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また、後始末ですか?

作者: チャイ子のスキー

初めての投稿です。

どうぞ、どうぞお手柔らかにお願いします。

転生もの、転移ものが、大好きなのでちょっと思いつきで書いてみました。

すでに誰かが書いたネタかもしれませんし、非常に稚拙な文章ですが、広い心でご容赦ください


そこはいくつかの国が交わる国境の高い山の中腹のとある施設でのお話。


深い深い黒々とした樹々が延々と続く森を抜けていくと山の中腹あたりに大きな要塞のような建物が姿を現す。

高い壁に守られ、窓の少ない城壁のような建物のような壁からして怪しい雰囲気を醸し出す。


1台の馬車がその要塞に向かってゆっくりと走っていた。

中にいるのは一人の美少女、しかし彼女は・・・やさぐれていた。


彼女はこの国境に面した国の一つであるカルディス公国からここへ連れてこられているのだ。

そして彼女は「罪人」として罪人用の鉄格子のはまった馬車で長い道のりを運ばれてきているのだ。


「ねぇ、まだつかないの?」

「黙ってろ。」

「もうお尻が痛くて、この馬車、クッションもろくにないじゃない。」

「いい加減にしろ。

 お前は罪人としてあそこへ行くのだぞ、何度言ったらわかるんだ。」


護衛というのか、監視というのかそんな感じの兵士がもう何度目かわからない会話を繰り返した。


「どうして私が罪人なのよ。 

 おかしいわ。(ルートは)間違ってなかったはずよ。」


ブツブツと独り言を繰り返す彼女を兵士はまた何度目とも知れない溜息をついてから、無視することに決め込む。


やがて馬車は不気味な要塞の入り口の門へと到着する。

御者が通行証を見せ、門番に書状を手渡すと大きな門が開いて中へと入っていった。

不気味な塀の中は建物まで続く美しい庭園だった。


「まぁ、すてき! お城のお庭のよう。

 やっぱりそうよね。ヒロインには美しい場所が似合うのよね。」


1人勝手に盛り上がる彼女を尻目に兵士はどうしようもないなとばかりに小さく首をふった。


ゆっくりと馬車が建物の大きな入り口の前で止まる。

若い執事のような男が近づいてきて、御者に何かを話しかけていた。

そして、4回のノックがされると兵士は馬車の扉の内鍵に手を当てる。

ガチャリと音がして馬車の扉が開けられた。


「おい、降りろ」


兵士がうながすと


「女性が馬車を降りるんだから手くらいかしなさいよ。」


いまだ何様かという態度で手を差し出すが


「一人で降りろ、俺は馬車に残るんだ。」


と冷たくあしらわれた。

しぶしぶと降りる彼女に外から執事のような男が手を差し伸べる。


「まぁ、ありがとう」(ふふふ、やっぱりそう来なくちゃ)


と優雅に手を差し出したところをむんず手首を掴まれ、引っ張るかのように降ろされた。


「何するの!!」


こけそうになったところを踏ん張って、キッと執事のような男をにらんでみるが、まったくこっちを見ていなかった。


「さっさとしてください。もうあなたはご令嬢でもなんでもないんですよ。」


掴んだ手首を離そうとせず、御者と兵士に小さく敬礼をするとそのまま彼女を引きずるように入口へと向かっていった。


馬車の扉はゆっくりと閉まり、来た道を今度は前より小走りに帰っていった。

そう、『こんなとこに長居したくない』とばかりに。




「痛いんですけど!ねぇ、痛いんですけど!手首離してくれませんか?聞こえてる?」


手首をつかんだまま、ずんずんとどこかへ連れていかれているのだが、なにせ速足なのでたまらないとばかりに訴えるが、まったく相手にされない。

ぎゃーぎゃー騒ぎながら進んでいくと、一つの部屋の前で立ち止まった。


「入ります。」


一言だけで戸がゆっくりと開かれていった。


(魔法?それとも魔道具?)


驚いて見ているとまた乱暴に腕を引かれて中へ連れていかれた。

窓辺に人影が一つ。

逆光なので顔は見えない。

座っているので背格好もよくわからないが、シルエットで女性らしいとだけはわかった。


「お疲れ様、そこへ座らせたらあとは任せてもらって構いませんよ。」


落ち着いた声だが、少し疲れたような声が執事に向かってかけられた。

木の椅子が一つ、部屋の中央にある。そこへ無理やり座らされるとやっと手首を離してもらえる。


「もう、赤くなってるじゃない、痛かったのよ!!」


文句を垂れるが、誰も聞いてない。

執事は黙って出て行ってしまった。


「さてと」


ゆっくりと女性が立ち上がり、側へ歩いてきた。

美女というほどではないが、整った顔、長い黒髪、そして年齢不明のその雰囲気にしばし、ガン見してしまった。

その失礼な態度を気にするでもなく、彼女が質問してきた。


「あなた、名前と年齢は?そして罪状はなんだったっけ?」


「あ、リンジェ・アークネスト、アークネスト男爵家の娘です。歳は16歳です。

 罪状っていうの? 王子様を騙したって言う冤罪でここに来ました。」


急な質問に戸惑いながらも答えると女性は妙な顔をして眉を顰めた。

そんな彼女を気にする様子もなく、言葉が続けられた。


「私が冤罪ってわかってると思います。

 早く皇太子様のもとへ帰してくださいませ。

 どうしてこんな所に来なきゃいけないのかさっぱりわからないんですのよ。」


イラつく少女を彼女は呆れた顔で見ていた。


「あぁ、冤罪ねぇ。 うーん、説明するの面倒なんだわ・・・」


本棚から一冊の本を片手に取るともう片方の手でパチンッと指を鳴らす。

すると本はひとりでに宙へと浮かび上がり、淡い光を放ちながらパラパラと頁が捲られていく。

しばらくすると1枚の頁がスッと立ち上がったまま、また彼女の手の上へと戻っていった。


「ありがとう、ふーん。そうなんだ・・・」


そのページに書かれている内容を読みながら彼女は独り言ちながら周りをウロウロと歩き回りだした。

しばらく黙って待っていたが一向に止まる気配もないのに痺れを切らしてリンジェが声をかける。


「ねぇ、何なの? ほったらかさないでほしいんだけど」


まったくの無視。イライラしてきたようで今度は大きな声をだした。


「あのさぁ、私は無実の罪でここに来てるの。

 無視しないでさっさとお城に返してほしいんだけど。

 皇太子様がねぇ、私の帰りを待ってるんですけどぉ。

 早く結婚式の準備したいんですけどぉ!」


イライラついでに立ち上がろうとしてみるが、何故だか立ち上がれない。


(何これ?魔法が使われているのかしら?)


とにかく抗議すべく、ガタガタと椅子を揺らすとちらっとこっちを見た。

文句の一つも言ってやろうとすると先に彼女が口を開く。


「もう一回聞くから、()()()()答えて。

 名前と年齢と罪状を言ってくれる?」


「だから、名前はリンジェ、リンジェ・アークネスト! 年齢は16歳よ!

 冤罪でここに送られてきたの!」


やれやれといった感じで肩をすくめて、彼女がスッと本を投げるしぐさをすると本は勝手に羽ばたいて元の場所へと帰っていく。


「ここの施設の説明聞いてきたよね?」


「いいえ、向こうでは私みたいなのが行くところとしか言われなかったし、

馬車の中で罪人を送る所だって聞いてたからてっきり刑務所かと思ったの。

外観は怖い感じだったけど、中は綺麗なお城みたいなとこでびっくりしてます。」


急に夢見るような口調になったリンジェに憐れむような顔をして溜息をついた。


「あぁ、最初っから説明かぁ。めんど!」


左手をスッと差し出すとどこからか椅子が彼女の側にやってきた。

すとんと座ると溜息をついてから話し出した。


「よく聞いてね。 ここはね。

 あなたみたいな、転生、もしくは転移してきたと思わしき子達のための施設。

 もうちょっと詳しく言うと乙ゲーの中にやってきたとか、ラノベの『チート系』になったと思って色々とやらかしちゃった子たちの更生施設ね。」


「へ?やらかした?更生?って・・・

 ここって『リンジェ・真実の愛~貴方と永遠に~』の世界じゃないの?

 だって、皇太子様も同じ名前で同じ顔で。

 攻略相手もみんな揃ってて、令嬢たちだって・・・」


「はい、スト―ップ!!!」


困惑したリンジェが早口で喋りだしたが、それを大声で制す。

あきれた表情で肩をすくめ、落ち着くようにというように手を上下させてきた。

すると急にリンジェの気分が落ち着いてきた。


(これも魔法なの?鎮静作用がある何かの薬をかがされてる?)


すっかり落ち着いてきたころを見計らうように真正面にいる彼女がゆっくりと話しだした。


「毎年ね、どこかのヒロインだの、勇者だの、魔導士だの、聖女だの、魔物使いだのといってバカが此処とつながってる5つの国のどこかに落ちてくるのよ。

これはたーくさんいる神の中の誰かが、転移とか転生とかでやらかすんだけどね。

あ、召喚も神の力がいるから一緒よ。

転生の場合はまだいいわ。赤ん坊から育てなおししてくれるんだから、途中で気づく子も結構いるのよ。

でも転移とかは超やっかい。この世界がゲームだか、ラノベの世界だと思い込んで突っ走ってやらかす子が多いのよ。

で、あなたもその中の一人なのよね。

1週間ほど前、あなたのいた国、カルディス公国から連絡があってね。

どうもそれらしき子が皇太子の周りでやらかしてるって。

で、罪を犯さないうちに保護しようってことになったんだけど、手配したときには時遅しでやらかしちゃったのよね。」


ここまで一気に喋ると彼女はふぅっとため息をついた。

そして右手でクイッと指をまげて軽く振るしぐさをする。

するとどこからかティーセットを乗せたワゴンがひとりでに表れて二人の前で止まった。


「お茶飲む?」


のんきに尋ねられて素直に頷くと美しいカップに紅茶が注がれた。


「乙ゲーなら紅茶よね。しかも薔薇のシュガー付きで」


優雅な仕草でバラの香りの砂糖の添えられたソーサーごと手渡された。

砂糖を紅茶に入れるとフワッとバラの香りが立ち上る。

促されてそのまま口にすると紅茶とバラの香りが広がり、優雅な味を醸し出した。

ニコッと笑いかけた後、彼女も紅茶を口にする。


「相変わらず、いい香りと味だわ。

 本当ならお菓子も欲しいとこだけど、取り調べだからしょうがないわね。

 テーブルもなくて殺風景だけど、紅茶でも飲みながら話しましょうか。

 土岐(とき)ゆう子さん。」


「グッ、ゲホッ!!」


急に転移前の本名を言われて紅茶を吹き出しそうになる。

何とかこらえたものの、もう紅茶なんて飲めない。

こぼれんばかりに目をひらいて彼女を見つめると優雅にお茶を飲んでいる。


「なんで、私の前の名前を知ってるの?」


ようやくひねり出した言葉は震えていた。


「えぇ?さっき神様からの申し送り書を読んだから。」


「申し送り書?」


「ほら、さっきの本。あれね、私の神様との連絡方法のひとつでね。

 ここに来た人たちについて教えてくれるの。

 後始末を私に押し付けたんだから、色々とフォローしてもらってるのよ。

 色々とね・・・色々と。」


さっきまでのにこやかな表情から、どこか闇を見るような不気味な笑顔になりながら答えてくれる。


(なんか、この笑顔、前いた会社のクレーム担当者に似てる)


リンジェ(ゆう子)は昔、連日のクレーム対応で疲れ切っていた同僚の顔を思い出していた。


「・・・さて、取り調べを続けよっか。

 今回の罪状は簡単に言うと、皇太子の婚約者ならびに側妃選びの場にいたあなたが身分差も考えずに突撃し、その上で皇太子の周りを付きまとった。

でもって魅了の石の力でかどわかして結婚の約束をこぎつけたはいいが、身分差で側妃にという話を聞いて、皇太子の側近達までも魅了して婚約者の令嬢を蹴落として王妃に収まろうとしたってとこか。

まぁ、婚約者候補の公爵令嬢が頭のいい人ですぐ気づかれちゃったみたいだけど。

というか、側妃でよくなかったの? 王妃はキツイよ?」


「な、なんでそんなこというの?私は『リンジェ』のヒロインよ。王妃になって末永く愛されて幸せに暮らすのが王道のエンディングでしょう?

なのにライバル令嬢は知らない子で悪役令嬢だったはずの子が全然、悪役じゃないし、かと思ったら全く知らない子が悪役だし、攻略のアクセサリーはドロップできないし、味方になってくれるはずの王妃様からは嫌われちゃうし、ちゃんと攻略本の通り、何度もやったのに、間違ってないはずなのに!」


「そうねぇ、皇太子は全く目を止めてくれないし、イベントだってちゃんとこなしたのに何の成果もないなんて不思議よねぇ。」


全く不思議とは思ってない顔で相槌を打つ彼女にリンジェ(ゆう子)はイラついてきた。


「なに?面白がってるの?人の不幸が好きなの?

 それとも年下の女の子をからかって楽しいの?」


素知らぬ顔で紅茶を飲む彼女はふぅっと小さなため息の後、言った。


「女の子ねぇ・・・

 うーん・・・   昭和生まれのアラフォー。いやアラフィフになっちゃうか?

 転移してきたのが8年前だから、その時、アラフォーでそれから8年たったから今はアラフィフだよね。」


サーッと音をするような勢いでリンジェ(ゆう子)の顔色が変わった。


「うん、、リンジェシリーズってかなりの長期シリーズじゃん?

 その中でもカルディス公国に来たってことは初期シリーズ組よね。

 そんでもって皇太子攻略は初期も初期、ファーストだよね。

 最近の子ならアプリ系から入るから、カサンドラ王国に行っちゃうのよ。

 中期の子達ならデスフィニア帝国かちょっと離れてルーエント海国だもんね。」


すらすらとリンジェシリーズの説明を始められてリンジェ(ゆう子)は茫然とした。


「なんであんたが知ってるの?」


「私も同郷のものでございますぅ。

 そこそこゲームは詳しいってところかなぁ。

 ま、どうでもいいけど、そんなこと。

 でもって、今の職業は『更生請負所の所長』って妙な管理職です。

 あなたみたいなのにここの現実を教えて、更生してまっとうな人生を歩めるよう訓練するの。」


「現実? なにそれ、だってここはリンジェの世界なんでしょ?」


「いいえ、違います!」


きっぱりと宣言されてリンジェ(ゆう子)はがっくりと項垂れた。

走馬灯のように頭の中をいろんな思いが駆け巡る。

辛い前世で夢見た世界にやってこれたのに、違う世界だと言われて心折れた。

学生時代にイジメられた仕打ちや30過ぎて独身だった自分に後輩の女性社員や上司の男性から投げつけられた心無い言葉のあんなことやこんなことが頭の中に蘇ってくる。

思い出しているうちに涙がぽろぽろと流れだし、止まらなくなってきた。


「どうして、やっと幸せになれるって思ってたのに・・・

 ここならお姫様になれるって思ってたのに。」


グズグズと泣き崩れるリンジェ(ゆう子)に彼女が近づいてきた。


「あのね、あっちが辛かったからこっちでは無条件にハッピーなんて夢見るのは勝手だけど、現実見ようよ。

転生、転移して、さぁハッピーライフ!なんて、ゲームやラノベじゃないんだから。

それより、少なくともあなたは前とはずいぶんと違うじゃない?

今は結構な美少女よ? 鏡見てるんでしょ?

これって凄いことじゃない?

おまけに実家は男爵家っていってもかなり裕福でしょ?

その上こんなことしでかしたにもかかわらず、ご両親は心配してくださっているのでしょう?

家族以外の人達だってあなたを待っててくれてるみたいだし、ずいぶんと恵まれてるじゃない?」


そう言われてリンジェ(ゆう子)はハッとしたように顔を上げた。

自分が騒ぎを起こして捕まって牢に入れられた時には両親が何度も面会に来てくれた。 

一度も叱りつけたり、変に嘆いたりせず、静かに諭そうとしてくれてた。

ここへ行くことが決まっても「必ず戻っておいで、待ってるよ」と言ってくれた。

なのに、自分はその言葉をちゃんと聞いていなかったのではないだろうか。

ここへ出発前に荷物を取りに寄った屋敷ではいつも側仕えしてくれた女中や執事達が涙ながらに

「お嬢様、お気を付けてください。お帰りをお待ちしております。」

と言ってくれたじゃないか。

そんなあれやこれやを思い出して、自分の至らなさにまた涙が出て止まらなくなってくる。


「私、どうしてこうなっちゃったのかしら。

 なんであんなことしたのかしら、ちょっと考えたらわかるのに。

 綺麗になって、浮かれて、頭がおかしかったのよね。

 でも、後悔しても遅いんですよね。

 ごめんなさい。お父様、お母様、みんな・・・」


だんだんとグチャグチャな泣き顔になっていくリンジェ(ゆう子)に彼女は優しく声をかけた。


「大丈夫。やり直しできます。泣かないでいいのよ。

 まずはこの世界の常識から学びなおしましょう。

 ここの施設の人たちがちゃんと教えますから心配しないで。

 この世界の常識を理解して、ちゃんとした振舞いができるようになったら、家族のもとに帰ることができますよ。

 ここで、更生したと証明書を持って帰れば陛下も皇太子さまもお許しになります。

 そういう約束ですから。」


「本当に?」


縋るようにリンジェ(ゆう子)が彼女の顔を見つめて尋ねると優しい笑みがかえってくる。


「ええ、本当です。

 でも、今から大変な生活になりますが、耐えられますか?」


「はい。頑張ります。というか頑張るしかないんです。

 たとえいじめられてもどんな罵詈雑言言われても耐えます。

 オシャレができなくても、こき使われても弱音を吐かないよう頑張ります。」


「うん、そんなひどいことしないから・・・」


リンジェ(ゆう子)の言葉に彼女は遠い目をして答える。

(なんで、そっちにいくかなぁ?っていいうか、リンジェ転生者ってそういうのばっかりなの?

 転生させた女神ってそういうの選んでるの?根本的に駄目(女)神か?

 絶対、後で絞めとかなきゃ。)

心の中でそっと毒づいてみるも、まずは目の前のリンジェ(ゆう子)のことだ。


「では、あなたは第4棟で男爵令嬢としてこの世界の常識と貴族社会の常識とマナーを身に着けてもらいましょう。

 そして周りに迷惑をかけないで身の丈に合った生活ができることを目標として過ごしていただきます。

 そろそろ案内人が来ますのでついて行ってください。

 頑張ってくださいね。


 でも、もし途中で更生はダメだと判断されたら、その時は・・・」


「その時はどうなるのですか?」


「あなたをこちらに転移させた駄女・・むにゃむにゃ。女神さまと一緒に連帯責任となります。

 そう、駄女神と一緒にね。」


手元のカップがピシッとひび割れ、そのまま額に青筋を立ててにっこりと笑う顔にこれ以上聞いてはいけないと察して、小さな声で「そうなんですね」としか言えなかった。

 

「さて、案内人が到着したようです。彼女について行ってくださいね。」


いつのまにか椅子の後ろにシスターともメイドともとれるような不思議な女性が立っている。

びっくりして立ち上がると今度はちゃんと立ち上がれた。


せめてと思い、きちんとカーテシーをする。


「ありがとうございました。これから誠心誠意、頑張って更生いたします。

それでは失礼いたします。」


挨拶をしてからリンジェ(ゆう子)は案内人の後ろについて部屋を出ようとする。

その後ろ姿に向かって


「きっと大丈夫、諦めなければ、大丈夫ですからね。」


と彼女が声をかけた。一瞬立ち止まり、小さく振り返りざまに頭を下げたリンジェ(ゆう子)は案内人について、行ってしまった。

静かに扉が閉まり、足音も聞こえなくなった頃、彼女は一つ伸びをする。


「ふぅ、さてと 次は・・・」


そして本棚の前に行き、先ほどとは別の本を取り出し、同じように指を鳴らす。

これまたさっきと同じように本は浮き上がり、独りでにパラパラと頁がめくれて、ある頁が示された。

そうして彼女はそのページに目を通すと盛大にため息をついた。


「あぁぁぁぁぁ!!!、またこいつか。もうお仕置きだね。」


本を片手に机に戻り、引き出しの中から四角い板のようなものを取り出す。

トントンと指で何度か表面をつつくと淡い光のあと、抑揚のない声がする。


「何をいたしましょうか。所長」


「全知全能の神、ゼニウス・ザザへ繋げて。」


すると『プルルルル、プルルルル』とどこかで聞いたような間抜けな音がした後に


『はい、ゼニウスです。ただ今留守にしております。ご用件のおありの方は・・「居留守使うんじゃないよ。」・・・ハイ。ごめんなさい』


「あのね、クレーム対応係の上司として、あなたが逃げられると思ってるの?」


『いえ、思いません。思ってませんよ、でも怖いもんは怖いです。』


「何が怖い?この後の話が怖い?

 さもありなんと思うけど、怖いんだったら、さっさと片付けましょうか!」


『ハイ、ワカリマシタ、スグ、タイオウ イタシマス。 ゴヨウケンヲ オハナシ クダサイ』

(怖いのはあなたですとは言えません!)


「何、片言になってるの? ま、いいわ。用件が先よ!

 で、今回はあのラブリエッティ女神をお仕置き!!

 転移でまたやらかしてくれたのよ。さっきその被害者を更生施設に連れて行ったところよ。

 ここ数年で何回目?仏の顔も三度っていうけど、三度どこじゃないわよね?」

 

『それに関しては全く、異論はありません。

 私もうんざりしてます。

 すでに6回目、それも”リンジェ”関係ですね・・・

 これは、もう仕方ありません。

 お仕置きはあなたの決めた通りにいたします。

 ところで、今回はどのようなものにするつもりですか?』


「”この施設の玄関の足ふきマットで30年の刑”ってとこですかね。」


『え?30年・・・マットは30年はもたないですけど。』


「つっこむとこはそこかい! じゃぁ、”玄関外のマット下の石タイル50年の刑”に変更」


『あくまで踏みつけられるのを望んでるのね。

 何気に年数もふえてますが・・・「文句ある?!」 ハイ、ワカリマシタ。

 ソウソウニ タイショ イタシマス。』(怖えよ。怖えんだよ。)


「また、片言になってる?」


『う、ぅん、いえいえ。(悟られた?怖っ!)

 ところで、別件ですが、わかってると思いますが、今月いっぱいで駄神マルクと駄女神ティファのお仕置きは終了ですよ。

 あなたの椅子と茶器になって心底、反省してますから、元に戻しますよ。

 今後は普通の椅子と茶器を支給するから、延長とか無しですよ。』


「チッ、覚えてたんですね。 便利だったのに。仕方ないから我慢します。」


『舌打ち? 今、舌打ちしたよね? 』


「空耳です。とりあえず駄女神ラブリエッティのお仕置きは決定です。

 早々にこっちに送ってください。」

 

存分にふんぞり返った彼女が画面に向かってそう言うと、しょんぼりした声で了解と告げると通信は切れた。

そして疲れ切った彼女は机に突っ伏して、盛大な溜息をついた。


今は名もなき「所長」とだけ呼ばれている彼女は前世ではそこそこゲームが好きで何度かシナリオライターの作品を応募したりもしたことがあったりする。

ま、受賞したことは一度もなかったが。


しかし、何より彼女がこの世界に呼ばれた理由は、前の世界で非常に面倒見がよかったからである。


なにせ、自分の子供達の小学校から高校までの間、何度も保護者会やら地域の何やらの役員をしてきたのだ。

そして、いつも決まって、NO2だったのだ。

そう、NO2

それは一番上である「長」がやらない、細々とした根回しやフォローをし、時に上がやらかしたことの後始末をしたりという、厄介な立場だったのだ。

それをなんと、10回もやっているのだ。

しかも仕事じゃなくてボランティアのようなもんだったのだから、びっくりだ。

本人はしょうがなくやっているんだが、他人の目には物好きと映っていたことだろう。

だからこそ、この世界の後始末をするにはうってつけだと目をつけられたのだろう。


死ぬ間際に頭の中に直接話しかけるように


  「貴女は選ばれました。」


という妙な声が聞こえたときに嫌な予感がしたのだ。

それは、最も後始末が大変だった脳筋保護者会会長の下で副会長に選ばれてしまった時とおんなじ嫌な感じがしたのだ。

そして予感は当たってしまった。


最初にこちらの神と対面したときに見事なほどの土下座で出迎えられた。

そして、この世界の転移だの転生だのの後始末をお願いされ、引き受けるまで延々と土下座されたのだから。


(断れなかった私が悪いんですよ。

 でも、あのスライディング土下座はないよなぁ。

 嫌ですって言って、どっち向いても目の前に滑り込んでくるなんて、断り辛いったらありゃしないわ。)


結局のところ、押しに負けて引き受けてしまった。

この押しに弱い自分の根性のなさは前からなのだから、今更、嘆いてみてもしょうがない。

そう、請けちゃったんだもん。


あと少ししたら、また誰かが運ばれてくるらしい。

ここのところやたらと転移や転生が多くなっている。いい加減にしてほしい。

このままいくと、もしかしたら施設の定員オーバーもありうる。

そうだ、そろそろ施設の増築もお願いをしよう。

その時は自分のリラックスルームなんぞも作ってみようかなどと考えてみる。


(私もあっちの世界の人だったんだけどねぇ。なんでこんなことになったかなぁ。

 まぁ、それも運命とか言うやつか?

 しかし、死んだ後も後始末してるってどうよ?)


そうこうしているうちにまた、馬車がやってくる音がする。

大きな溜息をついて次の後始末のことを考える彼女だった。




どっとはらい。

読んでいただき、誠にありがとうございました。m(_ _)m

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― 新着の感想 ―
神って・・。
[一言] もしかしたら、なるべく派手なトラブルを起こしそうな人間を捜して、転生転移させて、叱られて、罰ゲーム。までが一連の遊びなのかもしれませんね。 誰が一番ヒドイ罰を受けるかを競ってたりして。 次…
[一言] これが暇をもて余した神々の遊びか。
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