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「で、有紗と湊輔はこの前が初めてだったって? よかったじゃねぇか。初っ端がシバと一緒でよ」


「シバ……?」

 湊輔は小声でつぶやいた。


「颯希さん」

 剣佑が口を開いた。

「一年生にその呼び方はまだ馴染(なじ)んでないですよ」

 颯希が片眉を上げたあと、剣佑は湊輔と有紗を見て続ける。

「シバ、っていうのは、柴山(しばやま)先輩の愛称だ」


 湊輔はなんとなく意外に思った。

 あんな鬼みたいな怖い顔した人でも、ニックネームとかあるんだな、と。


「ま、シバのことはいいとして……あー」

 颯希はなにをしようか迷うようにうなった。

 耀大が紙束を指すのを見て、

「よっし、成績表だな」

 と得意げに言った。


「あの、それならこの前、荒井(あらい)先輩に教えてもらいました」

 有紗の無機質な声。


「あ……?」

 颯希は半瞬(ほう)けてから、

「なんだよ巧聖のやつ……やるじゃねぇか」

 と悔しげに、片側の口角を引きつらせた。


 湊輔はふと成績表に目を落とす。

 その一枚目には、


【筋力35、耐久力20、持久力45、精神力35、判断力45、戦闘センス15、リーダーシップ10、総合205】


 と書かれていた。

 どれも五十に満たない数値。

 最高値が書いていないため、高いかどうかも分からない。

 いや、もし五十が一番高くて、総合の最高が三百五十なら、おれ結構強くない? とにわかに期待を覚えた。


「あ、あの……総合二百五って――」


 瞬間、颯希、耀大、剣佑が目を丸くした。

 え、マジで? と言いたげな疑惑の視線と漂う不穏な空気。

 期待は蝋燭(ろうそく)を吹き消す勢いで(ちり)と化した。


「低い、んですね……」

 湊輔は肩を落として俯く。


 そこに颯希が気難しい顔で歩み寄ってきた。

 湊輔は思わず全身を強張らせる。

 しかし、頭に置かれた手の感触は優しくて柔らかい。


「まぁ、安心しな。戦ってりゃそのうち強くなれっからよ」


 手の感触同様、優しく柔らかい声音。

 これが姉御感か、と湊輔はなんとなく思った。

 同時に胸に熱いものを感じて、たまらず目をつむった。


「さすが颯希さん! さっき怖がらせてマイナスになったポイントが、これでチャラになりましたねっ」


「剣佑、おめぇいい度胸してんじゃねぇか……」

 颯希は獰猛に微笑み、茶化してきた剣佑をシメに向かった。


 湊輔は目を開き、気を紛らわせようと用紙をめくる。

 そこには、


素質(アビリティ)……前虎後狼(ヴァンガード)

動的戦技(アクティブスキル)……渾撃(ホールブロウ)終一閃(エクストラ)

静的戦技(パッシブスキル)……先見(ゼロサイト)死逃視眼(デッドサイト)


 と書かれてあった。


『ぴーんぽーんぱーんぽーん。……えー、駐車場に翼人型(アエロー)が一体、現れましたぁ。繰り返しまぁす。駐車場に翼人型が一体、現れましたぁ。みんなぁ、がぁーんばってねぇー。以上ッ。……ぴーんぽーんぱーんぽーん』


 放送で流れた声は、相変わらず純情無垢(むく)な少年のよう。

 耀大、有紗、湊輔が持っていた紙束をテーブルに置いた。


 颯希は振りかざしていた右腕を下ろし、つかんでいた剣佑の胸倉を放すと、犬歯を剥いて不敵に笑った。

「来やがったな」


翼人型(アエロー)とはのぅ。こりゃ颯希さん――」

 耀大は颯希を一瞥(いちべつ)した後、視線を移した。

「それと有紗の出番じゃのぅ」


「あぁ、まったくな」

 颯希は表口へ向かいながら、肩越しに有紗を見る。

「頑張ろうぜ、有紗?」


「……はい」

 無機質な声音の素っ気ない返事。

 有紗の颯希に向けた視線が、わずかに鋭くなったように見えた。


 それぞれの得物を携えて、五人は表口から図書館を出る。


「はッ、お出迎えご苦労さん、ってな」


 颯希が矢筒から矢を引き抜き、素早くつがえた。

 弓弦(ゆづる)を引き絞った途端に弦音(つるね)が鳴る。

 まもなく空でパァン! と炸裂(さくれつ)音が弾け、一メートルほどもある鳥が落下してきた。


「これが、アエロー……?」

 湊輔は眉をひそめ、微動だにしなくなった亡骸と灰色の空を見比べる。


 颯希が射ち落としたのは鳥と言ってもまちがいない。

 だが、異様だ。

 体はまさに猛禽(もうきん)

 しかし頭部は人間のそれだ。

 男とも女ともつかない、彫像のような起伏ある面立ち。

 頭から尾羽までが灰黒色(かいこくしょく)に染まっている。


 そしてその人面鳥は落下してきた一体だけではなかった。

 十以上の同じ姿をした鳥が、虚ろな瞳でこちらを見下ろしながら、灰色の空で旋回している。


「いや――鳥人型(ハーピー)じゃ」

 耀大が右手に持つ片手鎚(メイス)で肩を叩きながら言った。

「さっき翼人型(アエロー)が一体としか言っとらんかったが、実際はこうして子分がついてくるんじゃよ」


 じゃあ、あの放送はうそを言ってたのか、と湊輔が思ったところで、背後のすぐ斜め上から炸裂音がこだました。

 振り返ると、吹き飛ばされたのかやや離れたところに転がる鳥人型(ハーピー)が見えた。


「ボケっとしてんじゃねぇぞ」

 颯希が余裕綽々(しゃくしゃく)というように笑いながら、再び矢をつがえては三射目を放った。

「しゃあッ、三匹目ぇ!」


「颯希さん、一応鳥の体をしているので、三羽目、が妥当ですよ」

 剣佑がまた茶化すように口を挟んだ。


「るせぇ、細けぇことゆーな」


 矢を引き抜き、つがえ、弓弦を引き絞り、狙いを定め、放つ。

 颯希が見せたこれら一連の動作はあまりに滑らかで、素早くて、精密だった。

 むしろ、視覚の認識が間に合っていないほど一瞬。


 湊輔は前回見た有紗の姿を思い出した。

 初めて矢を射たとき、見事に屍人型(アンデッド)の頭に命中させた。

 そのときの動きもまた、無駄なものを一切感じないほど滑らか。

 ただ、それが見劣りするほど、颯希の動作は速すぎる。


「有紗、湊輔、気をつけろ」

 剣佑の警戒を帯びた低い声。

鳥人型(ハーピー)は背中を向ける敵に優先して襲いかかるからな。なるべく背中合わせに立つといい」


 気づけば、湊輔と有紗は颯希、耀大、剣佑に囲まれるような形になっていた。


「ま、そーゆーこった」

 颯希が弓を持つ手を下ろした。

 五人の周りには、先ほどまで頭上を飛び交っていた鳥人型(ハーピー)すべてが横たわり、沈黙していた。


「さて、とっとと本命に行くぜ。――有紗、あたしらは雑魚優先だ。――湊輔、耀大と剣佑と一緒に本命を(たた)きな」

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