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カンディルの反骨  作者: 面映唯
【プロローグ】
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公募に落ちましたので、載せます。

 ネットニュースに名前が載るだけで世間の話題を掻っ攫うほどの大物アーティスト。そんな人間はさぞかし一般大衆から羨まれていることだろう。高級外車を使用しないにもかかわらず何台も所有し、都心のど真ん中に建った一戸建ての豪邸は高尚の象徴。金は毎日使っても余ってしまうくらいに余裕があり、酒を欲に流されるままに限界まで飲み、酒の場では両手に花。自分という存在を消して、「大物アーティスト」という肩書を存分に駆使する、いたいけな若者。社会で真面目に毎日働く者から見れば、幼くてそのいじらしい人間を想像するたびに、羨ましがられることだろう。

 妬み、嫉み、嫉妬。恨み、憎き、アーティスト。そして、ただただその幻影を追いかける熱狂的なファンの数々。嫌われることを恐れないその態度こそが大物の象徴、印だった。


浅間(あさま)(こう)(ぞう)が死んだんだって」

「知ってる知ってる。今一番勢いのある歌手だったのに」

「私も結構好きだったんだよね」

「全部自分で作っちゃうんだもんね。曲も歌詞も編曲も。プロデュースまでしてるらしいじゃん」


 大都会にそびえたつ大きなビルの大きな画面には、浅間浩三の死を特集するテレビ番組が流れていた。交差点の上では、そんな浅間の話題がちらほらと聞こえてくる。

 死んだ後でもこんなにも人々の話題を掻っ攫おうとは、やはり並の人間ではなかった。生きているときにあんなにちやほやされていたのに、死んでまでメディア界の住人だ。ナンセンス。

 比べてしまえば、毎日どこかで死んでいく人の話題など、彼の話題性に比べれば蟻んこみたいなものだった。命に価値はないとか言いたい気持ちもわかるが、やはり価値の差は権力や生産性で決まってしまうものの様で、馬鹿げてはいるが、そう思いたくなるくらい彼は偉大なアーティストだった。


 彼の功績は輝かしいものばかりだった。偉大な親父とお袋の子どもで、親の七光りだなんて滅相もない。程遠い。かといって、中学時代は荒れていて、その後更生して社会復帰の過程で曲を作り始めた、なんて人々の共感を呼ぶ話題性もなかった。目を疑うような、そんな経歴などなかった。普通に育って、ほどほどに心配してくれる両親もいて、五体満足で、並みの大学を出て、卒業後はサラリーマンとして就職する傍ら、周りには言わず密かにずっと「歌手になれればいいな」という漠然と想っていた感情を観客に吐露すべく、アーティスト活動を行っていた。

 ライブハウス然り、路上ライブ然り。路上ライブは、態々交番に行って「そこで歌ってもいいですか?」と確認を入れるまでの律義さ。ライブハウスでは、その律義さが出てしまったのか、客は数名のみで全然入らない。

 しかし、いつからかその突き通していた律義さに客は惹かれていった。数名だったものは、一年、二年、三年とかけて着々と増えていった。仕舞いにはライブハウスがいっぱいになってしまうほどの観客数、チケットは即日ソールドアウト。ネットオークションなどで違法転売されているにもかかわらず、彼のライブに足を伸ばしたいが一心、チケットを求めるものも数知れず。転売側が悪いということは明白であるのに、それでも手を伸ばしてしまいたくなる衝動は恨めないし否めない。浅間自身が注意喚起をしたところで、そんなものはあってないようなものだった。


 浅間のライブチケットには、純正のまたたびが仕込まれているかの様だった。

 人々は人懐っこい猫のように、浅間の音楽性、ビジュアル、美意識、それらに夢中だった。


 売れようと必死だったインディーズ時代は、よく宣伝活動もしていた。テレビやラジオ、取材の依頼が入れば、選り好みなどしなかった。売れるようになってからは、テレビ出演などは控えめになり、ほぼ皆無になった頃、やっと穏やかに音楽作りに取り組めるようになった。

 何年かに数回行われるツアー。そのほかは自分の持つ音楽性の向上を突き詰めるために、曲も歌詞もがむしゃらに作って書いた。アルバムを発売すれば、瞬く間に世間の話題は浅間一色だった。表題曲を目立たせるための曲など一つもなかった。彼のアルバム収録曲は、すべてがミリオンセラーになってもおかしくないほどの出来映えだった。全部がシングルとして出してもいいような出来。その上、一番から十二番までの曲目は、物語性のある並び順、内容だった。


 人々は浅間を天才と讃えたのかもしれない。これほどまでに才に長けた人間がいようものか。

 そんな人間も、死んでしまえばあっけない。

 残された曲の数々。浅間浩三というワープロ文字。彼の誕生日になれば、ファンはSNSで祝い、命日になれば、懐かしいな、もし今も生きていたら、そんな弔いの言葉でネットは溢れかえる。

 老若男女問わず、言わずと知れたアーティストだった。

 彼の肉体は二十八歳で骨となった。

 彼の生前の実態を知るものは少ない。

 彼は部屋に籠って音楽を作っていた。

 素性を知る者、性格を明確に言える人、一番近しかっただろう歌手もスタジオスタッフそれらの関係者でさえ、少し眉を顰める。インタビューアーから「仲は良かったんですか?」と聞かれれば、「そう言われるとそうでもなかったかも。でも、他の人よりはかかわっていた気はします」と想像した自分と浅間との関係性への懐疑に陥り、返答は曖昧だった。交友関係はその程度だった。

 プライベートな付き合いは少なく、仕事上の付き合いが多かったのかもしれない。確かに、チームで音楽を作ることもあり、関わる人数は多かった。達成感もあった。笑っている姿も覚えている。ただ、彼の隣、妻のような理解者、今では天涯孤独となってしまった浅間にはそんな人がいなかった。

彼の素性はほとんど知られていない。


 彼は死んだ。

 肉体は骨となった。

 天国へ行ったのか、地獄へ行ったのか。はたまた輪廻転生して、何年後かに生まれる赤子に魂が入るのだろうか。

 浅間浩三。世間の話題を掻っ攫ったアーティスト。こいつの魂は今どこで何をしているのだろうか。


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