悪魔と天使
「ねえ、なんで?」
天使の人に押し倒されて、彼女の髪がこちらにかかって、その白い翼に覆われて。まるで彼女と狭い箱の中に閉じ込められてしまったよう。
そこで俺は考える。彼女を助ける方法を。
「ぁえーっと、知り合いに悪魔の方がいて……」
この天使な彼女とルリスさんのどっちが強いかは分からないけど、どちらにせよ俺としてはどっちにも怪我をしてほしくない。……いやそもそも怪我じゃ済まないかもしれない。
スキルとか言うあの神が作った意味不明な力で無理矢理自分のことを意識させて、そのスキルの影響下にある二人で決闘とか、なんかもう死にたいぐらい申し訳なくなる。
平和的に解決できればそれが一番だけど、天使と悪魔ってだけでもうダメそうだ。今天使の人も悪魔の匂いがどうとか言ってるし。
ていうかなんかすごい形相してる。そんなに? そんなに臭う?
「なんであくっ──」
唐突に、目の前から彼女が消えた。
直後に轟く轟音。音のした方を見れば、教会の壁が壊れてなくなっていた。
そして気づけば、目の前には悪魔の彼女。
……戦い、始まっちゃったみたい。
「メルちゃーん、あれだれぇ? 知り合いー?」
「いや、今初めて会った人だけど……」
「じゃー殺しちゃっても──んっ」
悪魔は外から飛んできた金色の槍を掴むと、身を翻し、宙を駆け迫る天使の一太刀を躱す。
続く二連撃目を槍で受け、鍔迫り合いの形になった。
「んー、天使にしては弱い?」
「っ……!」
しかしそれは長く続かない。
空いてる方の手で、天使の首に向け掴むような仕草を行う。するとどうしたことか、触れてないはずの彼女の首がぎりぎりと絞まっていく。
どうにか拘束から逃れようともがくも、叶わない様子。投げつけた剣も相手に届く前に空中で静止し、落ちた。
そしてルリスさんが槍を構え──、
「あっ、だめっ……!」
投げたそれは耳を穿った。
怒涛の展開も、決着は一瞬で決まったみたいだ。
「……えーなんでぇ?」
「いや、悪い人では無いと思う、から」
「あーメルちゃん優しーい」
そう言って抱きしめてくるルリスさん。耳ふさふさしないで欲しい。
一方で地面に落とされる天使の人。
片耳なくなってるし咳もしてるけど、まあなんとか大丈夫そうで一安心。
自分には全くわからないが、両者の間には明確な実力差があるようだ。
もっとこの村ごとなくなる様なバトルも想像していたから、一方的に終わってよかった。
意味わからないくらい強いけど、ルリスさん、一体何者なんだろうか。
「だ、大丈夫ですか?」
正座してるぼろぼろの天使に話しかける。
もう動く気力はない様で、だいぶ不服そうな様子で佇んでいた。
「そう見える?」
「えいっ」
そしてなぜか唐突に、ルリスさんの謎パワーが天使の右腕に飛んだ。
血飛沫とともに片腕が弾けてなくなる。
「ゔっあ"あ"あ"……!」
腕を抑え苦痛に表情を歪める天使と、弱ーいとか言いながら笑う悪魔。
一緒の空間にいさせるの、だいぶまずいかもしれない。
「る、ルリスさん、あの、これ以上攻撃は……」
「えー、だってメルちゃんに冷たくしたからぁ」
彼女の返答が気に食わなかった故の反抗らしい。
そんだけで相手の腕吹き飛ばしちゃうの、最高に悪魔してる。人外度高い。
だばだば血を流しながら苦しむ天使の様子を窺うと、そんなことを考えてる場合じゃないと思いつつも、ふと、名前を聞いてなかったことを思い出した。
「手ぇ見せてー」
「な、に……」
「味見ー」
「ぐっ、ゔうぅぅ!」
ああ、ルリスさんが血を直飲みしてる。
やっぱり名前どころじゃない。もうどうしようこれ。
「ルリスさん」
「はにー、うぇるひゃん」
「その人のことを治したりって、できますか……?」
「でひるおー?」
出来るらしい。
もう本当になんでもできちゃうんだこの人。困ったときはルリスさんだ。
「じゃあその、お願いします」
「んー!」
良かった、承諾も取れたよう。
顔中血塗れの彼女は徐に立ち上がると、天使の人に手を翳した。
口の中でまだなんかモゴモゴしてるけど、血ってそんなに美味しいの、ルリスさん。
「おわ、すご……」
思わず口から声が漏れるほど、仰天する光景を目にした。
傷が、急速に治っていく。腕が再生していく。
千切れた耳も併せ、ものの数秒で元の状態に戻ってしまった。
こんなの、神様と言われたら信じてしまうよ。
本当に何者なんだろう……? それとも悪魔とはこういうものなのだろうか。
「これでいーい?」
治療をしてくれたルリスさんにお礼を言いつつ、ひとまず状況が落ち着いたということに胸を撫で下ろす。これで天使の人と話ができそうだ。
だけどその前に。
「あの、ルリスさん、洋服見つかりましたか……?」
「うん、持ってきたよぉ。ボクが着せたげるー」
そう言うと、突如としてどこからか現れた服が、彼女の目の前に浮かぶ。
なかなかの数を持ってきてくれたみたい。しかもどれも高そう。
「じゃあまずこれ着よー?」
そんなわけで、片膝を抱えて座る金髪天使さんをそのままに、何の前触れもなく悪魔主催のファッションショーが始まった。




