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プロローグ
目の前の男は、妖しく光る真紅の瞳でこちらを見つめる。少し長めの、上質な絹糸のような金髪から覗くその瞳は、人と違う、寒気すら覚えるほどの美しさを持っていた。整った口元を吊り上げ、目を細め、妖艶に哂っている。私は、薔薇の庭園に立つその男を、敵だとわかっていても、心の底から美しく恐ろしいと思ってしまった。
白い牙をのぞかせて、微笑をたたえながら、男は言った。
「いいぞ。俺はお前を気に入った」
男は、幾度となく斬り付けた筈なのに、傷どころか埃すらついていない手をこちらに伸ばしてきた。手は私の長い髪と、頬に触れる寸前のところで止まる。まるで大切なものでも扱うかのように、ゆっくりと、撫でるように手を動かしながら、この男は――化け物は言った。
「――俺はお前に、恋をした」