2社 神様だって腹は減る
神様がパチンコ打って何が悪い
「た、ただいまぁ······。」
「雪華、帰りが遅かったじゃないか。とっくに門限は過ぎてるぞ。今ままでどこに行ってたんだ?」
彼は『雪牙』。雪華の夫である。尾の数は4本。雪華とは違い、仕事はきっちりこなす真面目な性格。その為、他の神々からの信頼も厚い。
「それは······その、ちょっと町の方へ偵察に······ね?」
「嘘つくならもっとマシなこと言え!偵察ならこんな遅くになるわけ無いだろ!隣の弥生さんからパチンコ店に入るところを見たって聞いたぞ!行くのは構わないが仕事をしろ!仕事を!」
「ちっ。あのババァチクリやがって。」
「聞こえてんぞ。今日も山積みの仕事俺達で終わらせたんだぞ!」
「それは明日やろうと思っとったんや!」
帰ってきて早々雪牙のガミガミ説教。そしてそれに対して何故か逆ギレする雪華。
「なんやったらここでやるかいの?あ?」
「それ、こっちのセリフなんだが?仕事しないで遊びまくる上に門限守らないお前に······。」
「五月蝿いですよ二人共!いい加減にしてくださいよ!ご近所さんに迷惑ですよ!」
喧嘩をしている二人のもとに一人の女性がやってきた。狐耳は無い。人間です。
「雪野さん、口を挟まないでくれ。これは俺達夫婦の問題なんだ。」
「そうじゃい。若造は引っ込んどれ。」
「じゃあ勝手にやってください!その代わり!二人共ご飯はありませんから!」
「「うぇ!?」」
大人しく従う二人。あと少しで喧嘩になりかけた言い合いを止めた彼女は『白恋雪野』。代々この神社を管理してきた。なお必ず名前に“雪”を入れるのが決まり。雪華が勝手に決めた。両親は既に他界しており、仕事は雪牙と二人でなんとかやっている。たまに雪華も。
そして更に二人の子供がやってきた。二人共狐の子ようだ。
「お母さんお帰りー!お土産はー?」
「今日は無いんじゃ。すまんの。」
「やっぱり負けてんな。思った通りだわ。」
この二人は『雪菜』と『雪葉』。雪菜が姉で雪葉が妹。100歳ほど歳が離れているが仲良しである。
「言い合いしとったら余計に腹減ったわ。今日のメニューはなんじゃ?」
「カレー、シチュー、コンソメスープ。あとフランスパン。」
問に答える雪菜。どう考えても組み合わせがおかしいメニューである。
「どうして似たようなもん一緒に出すんや。」
「どうせ食べるだろ?」
「ふふ、雪華様のために沢山作ってますからね。」
リビングには既に食事の準備ができていた。でっかい鍋が3つとカゴに入ったフランスパン。しかし、その量がヤバイ。カレーとシチューは各10L。コンソメスープは5L。フランスパンは20本もある。全員大食いです。
「「いただきます!」」
それは感謝の言葉と同時に戦いの合図でもあった。なんせ全員大食い。速度も尋常ではない。食うか食われるかなのだ。
「しっかしよ、雪華。お前もう少し真面目になれ。仕事やってるこっちの身にもなれ。」
「親父、そりゃ無理だろ。これは完全に中毒だよ。全く、子の身にもなれってんだ。」
「お菓子····。」
「雪葉ちゃん落ち込まないで。アイス買ってあるから。雪華様も仕事はしてくださいね。あとこの子達のおやつも買ってきてください。」
「お前ら好き勝手言いやがって······。」
割と心に刺さってるのか言い返せない。
会話しながらの食事。楽しそうに思えるかもしれないが既にコンソメスープは無くなっている。フランスパンも残り僅か。まだ数十分しか経っていない。五人ともガツガツガツガツ山賊みたいな食べ方である。マナーもクソも無い。神様かどうかを疑うレベル。
「あ!もうシチューねーじゃん!わしまだ2杯しか食っとらんぞ!」
なおは丼ぶり換算である。
「あ、カレーあと1杯分しか無いんですけど誰が食べます?」
「わし」「オレ」「わい」「わたし」
雪野の問に素早く反応し、手を上げる4。そして睨め合う。四人は静かに拳を出し合う。また喧嘩が始まるかと思いきや。
「「ジャンケン!ポン!」」
ジャンケンで決着を着ける。それがここのルールである。結果は雪華がグー。他はパーで雪華の負け。続いて2回戦。雪葉がチョキ、あと二人はグーを出し、雪葉にカレーを食べる権利が渡された。落ち込む3人。喜ぶ雪葉。
「わーい!」
満面の笑みで鍋を持ってカレーを飲み干す。可愛い見た目しておいてやることがエグイ。せめて丼ぶりに移せ。
「おいしかったー!ご馳走さまー!」
「悔しいが、こんな顔されちゃ文句言えんの。」
「そうだな。この笑顔を守るためにも、お前はちゃんと仕事しろ。」
「ええい!仕事仕事うっさいわ!雪野さん!酒じゃ!酒を持てい!」
叫ぶ雪華。しかし、酒は片付けが終わった後です!とキツく言われ、渋々片付けに入る。洗い物は曜日で当番が決まっている。今日は雪華と雪牙の二人。洗い物しながらもガミガミ言い合う。喧嘩するほど仲がいいとはまさにこのことかもしれない。
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