」

 陽向が両手剣(ツヴァイハンダー)の切っ先を引きずるように、巨鬼型(オーガ)の右足に走り寄る。


――【旋嵐(シムーン)


「そぉーれいッ!」

 |踏み込むなり重心を下げ、体を横に一回転させる。

 その勢いに乗せ、横()ぎの一撃を叩き込んだ。


 ダアン! と巨鬼型(オーガ)の右足でこだまする鋭い炸裂(さくれつ)音。

 右に傾く巨影。

 しかしすかさず、右足を踏み出して持ちこたえた。

 今度はそれをまっすぐ振り上げる。

 落下地点にはまだ陽向が。


――【不動構(フォーティス)】【払停頓(アンロック)


 陽向は両腕を十字に交差させ、頭の上にかざす。

 同時に腰を落とし、身を屈めた。


 やがて陽向の全身がすっぽり収まる足裏が落下する。


「うぅぅ――」

 重量感あふれる踏みつけを受けながらも、陽向はどうにか持ちこたえる。

 そこからさらに小さく腰を落とし、

「だあああッ!」

 跳ね上げるように体を起こした。


 巨鬼型(オーガ)は右足をはね返され、重々しい足音を立てながら二、三歩後ずさる。


「おらおらあッ! どうしたデカブツゥッ!」

 雅久が巨鬼型(オーガ)との距離を詰めながら、大盾をガンガン打ち鳴らした。

 押し上げられた前線に、陽向、湊輔、有紗が追随する。


 巨鬼型(オーガ)は体勢を立て直すと、棘棍棒を両手で握り締めた。

 そして体が反り返るほど、大きく振りかぶる。

 来る。

 重々しい、凄烈な猛打が。


 ほぼ同時、湊輔の背後で、弓がギリギリと三度うなった。


 雅久が大盾を掲げると同時、振り下ろされる重塊。

 (とどろ)く野太い金属音。

 そのまま押し潰すつもりか、棘棍棒がいっそう沈み込んだ。


――【長遠射(ナガエウチ)


 そこで弦音(つるね)が叫ぶように鳴った。


 直後、巨鬼型(オーガ)(ひる)み、雅久を拘束していた重圧を解いた。

 後ろに下がった右肩に矢が突き刺さっている。


「サンキュー有紗! ――うっしゃあッ!」


――【噴犀角(バイコルニクス)


 雅久は大盾を構え、巨鬼型(オーガ)の左足めがけて大きく踏み込む。

 そして得物を勢いよく突き出した。

 強打を受けた巨影の左ひざが、わずかに後ろに下がった。


「俺はー……右ぃッ!」

 雅久にやや遅れ、陽向が右足に走り寄った。


――【旋嵐(シムーン)


 一回転させた体の勢いに乗せ、両手剣(ツヴァイハンダー)の横薙ぎを叩き込む。

 再びこだまする、斬撃とは思えない炸裂音。


「よし……」


「待てッ、湊輔!」


 湊輔が踏み出した途端、背後を一瞥(いちべつ)した雅久が制した。


 凄烈な一撃を両足に受けてもなお、巨鬼型(オーガ)は数歩後ずさっただけ。

 転倒にはまだ及ばないらしい。


 湊輔が今に一撃でも斬り込めば、巨鬼型(オーガ)の注目は雅久から()がれる。

 そして、それを引き戻すのは容易ではない。

 それを解っているから、雅久は湊輔を止めたのだろう。


「おらおらおらおらあッ! 来いやあッ!」

 雅久は後退して離れた巨鬼型(オーガ)に、大股気味な足取りで近づいていく。


 巨鬼型(オーガ)が再び棘棍棒を両手で握り締める。

 今度は野球のバッティングのように構え、左足を踏み込んで振り抜いた。


――【絶壁(ダイアクリフ)


「やべッ――」

 雅久は咄嗟(とっさ)に重心を下げて身構える。

 瞬間、重厚な一撃が大盾を打ち据えた。


「雅久!」

 湊輔は思わず声を荒げた。

 雅久の体が右後ろに大きく押しのけられて。


「大丈夫だ! 問題ねえ!」


 雅久が声を張り上げてまもなく、次の殴打が吹き荒れた。

 雅久は構え続けたまま再び、今度は左後ろに押しのけられた。


 巨鬼型(オーガ)は雅久を押し込みながら、立て続けに棘棍棒を振り回す。

 一歩ずつ、大地につかみかかるように踏みしめながら。


「隙ありだよぉ……」

 陽向が大きく迂回(うかい)して巨鬼型(オーガ)の背後を取った。

 巨影の右足が踏み込んだ瞬間を狙って接近すると、


――【破突(ペネトレイト)】【抉牙(バイト)


「もらったぁッ!」

 両手剣(ツヴァイハンダー)の切っ先を太ももに突き刺し、揺さぶって傷口を(えぐ)り、引き抜いた。

 巨影の体が棍棒を振るう動きを止め、右によろめいた。


――【長遠射(ナガエウチ)


 巨鬼型(オーガ)の右肩で炸裂音が弾けた。

 巨影が大きく揺らぎ、右手から得物がこぼれ落ちる。


――【旋嵐(シムーン)


「もぉ一丁っ!」

 大きく隙を見せた巨影の背後、陽向が右足へと横薙ぎを打ち込んだ。

 その一撃に巨鬼型(オーガ)はひざを折り曲げ、ついにひざまずいた。

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