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その2


「いたずらの可能性が高いよな?」


 あまりのビックネームに仰天した僕と翼美は、その場で手紙を開けることなく、ひそかに隠し持つと、放課後の教室に人がいなくなる時を待った。


「ちょっと待って、ええっとねぇ、これが穂美香様の文字でしょ?」


 しれっと穂美香様呼びしながら、翼美はポケットからスマホを取り出すと、画面に現れた画像を見ながらラブレターの署名と見比べ始める。


「止め跳ね払いの処理が一緒だ。八雲ちゃん、筆跡鑑定の結果、同一人物の可能性が高いよ」

「なんでお前は八重垣先輩の文字の画像を持ってるんだ」

「穂美香様ファンクラブ会員のホエ民としては当然の用意だよ」


 胸を張って答える翼美。

 メンバー名が酷すぎるのはさておき、翼美が八重垣先輩のファンであることは以前から知っていた。


 その証拠に、御多分に漏れず翼美の髪型も八重垣先輩を意識した二つ結びとなっているのだけど、翼美は女子にしては背が高いものだからちょっと不似合いにも僕は思っていた。

 けれど、まあ、ファッションはしたいようにするのが一番だし、僕の審美眼などあてにならないだろうから、口に出して言ったことはない。


 それに翼美は眼鏡っ子ってだけで、僕にとっては百億点なので、何も問題はない。

 胸も大きいしね。


「これがミステリなら翼美、お前が掴まされた画像が偽物で、その偽物が僕にラブレターを送った説が考えられるよ」

「とんでもない疑い深さだねぇ、さすが八雲ちゃん。でも、この画像は穂美香様が生で書いているところを私が撮影したものだから、間違いないと思うよ」

「じゃあ誰かが筆跡を全力で真似て僕に送ってきたんだな」

「わぁお、とんでもない疑心暗鬼」


 翼美は手を広げて大げさに驚いて見せる。


「だって八重垣先輩は隙が無ければ好きも無いって話だろ? ラブレターとは最も縁遠い人のはずだ」

「あれはあくまでそういうポーズだと思うよ。人が人である以上、優劣をつけないなんて不可能だよ。それに好き嫌いをしないっていうのは、嫌いがないって意味で、好きがないって意味じゃないと思うな」

「それはそうだが……」


 好きが無いなんて言っても、結局は選択しなければならないわけで、そういう意味では必ず八重垣先輩にも好きと言えるもの、嫌いと言えるものが存在する。

 その視点で行けば、確かに八重垣先輩に好きな人がいてもおかしくはないのだけど……。


「翼美はこれがマジで八重垣先輩から送られて来たと思ってるのか? いや、そんな馬鹿な」

「まあねぇ、信じられない気持ちは分かるよ。でも、目の前に事実がある以上、真実もそれなりに認めないと」

「真実がいつも一つとは限らないというのが僕の持論でな」

「名探偵にはなれないね。八雲ちゃんは」


 呆れる翼美は眼鏡に触れながら、もう一度、ラブレターをじっと見つめる。

 そしてそのまま──ハートのシールを剥がして中身を開け始めた!


「よくみいいいいいい!???!?!?? 急になにすんだ!?」

「中身を見ないと何も分からないよ。それにここに放課後どこどこに来てくださいなんて書いてたら、穂美香様に申し訳ないし」


 ごもっとも過ぎて何も言えずぐぬぬとなる僕を尻目に、翼美は出てきた手紙をこちらに手渡す。


「さすがに中を見るわけにはいかないし、さっ、読んで読んで」

「……勇気だけくれるその姿勢、普通にありがたいぜ!」

「いたずらだったら笑ってあげよう」

「笑い話にしてくれるのも普通にありがたいな……」


 中身を見る勇気もない僕の背中を押してくれる翼美を前に、いつまでもビビっているわけにはいかない。

 僕も覚悟を決めて手渡された手紙を読んでいく。

 しかし、それはそんなちっぽけな覚悟なんて粉砕してしまうほどの、想像を絶する内容だった。


『こんばんは、八雲辰くん。恐らくこの手紙を読んでいる頃は放課後だろうと思いますが、今日の授業は集中して受けられましたか?』


「いきなり行動を読まれてる!?」


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