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「まあ、あいさつとかはしてもしなくてもいいよ。どうせすぐにあそこで顔合わせるし」

 巧聖は肩をすくめた。

「ただ、通知のオフはやめといてね。こまめにチェックするんなら構わないけど」


「あれッスよね。命かけて戦ってる以上、最新情報は見逃せない、的な」


 巧聖はパチン、と指を鳴らした。

「あったりー」


「あ、そうだっ」と雅久は両ひざを叩いた。

「あの成績表ってなんなんスか? あと、柴山先輩のヘイゾウステップ(・・・・・・・・)とか荒井先輩のジャンプとか!」


ヘイズステップ(・・・・・・・)だって」


「わざとだよっ」


 湊輔が突っ込むと、軽く小突かれた。

 ひどい。

 というより、恥ずかしい。


 巧聖は苦笑いを浮かべて、

「あぁ、そういえば泰樹さん、さらっと流しちゃったもんね」

 スマートフォンに目を落とした。

 時間を気にしたのだろう。


「簡単に言えば、ゲームでいうところのステータス表みたいなものよ。どういう基準かは知らないけど、筋力がいくら、とかそーゆー感じのこと書かれてんの」


「へぇー、他にどんなのがあるんスか?」


「えっとねぇ……」

 巧聖は指折りを始めた。

「筋力、耐久力、持久力、精神力、判断力、戦闘センス、リーダーシップ、の全部で七つ、だったかな。あ、あとたぶんそれを全部足した、総合力、ってゆーのだね」


「攻撃力とか防御力とか、そんなんじゃないんスね」

 雅久は小首を傾げた。

「てか、精神力と判断力ってわざわざ別にする必要あんのか?」

 眉をひそめて湊輔を見た。


「さあ……?」

 眉をひそめて訊いてきた雅久に、湊輔は顔を背けながら答えた。

 それをおれに訊かれても。


「いや、割と別々だったりするのよ、それが」

 巧聖の表情が急に強張った。

「え?」と雅久が視線を向けたところで続ける。

「精神力結構高いのに、判断力がまったくないに等しい人もいるってこと。まあ、サイコパス、っていうのかな?」


 雅久が、なんだそれ? と言いたげな顔でまた湊輔を見た。

 だから、おれに訊くなよ。


「で、えーっと……泰樹さんの霞脚(ヘイズステップ)とか、俺の槍高跳(ハイジャンプ)だね。戦技(スキル)ってゆーのよ」


「スキル?」

 雅久が声を弾ませた。


 巧聖は頷いた。

「いわば、特殊能力ってやつ。異空間の中だけで、普通じゃできないことができるようになるの。まぁ、三人はもう見たからなんとなく分かるっしょ?」


 巧聖が片眉を上げると、湊輔と有紗は一度、雅久は二度、静かに頷いた。


戦技(スキル)には二種類あって、使いたいときに出す動的(アクティブ)と、勝手に効果が発動してる静的(パッシブ)ってゆーのがあってね」


 つまり、動的戦技(アクティブスキル)静的戦技(パッシブスキル)

 まるでゲームだな、と湊輔はボトルを口元で傾けながら思った。


「どーゆーふうに戦技(スキル)が使えるようになるかは分からないけど、戦ってればそのうち色々使えるようになるよ」


「てことは俺も、すっげえスピードで動いたり、めっちゃ高く跳べるようになれるってことッスね!」


「あー……」

 巧聖がとても言いづらそうな声音でうなった。

「耀大ってゆー、雅久と同じ大盾使うのがいるんだけど、霞脚(ヘイズステップ)とか槍高跳(ハイジャンプ)は持ってないよ?」


「マジかぁ」

 雅久は絶望が極まったような表情を浮かべて肩を落とした。


 そして巧聖が余計な一言を告げる。


「まあ、湊輔なら霞脚(ヘイズステップ)使えるようになるかもね」


「だあぁーッ! 湊輔てめえッ、武器交換しろおッ……!」

 雅久がつかみかかってきた。


 するかバカ、と思いながら、湊輔は必死に抵抗する。

 でも、盾くらいは欲しいかも。


「じゃ、用は済んだし、そろそろ行くね」

 巧聖は返事も待たず、校内に戻っていった。


「ねぇ、昼休みいつもここにいるの?」

 有紗は弁当箱を片付けながら尋ねた。


「たまにな」

 雅久が湊輔の胸倉をつかんだまま答えた。

「あー、でも、あそこの話するときはここ来るかも。な、湊輔?」


 雅久にようやく放され、湊輔は乱れた制服を直した。

「まあ、うん」


「じゃあ、そのときはわたしも呼んでくれない?」


「ぇ……」

 湊輔は声にならない声を漏らして呆気に取られた。


 その様子を尻目に、雅久は鼻を鳴らした。

「おう、いいぜ」


 有紗は小さく頷くと、

「じゃあ、わたし先に戻るから」

 弁当箱を持ち、「あ……」とベンチに目を落とした。

 雅久に「気にすんなって。俺らが直しとくから」と言われると、また頷いて屋上を後にした。


「よかったな、湊輔」


 塔屋の扉が閉まってすぐ、雅久が意味ありげに言った。

 湊輔が目を向けると、やってやったぜ、とでも言いたげな満面の得意顔を見せてきた。


 湊輔がそっぽを向いたと同時に予鈴が鳴る。

 雅久と一緒にベンチを戻し、教室に向かった。


 * * *


 モノトーンに染まる尾仁角高校、B棟校舎二階。

 職員室の隣に設けられた放送室に、人影二つ。


 一人は椅子に腰かけた、幼気な少年。

 ホワイトカラーの緩いウェーブのかかった髪。

 首元から足首まで覆う白銀色のローブ。


 もう一人は長身を誇る老年の男。

 撫でつけるように整えられた白髪。

 深いしわの刻まれた顔。

 灰色基調の、礼装のような出で立ち。

 上着の丈はひざ下まである。


 どちらとも、瞳には藍玉のような青色が差している。


「災難だったな、アインよ」

 長身の男のしゃがれた渋い声。


「ホントにね」

 答えた少年――アインは穏やかに微笑みながら、手元の薄い紙束を眺めている。「それでどーだった、アハト? なにか異常は残ってた?」

 発した声は純情無垢な子どものよう。


 アハトと呼ばれた長身の男は、おもむろにあごひげをさすった。

「どこにもほころびは認められなかったな」


「そっかぁ……よくやってくれたよ、まったく。危うく回収前のタイキくんを傷物にされるところだったねぇ」


「それで、今後どうする? ここへの侵入方法が確立されたということは、至極の山羊(バフォメット)はおろか、他の眷属(けんぞく)を招きかねんが」


 アインはアハトに上目を向けた。

「いいよ、それはそれで。むしろこっちの宣伝にもなるからね」


「そうか……」

 アハトは重々しく目を伏せた。

「ちなみにその少年、回収はいつごろになりそうだ?」


 アインは持っていた紙束を置くと、別のそれを手に取った。

「もう十分育ってるから……いつでもいいんだよね。そうだなぁ……」

 天井を仰いでから、アハトに屈託なく笑いかけた。

「思いっきり青春を謳歌(おうか)してもらってから、かな」


 アハトは二度小さく、じっくり()み締めるように頷いた。

「では……今期の新参に、(くだん)の剣を持つ少年以外で、期待の候補はいそうか?」


「ふふ」

 アインは小さく笑った。

「いるよ。もう戦い始めてる二人と、あと二人だね」

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