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茜と徹が一緒に帰るのは、特に意味はない。腐れ縁というか、世間一般に言う幼馴染というやつだった。恋愛だとか恋人だとか、当人たちにはそんな感情も期待もない。家が近い。昔から遊んでいた。それだけで高校まで縁が続くとは、このご時世珍しいのかもしれない。大体は自然と疎遠になってしまうはずなのだ。茜と徹のクラスは別々なのにもかかわらず、月に一回か二回、多くても週に一回、一緒に帰ることがあった。
物心ついたときからそばには茜がいた。保育園に入る前は、母親に連れられて近くの公園で一緒に遊んだ記憶がある。保育園に上がってからも、小学生になってからも、毎日とはいかなくても暇さえあれば一緒に公園へと出かけた。茜は、誕生日や何か親に買ってもらったときは、いち早く「○○買ってもらった!」と公園で徹に報告した。そのたびに羨ましいなあと徹が思ったことは、今では笑い話である。
「昔はそんなことあったね」
「茜が携帯ゲーム持ってきたときは、交互にやって得点競い合ったっけ」
「祭りでもらうあの見るからに安っぽいピコピコするやつね。ボタン三つの」
二人の地元では、五月になれば商店街一帯に出店が連なる有数の祭りがあった。毎年その祭りに出かけては、二人でくじ引きでもらった景品を見せ合っていた。
「そう言えば徹と一緒に祭り行かなかったんだね」
「確かに。でもどっちかって言うと祭り自体よりも茜に見せたら面白そうだなって、祭り終わった後で二人で見せ合う方が主体だった気がする」
「徹ってよくくだらないおもちゃ持ってきたよねー」
「うわ、なんかはずいわ」
「そうねー。ねえちょっとそこの公園寄って話していかない?」
茜の言った公園とは、ベンチといかにも胡散臭い紙垂を備えた、木祠があるだけの公園のことだった。入口にある鳥居にもしめ縄にかかった紙垂があるのだが、片方がちぎれていて長さがちぐはぐ、それに加えて、和紙自体も薄汚れていてすすけていた。
二人は鳥居をくぐると、暗黙の了解を心得ているかのようにベンチに座った。
「ここも高校入学当初はよく一緒に来たね」
「そもそも学校に来るときも一緒だったからな」
「まあ家近いし、中学も三年になって部活引退してからは一緒に通ったっけ」
「ああ、懐かしいな」
田舎にしては珍しいことなのかもしれないが、意外と幼馴染というのは縁が切れない。幼少期は親にどこか連れてもらう以外は、遊び場など家の近くにある公園ぐらいだった。公園に行かないにしても、子どもが行き来することができる、家から半径五百メートル圏内ぐらいは庭のようなものだった。
茜とは、いつの間にか一緒だった。自宅に人を招きれるのをよく思わない徹の母親も、茜ぐらいは招き入れることを許していた。
小学生になり、中学生になり、大学生になれば自然と一緒にいる時間も少なくなって離れていくはずなのだ。普通だったら、大人になって「俺だよ俺、○○中学で一緒だった」みたいな話になってもそんな奴もいたなあぐらいにしか思わないのだろうが、徹と茜の関係性は、この先も続いていくのだろうなというのが、不確定だし未来なんか見えないのだけれど、なんとなく、無意識に二人の間では互いに了解していたという他ない。
「ねえあれ覚えてる?」と茜は顔をのぞかせた。
「ん?」と徹が曖昧に反応すると、「やっぱ何でもない」と首を振った。
「なんだよ。気になるじゃん」
「気になるって顔してないからやめたのよ」
「ああそう? まあいいや」
「そこは聞き返してよ」
肩を軽く弾かれる。ちょっとやめてよーみたいに軽はずみな口調で笑ったそれは、彼女にとってはきっとその程度のことではなかったのかもしれない。




