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その10

 高校の、しかもそれなりの進学校の勉強なんて、年齢問わず分からない方が普通だ。

 それは父親も同様で、教職についているならまだしも、基本的には大多数が娘より高校の勉強に詳しいわけがない。

 使わない知識は減り続けるのみなのだから。

 八重垣先輩はむふーと自慢げに、そして鼻息荒く話を続ける。


「私としてはパパに勉強を教えるというシチュエーションには萌えるものがあります!!! どんと来いですね!!!!!」

「どんと来られてもられても困りますが、納得はしました」


 父親に勉強を教えるシチュが萌えるかどうかはさておき、嬉しくなる気持ちは分からないでもない。

 確かに自分の得意分野を親に教えるというのはそれなりに楽しい時間だ。よくゲームの腕前を自慢げに親に見せる子供もいるけれど、勉強を教えるのも八重垣先輩からしてみれば、それと似たようなものということだろう。


 なんだろう、だんだんこの話を受け入れ始めている自分がいる。

 八重垣先輩のトーク力は僕を引き込ませるに十分な魅力があった。

 いや、トーク力だけでなく、彼女自身にも圧倒的な魅力がある。

 そのうえで、彼女は更に畳みかけてくるのだった。


「勉強のみならず、娘として色々とお手伝いをさせてもらうつもりではありますし、パパ大好きっ子なので、大抵のお願いにはイエスと言って差し上げます!」

「た、大抵のお願いにはですか……」

「おや、エッチなことを考えましたか?」

「いえいえ滅相もない!」


 口では全力で否定しつつもやや不埒なことを考えていた僕だけど、自分がパパという立場になると思うと萎える部分もあった。

 ふ、複雑な気持ちだ。


「まあ、世の中にはヌードデッサンモデルになってあげる娘もいるわけですしね」

「やっぱりエッチな方向性のことじゃないですか! というかそれエスパー魔美の世界だけですよ!」


 藤子・F・不二夫の名作漫画、エスパー魔美では主人公魔美の父がよく魔美にバイト代を払ってヌードモデルをしてもらっているというとんでもない設定がある。

 一応、芸術なわけで一概にエッチと言い切るのも問題があるかもしれないが、明らかに藤子先生はお色気として描いていると思う。


「一応、セールスポイントだけでなくウィークポイントも言っておきますが……渡した冊子にも書かれていますが、私にはパパとやりたいことが100以上あるのです! 故にそれなりに大変だとは思います」

「まあ、パパになるなんて楽な仕事の訳がありませんよね」


 そもそも親になるということ自体が、全人類にとって最も大変かつ重要な仕事だろう。

 それに仮初とは言えなろうと言うのだから、覚悟は間違いなく必要だった。

 途中でやめるのも後味が悪いしな……。

 

「さて、そろそろ結論を出して貰いましょう。私のパパになるか、お父さんになるか、お父様になるか、パピーになるか、パードレになるか、二つに一つです」

「二つでもなんでもないですし、多分それ、全部パパって意味ですよね?」

「では言い方を変えましょう……パパになってくださいお願いします!」

「世界広しと言えど稀なお願いですね……」


 ついに答えを出す時が来てしまった。

 パパになるかならないか、究極の二択である。

 高校生でこの選択肢を迫られることがあろうとは……!

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