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「耀大! 剣佑! 湊輔頼むぞ!」


「「おおッ!」」


 颯希の張り上げた声に、耀大は片手鎚(メイス)を、剣佑は長剣(ロングソード)を掲げた。


 言われた通り、湊輔は耀大の右後ろ、やや離れた位置に着いた。


 巨影に向かって耀大が前から、剣佑がやや遅れて左から躍りかかる。

 繰り出される大盾と片手鎚(メイス)長剣(ロングソード)凧盾(ヒーターシールド)

 翼人型(アエロー)はそれらを防ぎ、弾き、受け流しながら、翼手を振り払い、突き出して応戦する。


 やがて二人の包囲から抜け出すように翼人型(アエロー)が跳びのいた。

 着地したのは湊輔の前方。


 来た、と身体がわずかな震えと共に奮えた。

 敵の顔は明らかに二人に向けられている。

 こちらを見ている素振りはない。

 ここだ。

 今だ。

 今しかない。


 湊輔は走り出す。

 なるべく翼人型(アエロー)の視界に、ほんの少しも映らないよう迂回(うかい)して。

 どんどん近くなる巨影の背中。

 得物を構える。

 地面と水平に引き絞って。


――【破突(ペネトレイト)


「うあああッ!」

 踏み込んだ途端に叫び、月白の剣を突き出した。

 描かれた直線的な軌道は、吸い込まれるように翼人型(アエロー)の腰に食い込む。

 巨影が一瞬、確かに怯んだ。


「いいぞ湊輔! 離れろ!」


 剣佑の声に打たれ、すかさず刃を引き抜く。

 途端、全身が燃え上がるような感覚に襲われた。


「くそ、また……」

 湊輔は顔をゆがめて後ずさる。

 しかし急激な熱に見舞われたせいか、頭がボーっとする。

 逃げ出したいのに、体が覚束ない。

 急に視界の左端が赤く染まった。


「湊輔え!」


 荒ぶる渋い声が聞こえるのと同時、耳を中心に痛烈な衝撃が走った。

 頭の中が、意識が激しく揺さぶられる。

 あ……死ぬ。


 翼人型(アエロー)の振り向きざまに放たれた回し蹴りを受け、湊輔の体は頭に引っ張られるように吹き飛んだ。

 大砲に撃ち出されたような長い浮遊感。

 脱力した体はやがて、ゴロゴロむなしく地面を転がる。

 手から離れた剣は、主から離れまいとばかりに音を立て、追いかけるようにのたうった。


――【猛嚇咆(レオズロア)


『ウオオオオオオオオオッ!』


 激憤を帯びたような、重低音の咆哮が(とどろ)いた。


 翼人型(アエロー)はしかし耀大に一瞥もくれることなく、湊輔に向けて踏み出した。


「耀大ッ、行かせるな!」


「おおぅッ!」


 剣佑が顔に焦燥を浮かべながら叫び、耀大が仁王のごとき形相を極めて()えた。


――【破甲撃(ブレイクブロウ)


 剣佑が飛びかかるように踏み込み、右肩にかつぐように構えた刃を振り下ろす。


――【噴犀角(バイコルニクス)


 耀大が巨影に肉迫するなり、大盾を突き出して殴りかかる。


 翼人型(アエロー)は左の肩甲骨あたりから真下にざっくりと斬り裂かれて怯む。

 直後、背中の右側に受けた衝突によって前方に倒れ込んだ。


「耀大ッ、前へ――」


 剣佑が怒鳴ると同時――


「ぬぅッ」


「なッ」


 巨影が節足動物よろしく四つん()いで駆け出した。それを見るや、耀大と剣佑は愕然と顔を引きつらせた。


 翼人型(アエロー)は一気に二人を引き離し、湊輔へと急迫する。

 標的が間合いに入った途端、右腕を大きく持ち上げた。

 あらん限りに手を開き、獲物を叩き潰さんと振り下ろす――


――【乱連破喰貫(ミダレ・ハジキヌキ)


 瞬間、凄烈な炸裂音がこだました。

 翼人型(アエロー)の右手は湊輔に直撃する寸前で左に勢いよく弾かれる。

 さらに右脇腹、右太もも、そして右側頭部から音が立て続く。

 苛烈な奇襲を受けて左に横転する巨影。

 音が上がったどの部位にも、矢が突き刺さっている。


 翼人型(アエロー)は瞬時に跳ね起きるや、羽ばたいてその場から飛び退いた。


「しっかりしやがれてめえらッ!」

 矢と怒号を放ったのは颯希だ。

 犬歯を狂暴にぎらつかせ、目をぎろりと剥いている。

「ボケっとしてんじゃねえッ!」


 敵以上に凄まじい剣幕に気圧されたか、耀大と剣佑はすぐさま翼人型(アエロー)と湊輔の間に立ちはだかる。


「どうなっとるんじゃ……猛嚇咆(レオズロア)が効かんかったわい」

 耀大が顔をしかめながら得物を構えた。


「確かにな。だが今は、ヤツを押さえ込むことに専念するぞ」

 剣佑は凧盾(ヒーターシールド)をかざし、腰を落としながら眼光を鋭く尖らせた。


「有紗ッ、剣佑と耀大の援護だ! 射ちすぎてヤロウの気ぃ引くなよ!」

 鳥人型(ハーピー)はすでに全滅状態。

 颯希は有紗を二人の下に向かわせると、湊輔へと駆け寄った。


「おい湊輔、起きれっか? てか起きろ。死にたかねぇだろ」


「……く……うぅ……」

 颯希に頬を軽く叩かれ、湊輔はうめきながら目を覚ました。

「すみません……今、どうなって……」

 か細い声を漏らし、重々しく体を起こす。


「安心しな。剣佑と耀大が前に立ってるからよ。やれそうか?」


 痛い。

 とにかく痛い。

 肩が、ひじが、腰が、ひざが、あちこち痛い。

 それ以上に左耳の周りがずきずきする。

 左目が潰れたような感覚もする。

 ……いや、潰れてないけど。

 それに、熱い。

 油をかけられて火をつけられたみたいに、体が熱い。

 死ぬって、こんなの。

 やれるわけ、ないって。

 ……ほら、体震えてるし。


 湊輔はふと目を動かした。

 すぐ前に月白の剣が横たわっている。

 もっと上向けると、耀大と剣佑の背中が見えた。

 まるで探し求めるように左に動かせば、有紗が映った。


「ぁ……」


 一瞬、切れ長の目と視線が交差した。


 いいのか?

 このまま、「もう嫌です」って言って、逃げて、いいのか?

 ……いや、ダメだ。

 そんなの、嫌だ。

 かっこ悪いだろ。


 湊輔はわなわなと手を伸ばし、月白の剣につかみかかる。

 それを引き寄せ、震える体に鞭打ち、立ち上がる。


「おれ……やれます……」


 颯希は朗らかに笑うと、湊輔の背中をぽんと優しく叩いた。

「よし、よく言った。度胸あんじゃねぇか」

 それから頭をグシャグシャと乱暴に撫でると、あごで前線を指した。

「うっし、じゃあさっきと同じだ。耀大の右後ろに着いて、ヤロウの隙を突きな」


「はいッ……」


 湊輔が戦線に復帰しようと駆け出すと同時、翼人型(アエロー)が両腕を振り払った。


 羽毛がいくらか散って、ひらひら舞い踊り、地面に触れる。

 途端に丸く肥大し始めたそれら。

 やがて突起が生じて、頭、体、翼、足、尾羽が形作られる。


 ――鳥人型(ハーピー)だ。

 その数、三十。


「なんですか……あれ……」

 耀大の右後ろに着いた湊輔は、目を見開いてうろたえた。


「湊輔、憶えておけ」

 剣佑が声を低く凄ませた。

翼人型(アエロー)はああやって、自身の羽から鳥人型(ハーピー)を生み出せるとな」

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