prologue1 目覚め
お久しぶりです。なんだか毎回そう言っている気がしますね。
これまた毎回いうように久しぶりに小説を書いているのですが、今回のように長めの小説を積極的に描いたのは自馬手のように思います。
これはあ予約投稿なので実際には一か月ほど前に執筆したものがここに投稿されているのですが、
なかなか理想の形にならずに今までの数倍の時間を要してしまいました……
序盤の数話は毎週連載、十話を超えたあたりから隔週連載に切り替えて登校していきたいと思います(生活もあるので)
稚拙な文章ではありますが、ぜひ読んでいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
「おやおやまあまあ、やあこれハ。また珍しいお客さんだネ! いやァ、困ったわ。話すのなんて久しぶりだから言葉ガまだうまく調整できないケド、とりあえずはしゃべって調整するとしましょうカ」
耳にキンキンと響きそうな高い声が聞こえて目が覚める。日々食う声は頭の中でこだまするように耳に残り、しばらくの間こびりついて離れなかった。
辺りは自分の二の腕がかろうじて見える程度には暗く、指先や足元は完全に暗闇に飲まれてしまっていてどうなっているのかという確認のしようがない。足や腕の感覚はあるので見える範囲まで関節を曲げて動かすと、しっかりと自分の手足があることが確認できた。どうやらけがなどもなく無事なようだ。
丈の長いコートのようなものを羽織っているようで少々動きづらい中ではあるが、頬から感じ取れるこの場所の寒さを考えると、この服装はこの環境に対して妥当な服装であるといえるだろう。長く垂れ下ががる自分の髪を手で梳いて腕についていた麻ひもで、後頭部に軽くまとめて縛り上げた。
「さて、そこの君はいったいどうやってこの洞窟に入ってきたの?」
とにもかくにも状況が全く分からないので、半ばすがるような気持ちで、僕は高い声の発信源である【誰か】の問いかけに対して、ありのまま、嘘偽りなく答えることにした。
「ど、どうやってここに来たのかは……わかりません。たった今、気が付いたらここにいたので。あと、僕は誰なんでしょう?」
「私が知ってるわけないでしょ……?」
実際、自分がどこから来たのかなんてむしろこっちが聞きたいくらいだ。気が付いたらこんな暗闇そのもののような場所にいたのだから。なんなら自分のことさえもほとんど覚えていない。
どこから来たのかなんて言わずもがな、自分が何者で何ができて、何をしていて、何の目的でここにいるのか、もろもろの記憶が欠落しているようだった。
最初からそんなものなどなかったような気もするが、ないことがおかしいことなのも自覚しているので、ひとまずは欠落しているというように考えておくべきなのだろう。
何はともあれ、欠落した記憶については、特段必要性を感じなかった。大切なのはこれからどうするかというところだろう。
そんな調子で自分の思考を巡らせていると、再び【誰か】が口を開いた。
「自分が誰かもわからないほどにたくさんの記憶の欠落を体感しているっていうのに、どうしてか妙に冷静じゃないの、キミ」
「……なんというか、あまり重要な記憶であるようにも思えないというか、今ここで考えても仕方のないことといいますか。追々思い出すなりできればいいかなという適度にしか思っていないので」
「ふぅん?」
おどけた雰囲気でフンフンと鼻歌交じりに何かをいじっているその【誰か】の気配はひどく軽薄で、そして今に消えてしまいそうなほどに存在自体が薄く感じられた。
「あの、ところでここはいったいどこでなんでしょうか?」
「ここ? それもわからずにこんな果てにまで来てしまったのね。君は。ここはネ、神大陸アトランティスの北端。追いやらレた神々が住マう土地。よウこそ、失楽園へ!」
そう言った【誰か】の声は、僕の耳には異常なまでに弾んで聞こえた。
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「にしてもここに来た理由も、さらには自分が誰かも忘れているだなんてね。とーんでもなく厄介だねっ!」
一通りの現状確認の会話を終えると、【誰か】は考えるような唸り声を出した後、ボウっと何かを燃やしてその正体を現した。
よく見ると燃えた物体はどうやら大きな棍棒のようなもので、【誰か】は「君のカバンから拝借しちゃった。ゴメンネ!」といって、僕の肩に括りつけられた、サンドバックのような革袋を指さした。通りでさっきから肩が痛いわけだ。外そう。
「よし、じゃあ改めてあいさつをさ褪せてもらおう。初めまして、ナナシくん。私の名前はセック。この最果ての地の中でも最北に位置する、人っ子一人寄り付かないような洞窟の中に閉じこもっている哀れな女だよ」
セックはそう言って、立ち上がって自身の全身をあらわにした。
人間離れと表現すべき名程に整った顔立ちで、目の下には赤色の雫が何かの塗料で描かれていた。なぜかその真っ白な肌にはところどころひっかいたような傷がある。金色の髪の毛を腰のあたりまで長く伸ばしており、紅黒いニット帽のようなものをかぶっている。この場所は異常なほどに冷えるというのに、彼女は黒い薄手のワンピースを着ているのみで、あまりにも異様な風体だった。
「どうしてこんなに寒いのにそのような格好をしているんですか?」
先ほどから質問ばかりを繰り返している気がするが、気になるものは気になる。好奇心に負けて、ひとまず聞いてみるべきだと考えた。
「意味なんてものはないかな。強いて言うならここに閉じ込められた時からずっと私はこの格好で暮らしているよ? どれくらいたったかは長すぎて覚えていないけど。あとここ、温かい恰好をしようにも獣一匹すら住んでないからどうにもならないのよね」
彼女はケラケラと笑いながらそう答えた。
彼女の格好や言い分、周囲の状況を見ているうちに、もとより薄かった自分が何者かわからない、という恐怖がより希薄なものとなっていき、ここはいったいどんな場所なのだろうという好奇心が思考の大部分を占めていた。さらには、そもそも自分が誰かもわからないという状況に恐怖などはなく、むしろなぜだかわからないが、自分が誰だかわからないというその事実に少し安心さえしている自分がいた。
「ここはいったいどこなんですか?」
詳しい情報が知りたい。何かしたいことがあるわけでもないが、好奇心からただそう思った。
「だからさっき言っただろう? ここは神大陸アトランティスの北端。追いやられた者たちが住まう土地だよ。地名なんてものはないけど、多くの人たちは地獄だとか何とか言ってたね」
「なんて物騒な」
そんな場所に閉じ込められている彼女はいったい何なんだと問いただしたくもなったが、彼女は自分と話をしながら小刻みに震えているようだったので、先ほどの、おそらく自分の荷物であろうサンドバック状の革袋から、ひときわ大きくて丈夫そうな皮をひとまず彼女に見せた。
「これなら少しは寒さもしのげるんじゃないかな」
彼女は驚いたような顔をして、少しの間あたふたした後、顔を赤らめて小さな声で「ありがとう」とつぶやいた。
皮は同じくカバンの中にあったナイフで形だけは服のように整えた。素人仕事なのでどうにも不格好ではあったが、寒さという難題の前ではそれはあまりにも小さな問題だ。
出来上がったものを彼女に手渡すと、彼女は今着ていたワンピースの上からそれを羽織る形で毛皮のジャケットと毛皮のパンツを着る。
あまりしゃれた格好とは言えないかもしれないが、美人であれば何でも着こなせるというのはどうやら本当のようだった。
さらにこのことでちょっとした気づきもあった。僕は自分に関するプロフィール的な記憶を一切思い出せないにも関わらず、雑学的なものだったり技術だったりを瞬間的に引き出すことができたのだ。
「どうしたの、そんなに急に考え込んで」
あたたかな毛皮に頬ずりをしていた彼女だったが、どうやら今度は僕の様子が気になったようだった。
「いや、自分のことは思い出せないけど、割と覚えてることもできることも多いなって。今もこの毛皮を加工することができたわけだし、もしかしたらそういう仕事でもしていたのかなって思って」
いつの間にやら彼女に対する得体のしれない恐怖感のようなものもぬぐえて来ており、彼女に対する言葉遣いが自然とラフになってきた。
「ふぅん?」
なんだそんなことかとでも言いたげに彼女は適当に返事をし、毛皮を広げるとそこに猫のように丸まって寝転がってしまう。
「というかナナシくんはどうして私がここに閉じ込められてるのかとか、私がどうしてワンピース一枚でここで暮らしていたのかとか気にならないんだ」
「いや、気にならないなんてことはないんだけど……ちょっと、ね」
それでも聞きにくいということには変わりない。あまりに無遠慮に彼女の境遇などのプライベートに踏み入るような行為をすべきではないだろうし。聞くべきじゃないだろうということを、直感でも感じていたし、話の対価として差し出せる自身の境遇さえもこれまでの記憶がないため、ここで目が覚めてからの記憶が今の僕自身のすべてなのだから、彼女に一方的に何かをしゃべらせるような形になってしまうことに申し訳なさが勝るのだ。
「まぁ、大体ナナシくんが何考えてるのかはわかるよ。大方、いろいろ聞くのを申し絵開けないとでも思ってるんだろう? 私的にはそこを聞かれても何ら問題はないわけだけどさ」
そういった後、セックはすっと立ち上がりスタスタと歩きだした。
「急に歩き出してどうしたの?」
「今までは結界のせいでだれ一人っとしてこの洞窟の中に入ってきたことはなかったのに、そんな中でナナシくんがここに来れたってことは、もしかしたらここの結界が弱まったんじゃないかなって思ってね。出られるならこんな薄暗くて不気味な洞窟からさっさと外に出てしまいたいのさ」
「結界……そんなものがここにあったんだ?」
どういうものかはわからないけれど、それが原因で彼女がここに閉じ込められていたということは理解できたので、とりあえず変女を返しておく。
「ここに結界を張ったやつは結構厄介なやつでね。陰険なうえにいっつも私に対して監視の目を光らせて、終いには『見えない場所にしまってふたをして鍵をかければ問題ないことに気が付いた』とか言って私をこんなところに押し込めやがったのよ。あ~、思い出すだけではらわたが煮えくり返りそうだわ」
怒りの声を上げて今にも額に青筋を浮かべそうな彼女の後ろについて、棍棒たいまつと大きな革袋を持って歩いていく。
本当ならば前を行くセックがたいまつを持ったほうがいいのだろうけれど、彼女は火が付く前から僕のことが見えているようだったから、暗闇の中でもかなり目が聞くのだろうと思う。
「ナナシくん、君は人に聞くってことを覚えたほうがいいよ。さっきから聞くこと聞かずに自己完結しすぎじゃない?」
「っ!?」
まるで心の中をのぞいていますとでも言わんばかりの彼女の発言に少しばかり背筋に悪寒が走る。
「今まるで心をのぞかれているみたいだって思ったでしょ。そんなことはできないから安心して。私は少し感がいいだけだから」
すこし語気を強めてそう言った彼女だったが、急にこちらへ振り返ると「君が中に入ってきたってことは入り口が空いてるもんだと思ったんだけど……まあいいか。ひとまず少し後ろに下がっててね」といって、目の前に見える大岩に向かって、大きく振りかぶった拳を繰り出した。
セックの華奢な腕から放たれたとは思えない一撃が大岩をいともたやすく粉々に粉砕して見せた。
「ふう。だいぶもろくなっていたみたいだ、軽く殴っただけでも壊せたってことは、あいつに何かあったのかな……」
僕の目前には真っ白な雪で覆われた地表と、雲一つない晴天が広がっていた。ごうごうと吹き荒れる風は体感温度を大きく下げてたいまつの火を消してしまったが、そんなことはもうどうでもよかった。
見たことのない、知らない景色のはずなのにどことなく懐かしいような感じがして、洞窟の入り口から飛び出して周囲の景色をくまなく見渡す。
いくつもの剣山が立ち並び、その中でもひときわ大きい山の中に自分はいたようだった。
剣山が立ち並ぶ方向に背を向けると、そこには海が広がっていた。セックの言う通り、文字通りここが大陸の最北の山なのだろうか。
周囲を見ている間に、剣山の側からは激しい爆発音、何かが叫ぶ鳴き声などが響いていた。
「結界が弱まったのはここの洞窟じゃなかったってことね……今のはクロノスかしら……あってしまったら面倒ね……」
セックは顎に手を当てて考えるそぶりをしながらそうつぶやいた。
「これはとりあえずあいつに現状を聞きに行くしかないか……ナナシくんのことも何か知っているかもしれないし」
どうやら彼女は考えがまとまったようで、寒い寒いとつぶやきながらも体を手でこするようにして洞窟の外へと歩みを進める。のんびりとした歩みでそれこそウシのようにのろのろと歩き、少しばかり青ざめた顔でやっと外に出てきたと思ったら、今度はなぜか妙に明るい態度で僕のほうへと走って向かってくる。
「ナナシくん、今から私とあなたは旅に出るわよ! 拒否権はあるけど、ここの地理やその他もろもろの情報は私のほうが詳しいのだから、せめて安全圏に出るまでは一緒に行動してね」
細い腕をこちらに向けて、セックはびしっとこちらに向かって指をさす。
「今からあなたの正体を知っているかもしれない人に会いに行きます。一応さっき言った安全圏まで着いたら口頭で知らせはするけど、そのあともついてくるか来ないかはあなたの自由。どうしても自分の正体を知りたいっていうのなら私についてきてね」
セックは今までのにへらとした崩れた笑顔とは打って割って真剣な顔で淡々と続ける。
「今から私が会いに行く人の名前は、オーディン。自分のことを木の枝に逆さづりにしたり、両肩に馬鹿みたいに大きくっ育ったカラスを乗せてにやついてたりする奇人よ。ただ、知識だけはあるから、今回の湖お異常事態についても何かしら知っているはず」
オーディンさん、結構散々な言われようだ。どうやらよほど彼女に嫌われるようなことをしてしまった人らしい。
「本当はあのひげおやじには一ミリも頼りたくないのだけれど、背に腹は代えられないわ。ここの雲が晴れてるっていうことは大本の結界が壊れてしまっているってこと。各収容場の入り口の結界はその大本と結びついているから、大本が壊れれば一斉に壊れる。ナナシくんがあそこにいた理由だけはわからないけれど、とにかく、面倒くさいうえに暴力性が高かったり、悪知恵が働く面倒なやつらが野に大量に放たれてしまうわけなのよ」
どうやら先ほどから空を飛びまわったり、地面から巨大な気を生やしたり、あちらこちらで先決の雨を降らせたり、たくさんの人骨を地面から呼び出していたりする人たちはやばい人たちらしい。また一つ勉強になった。
「特に何人かは本気で野に放たれたらいけない奴らがいるから、私の気が変わらないうちに私以外全員の再封印を代償に私の再封印をやめてもらえるように交渉に行くわ」
あれ、ここにはやばい人たちしかいなくて、そんな中でも一番奥に封印されていたセックって一体……
「そんなことは今はそうでもいいでしょ。とにかく今はアトランティスの西端、世界樹の森を目指すのよ!!」
セックはうっすらと額に汗をかきながらそういうと、半ば強引に僕の腕を引っ張るようにして、軽やかに跳ねるようにして下山を開始した。
読んでいただきありがとうございました。
モチベーションが下がりやすいたちなので何かしらお声がけしていただけると嬉しいです。
また次回のお話もぜひ一読よろしくお願いします。