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13/13

その13



「ほわーーーーーーーーーーーーーーー!」


 という悲鳴なのか歓声なのかよく分からない声を上げると、穂美香はその端正な顔を夕暮れよりも赤く染め上げながら、呆然と突っ立って動かなくなってしまう。

 急激な興奮で電池が切れたのか、それとも回路がショートしたのか、その両方か……。


 仕方なく再起動させるために肩を……いや、頭の方がいいか。頭を撫でてみる。

 すると穂美香は猫のようにビクリと全身を跳ね上げた。

 変な声を上げながら。


「ほにゃ!?」

「おいおい、パパが変質者と間違われたらどうするんだ!」

「ふぇ? あっ、ご、ごめん!」


 謎の鳴き声を上げる穂美香の頭をやや力強く、しかし優しさも忘れずに撫でていくと、やがて緊張も解けたようで彼女は目じりを下げた。

 本物の猫みたいである。

 或いは本物の子供の様でもあった。


「び、びっくりしちゃって……来てくれたんだ」

「ああ、多分ここに寄ると思ってな」

「こ、行動を読まれてる……良いッ!」


 何やらブツブツと小声で言っているが、そこで喜ぶ原理はよく分からない。

 僕が思っている以上に面倒な性癖を抱えているなこの人……。

 この場にかなりの覚悟を持って立っている僕でも怯んでしまうほどに、今の八重垣先輩は普段とも、そして先日に見せた無邪気さともまるで違う姿を見せていて、実はかなり僕の心臓に悪かった。

 

 そもそも同年代の頭を撫でることが初めてだからね。

 しかもその相手が絶世の美少女と来ているのだから、そりゃあ心臓に継続的(スリップ)ダメージが入るのも当然である。

 だが弱気になってもいられない。

 なにせ今の僕はパパなのだから。





 翼美に電話した時点でかなり心が固まってはいたのだが、しかしパパと言うのはなろうと思って簡単になれるものじゃない。

 だから、調査の時間が必要だった。


 だからこの土日は、図書館で借りた古典やら教育本やら育児本やらラノベやらを参考にしながら、更に八重垣先輩に渡されていた謎の冊子も読み込んで役作りに励んでいたのだ。

 なにせこれまでの人生でまるで演じてこなかった役柄だし、リアル寄りがいいのかアニメ寄りがいいのかも分からずかなり手こずってしまったが、何とか今日間に合わせることが出来た。

 細かいところは結局、即興劇のように臨機応変にやっていくしかないというドキドキの結論に至ったのだけれど……心配していた先輩の反応は良すぎるくらい良すぎて、むしろ僕は困惑しているくらいだった。


 目上の人にこういうのもなんだけれど──チョロ可愛いなこの人!

 父として思わず心配になってしまう!

 

 

「それで一緒に帰ってくれるのか? ここで駄目って言われたら、パパ泣いちゃうけどな」

「そ、そりゃあもう! たとえこの後、世界を救う役目があったとしても駄目なんて言うわけないから! あの、でも、ちょっと……」


 やや気恥ずかしそうに穂美香は後ろをチラリと見つめる。

 そこには古ぼけたブランコやジャングルジムなどの公園遊具があって……うん、ここで気持ちを汲み取るのが父親というものだな。


「遊んでいくか? 少しくらいならいいぞ」

「い、いや、流石にこの年だと……」

「ある程度大人になってからやると色々発見が合ったりして面白いんだぞ! あと、意外とブランコが漕げなくなっていたりな」

「えー、それはない! 流石に絶対漕げるよー」

「それじゃあ、やって確かめてみないとな」


 まだ少し恥ずかしがる穂美香の手を取りながら、遊具の方へと足を進める。

 手を引かれる彼女の顔には、無邪気でもあり、年相応でもあり、けれど滅茶苦茶楽しそうな、そんな笑顔が浮かんでいた。

 とりあえず、その花のような笑顔が見られただけでもやって良かったと思う。


 結局、僕がパパになることを受け入れた理由は──八重垣穂美香のことが好きだったからなのかもしれない。

 いや、実際には僕も父親という存在に興味があったからとか、同情とか慕情とか好奇とか共感とか色々な感情が入り混じった結果なのだけど、それらの中で一番強かった気持ちは、彼女への好意であることは間違いなかった。

 というか、完璧超人でクールな先輩にパパになってくださいと言われたら、それはもうパパになるしかない!

 そう思いませんか?

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