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天使

(うーん、それは難しいわね)


 どうやらスキルを選び直すとかはできないみたい。


(そうですか……ちなみにその『刷り込まれ』っていうのは、一回発動したらそれで終わりな感じですか?)


(そうね、その通りよ。親となった対象は変えられないわ。良かったわね、最初に出会ったのがゴブリンじゃなくて。まあ、それはそれで面白そうだけど)


 そう言われれば、初めて会ったのがあの悪魔娘で、その次にあったのがゴブリンズだ。

 そう考えると、まだついてたのかも知れない。

 あとこの神様全然優しくない。


(それに、今そのスキルがなくなったら、あの悪魔ちゃんに弄ばれた挙句殺されちゃうんじゃない? 知らないけど)


(なるほど……)


 万事休す。終わり。

 このままあの人外と二人で、狂った倫理観のなか暮らしていくんだ。そのうち感覚がおかしくなって一緒に人殺しという娯楽を楽しむんだ。きっと。

 でも、もしそこまで壊れてしまえば苦しむ必要はなさそうだな。

 そう考えると、可愛い子と常に居れるんだからアリなのかも知れない。世界を敵に回して、美少女と二人だけの世界で暮らしていく、みたいなの。

 アリ。


(でも良いわよ、もう一個スキルを追加するくらい。私に気持ちよく語らせてくれた褒美としてね)


 やっぱさっきのはナシ。


(ほ、本当ですかっ?)


(ふふん、くるしゅうないわ)


(ありがとうございます)


 相槌が功を奏したらしい。この神様はなんて優しいんだろう。

 自分のコミュ力が念話でなら人並み程度はあるかも知れないことにも驚きである。


(どういうものがいいかしら?)


(えーと、とりあえず親心ではなく恋愛感情が良くて……)


 ひとまず間違えて欲しくなかったところを訂正。

 そしてどういうスキルがいいのか、ゆっくり考えてみることにした。


(なるほどね、わかったわ。じゃあ、次に貴方を見た相手が、貴方に恋愛感情を抱くスキルにしましょう?)


 すると何をとち狂ったか、神様がそう告げてきた。


(それじゃ、そのスキルを追加して、今日はここらでお暇させていただくわ)


(え、ちょっと──)


(頑張ってね、見守ってるわ)


 その言葉を最後に声は聞こえなくなり、気がつけば景色はさっきまで居た教会。

 念話を試みるも、返事はもう返ってこない。


「……」


 思わず呆然としてしまった。

 これはあれだ、完全に遊ばれている。だってここに戻る直前、クスクスと笑うお声が聞こえてきたもの。

 見る分には面白いとかそんなことも言ってたし、やっぱり全然優しくない、この神様。

 だがしかし、自分の念話でのコミュ力と、スキルとやらについて知れたのは大きいかも知れない。

 スキルとかあるらしいぞこの世界。

 ケモ耳でゴブリンで悪魔っ娘で、恐らく彼女が使ってたのが魔法。そして自分は美少女ケモ耳娘スキン。

 なんだか本格的にゲームみたいだ。


「どうしよう」


 まだ見ぬ世界に胸を躍らせつつ、しかし困ってしまったのは新しく貰ったスキルについて。どう考えても有効活用はできない。

 村の様子を見るにここら辺に生きている者はいないだろうから、あの悪魔っ娘がスキルの対象になるだろうし、そうなると特に今とは変わらないように……いやどうだろうか。

 もしかしたら、自分に対する態度が結構変わってしまったりするのかもしれない。

 いやそもそも、親心は上書きされてしまうのかとか、やっぱりどっちも彼女の中に残るのかとか、恋愛感情と両立ってするのかとか、そこら辺もよくわからない。全部神様のせい。

 もし新しく芽生えた感情によって押し倒されてしまったらどうしよう、なんて低俗な妄想もしてみたり。いや力関係的にどうしようもないんだけど。

 そんなことを考えていたとき、


「なに? これ……」


 聞こえてきたのは知らない声だった。思わず自然と視線はそこへ。

 ステンドグラスの前。虹色の光を受けて浮かんでいる、真っ白い翼と頭の上にある輪っかが印象的な女性が一人。

 悪魔っ娘に負けず劣らずな衣装を纏った、ほぼ裸な彼女は辺りを見渡して絶句していた。

 それもそのはず、辺りには散乱する死体と、至る所に付着した血糊。人によっては気を失ってもおかしくないと思う。

 そんな中教会探索を考えていた俺は、もしかするとだいぶ感覚が麻痺ってきているのかも知れない。


「貴方がやったの? そうなら──」


「あ」


 ここで気づいた。

 これ新しいスキルこの人に発動するじゃん。


「っ……」


 彼女の大きな目がさらに見開かれ、瞬きを数回。そして目を細め、こちらを睨みつけてきた。

 なんというか普通に機嫌が悪そうな顔だ。


「ねえ」


「は、はいっ」


「名前は?」


「め、メルって言います……」


 彼女の表情とその不躾な言葉に思わずたじろぐ。いやまあ、相手が誰であってもこんなもんだろうけども。

 とりあえず最初の言葉を繰り返さないように気をつけよう。陽キャへの道はそこから始まるはずだ、きっと。


「そう」


 にしても綺麗な人だ。

 顔が良ければ身体も美しい。どこを見ても欠点がないような容姿と、溢れ出る神々しいオーラ。

 それらが相まって、なんだか普通に話していいのか不安になってきた。

 ルリスさんと少し似た薄青の瞳に、彼女とは逆のつり上がった目尻。色は近くとも受ける印象は全然違った。どちらとも絶世の美少女であることに変わりはないけれど。

 出会う人出会う人こんな完成された見た目をしてていいのだろうか。


「……なに、そんなにジロジロ見て」


「ご、ごめんなさい」


「別に見るなとは言ってない」


「……」


「髪……ゴミついてる」


 そう言って天使の人はこちらに不時着。


「あの、どこら辺に……ぅ」


 正面に来たかと思えば、突然のハグ。

 彼女の控えめな小山を顔で感じる形。胸元を隠す白布も絹みたいにすべすべで心地が良い。


「ゴミ、は、取れました……?」


「いいからじっとして」


 なんだか髪を撫でられたり、スンスンと匂いを嗅がれたりしている。動けない。

 彼女の口調は変わらないが、やはりスキルの効力は発揮されてしまっている模様。

 大丈夫だろうか。このまま天国にお持ち帰りとかないだろうか。


「ん……やっぱり悪魔臭い」


「わっ」


「なんで……?」


 身長差と彼女が人外ということもあってか、簡単に押し倒されてしまった。

 強くは力を入れてこなかったことと、恐らく下に敷いてあるカーペットが割と良いものだったことから、衝撃はほとんどない。

 ていうか悪魔の匂いってそんなに漂うものなの? これから気になっちゃうんだけど。

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