その7
「初めて会った時からビビっと来てました! ああ、この人がパパだったらいいのになって」
「そんなものを初対面で思わないでください……というか、どこかで会ってましたっけ?」
「朝の荷物検査で会っていますよ」
「それは全校生徒の一人に過ぎない気がしますが……」
「あの時、私、貴方に何って言ったか覚えていますか?」
前述した話にもあった人間噓発見器ぶりを見事に全校に知らしめたあの荷物検査、勿論、僕もあれは受けているのだけど、その時、僕に言われた言葉は……実はちょっと他と違っていた。
一部の例外、それが僕なのである。
面倒なことになりそうなので、誰にも話さないでいたのだけれど、それはこういう言葉だった。
「分からない、でしたっけ」
「そうです! あの時、明らかに荷物からはみ出す勢いでニンテンドースイッチが入っていたのに、貴方は堂々と『やましいものは持ってきていません』って言い切りましたよね?」
「あの、はみ出しているのに気付いてなくて……」
「そこは天然で大変可愛いとは思いますが、その言葉に私は嘘偽りをまるで感じませんでした。最初は本当にニンテンドースイッチを学校に持ってきてもなお、やましいものだと感じていないのだと思っていましたが……そんなわけありませんよね」
当然、そんなわけはない。
やましいと思いまくっていた。
そして、自分で言っているけれど、八重垣先輩の嘘発見器にも弱点はある。
持ち込んでいる物を本心からやましいと思っていないのなら、嘘発見器も嘘だと判定できないのだ。
というか、それは嘘ではないから当たり前なのだけど……荷物検査においては弱点に成りえる。
例えば、ぬいぐるみを持ってきている者がいたが、その人は本心から自分の生活にはぬいぐるみが必要不可欠だと思っていたので、荷物検査には引っかからなかった。
そういう穴もあるし、実は他にも八重垣先輩の嘘発見器には穴がある。
八重垣先輩も当然そのことには気付いているので、僕の口をじっと見つて、己の弱点を話し始めた。
「貴方、嘘を付き慣れていますね? そういう人は嘘を嘘だと思わずに口に出来るので、分からないのです」
「まあ、そうですね」
そう、本物の嘘発見器でも同様なのだけれど、嘘をつき慣れている者ならあれは誤魔化すことが出来るのだ。
もしくは頭の中で言っている言葉の意味を反対にするとか、後ろ手に指をバッテンにすることで、今言っていることの逆が真実ですという暗示を自分にかけるとか。
まあ、そんな感じで色々突破方法はある。
どれも練習は必要だけれど。
「普通の学生がそんなに嘘を付き慣れるものではありません。それで、調べましたよ。貴方のこと」
八重垣先輩のその言葉に僕はぎくりと思いながらも、真顔を作る。
「恥ずかしい過去なので、あまり知られたくないのですが……」
「それはすいません。興味を抑えられない性質でして……えへっ」
お茶目に舌をペロっと出す八重垣先輩は可愛くて、可愛くて、そして可愛い。
学校で見かけた人形のような彼女とはとてもじゃないが同一人物には見えないその姿にドギマギしつつも、しかし僕は追い詰められていた。
考えてみれば、こちらの行動を完全に把握しようとする八重垣先輩なのだから、僕の過去くらい調べているのは当然の話だったか。
誰にでも過去はある。
僕にもある。
だけど、僕の過去は、僕にとってやや気恥ずかしいもので、誰にも知られないように生きていた。
ただ、それも自分に出来る範囲にすぎないので、調べればすぐに出てきてしまうだろう。
名は隠せない……特にネットの海の中では。
八重垣先輩はビシっと僕を指差して、楽しげに、名探偵のように僕の過去を暴き出す。