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魔女さんは誘惑する

「ふーん、面白そうな話ね」


 木漏れ日を受けて淡く輝く薄い紫色のゆるふわウェーブがかった髪を手でクルクルと玩びながら楽しそうに聞いていた少女が、カップを手にとって紅茶を啜る。


「……お前達に相談するんじゃなかった」


 その愉快げな様子にクッキーをバリバリと音を立てて食べながら金髪の少女は不満を漏らす。


 少女二人はフェルミアの家の庭でお茶会をしていた。内容はもちろんアーフィスをいかに落とすかである。


「あらあらあら、酷い話ねぇ。私はこんなに協力するつもりだというのに」


 その豊満な胸に手を当て、いかにも傷ついてますというを示してみせた。


「だいたい嘘くさいんだよ。君はもう少しならんのか? まぁ、なるわけないか」


「まぁ、酷い……せっかくお呼ばれしたから足を運んで上げたというのに、しくしく」


 わざとらしく泣き真似をする大きな胸が特徴の紫髮の少女の名はユーリカ。ユーリカ・アーネリア・ハイツホルン。昔存在したハイツホルン王国の元王女であり。別名『紫電の魔女』として知られている。


「しかし、まさかあなたがねぇ……ちょっと前まで、こんな目で……人間? 全員滅びたらいいなみたいなこと言ってたのに」


 ユーリカはそう言いつつ手で目の端を吊り上げさせた。


「そんなこと言った記憶はないんだが!?というか君のモノマネ少し悪意が入りすぎではないかな?」


「そんなことないわよぉ? 100%そのままのあなたよ。あれだけ人嫌いでトゲトゲしていたのに数年でどんどん丸くなっていってぇ? 会うたびに弟子の話が入るんだもの、私紅茶に砂糖入れた記憶さらさらないのに口の中甘々よ。ごちそうさまぁ」


「うぐぅ……」


 フェルミアは誤魔化すかのように目をそらし、紅茶に口をつける。


「ちなみに、そのお弟子クンはどこに?」


「アーフィスなら休暇がてら街まで買い物に行かせてる。しばらくは帰って来ないだろう」


「ふぅん? これはダメなやつね」


 ユーリカはわざとらしくため息を吐き首をすくめる。


「へ?」


「街には垢抜けた可愛い子がたくさんいるでしょうし、ついでに可愛い子と遊んできてるかもしれないわねぇ」


「……いやいやまさかまさか」


「でも、そうならばあなたの誘惑に靡かないのも納得じゃない? だって、街に彼女がいるのですもの、そら眼中にないわよね」


「…………」


「都会の垢抜けた可愛い女の子と片や田舎に引きこもってる……ちょっ、ちょっごめん。泣かないでよ。私が悪かったから」







「で、話を戻すけど。メラリアにも言われたんでしょう? あなたから誘い掛けたらいいじゃない。私の見立てだと十中八九いけるど思うんだけどぉ?」


 フェルミアが落ち着いたのを見て、再びユーリカが話を切り出す。


「いや、私から誘うのだけはあり得ない。あり得ないのだ。それだと私がその……その……番にするために拾って育てたみたいじゃないか!?」


 フェルミアは耳を赤くしながらダンと机を叩いて強く反論する。


「違うのぉ?」


「違うッ!!……筈だ」


「自信なくなってんじゃねーか」


「そ、そんなことはないぞってなんでいるメラリア。今日は呼んだ覚えはないが?」


 フェルミアはそう言って、上からふわりと降りてきたメラリアを睥睨する。


「けけけ、この前の作戦の結果聞きに来たんだが……まぁ、この様子じゃダメみたいだな」


 メラリアは空いていた2席のうちの片方を引いて腰を椅子におろした。


「う、うるさいぞ。あれは意図せぬハプニングがなければいけていた……筈だ」


 フェルミアが不貞腐れた顔のまま指を振るとティーカップが家から飛んでくる。そして、メラリアの前にセットされると机に置いてあったポットが一人でに紅茶を注ぐ。


「ん、サンキュー。んでよ。流石に同じ手は使えないだろ?どうするつもりなんだ?」


「ねぇ。前回はメラリアの考え採用したなら次は私の考えで攻めて見ない?」


「ユーリカ。君は面白がってるだけじゃないだろうな」


 フェルミアはニマニマしてるユーリカに疑いの目を向ける。


「大丈夫大丈夫。これでもキチンと応援してるわぁ。面白そうだもの」


「やっぱり面白がってるんじゃないか。まぁ、いい。聞くだけ聞いてやろうじゃないか」


「そうねぇ、やっぱりなんだけどぉ……」







 ……よ、よし。いくぞ。


「ふ、ふあーあ、おや、おはようではないか。わ、我が弟子」


 あくびをした口に右手を添えつつ、いかにも今寝起きです、というような演技をしながらアーフィスがいるであろうリビングに扉を開けて入っていく。ちなみに、フェルミアは緊張して一睡もしていないので少し眠たいのは事実なのである。


「おはようございます。し……し、師匠! なんで姿で出てきてるんですか!?」


 リビングで本を読んでいたアーフィスが目を向けた先には、淡い緑色のフリルのついた下着だけ身につけたフェルミアが目に入る。


「ん? んん〜ん? おや、我が弟子ぃ。私達はもう何年も一緒に暮らしてるんだ。よもや私のこの姿が問題あるってことはないだろう?」


 さぁ!どうだ弟子よ。私のこの姿に悩殺されるがいい!…………無反応とかないよね? そうなったら数日は立ち直れないぞ。というか正直恥ずかしいから何か反応してくれ!


「……師匠」


 アーフィスがゆっくりとフェルミアへと歩み寄る。


 さぁ、さぁさぁ! くるなら来いアーフィス! 覚悟はできているか!? 私は、私は……あれ、私もしかしてとんでもないことをしているのではないだろうか?何年も一緒に暮らしてるとは言ったけど、こんな姿は見せないように気をつけていたから見せたことはなかった。もしかして、いきなり下着姿を見せつける痴女だとか思われたりしないだろうか。いやはや、でも私にだって女としてのプライドはあるし、いやでもこの行為ってプライドの安売りではないだろうか? ダメだ……なんかよくわからなくなってきたぞ。


 ゆっくりとアーフィスが距離を詰めていく。


 キュッと目を瞑り身を凍らせたフェルミアの体に何かが掛けられる。


「……いや、師匠は気にしてないのでしょうが、僕だって一応男なのでなんというか、目が向いてしまいます。あまりそういう格好は控えて……いただけたらなと……」


 フェルミアに自分のきていた上着を着せて、耳を真っ赤にさせたアーフィスが目を横に向けながらそう告げた。


「そ、そうだな。たたた、確かにそうだ。ききき気をつけるとしよう。では、うむ。部屋に、だな……わ私も、戻って。そのだな、着替えるとしようか」


 そう告げてフェルミアはそそくさと自分の部屋に引き返す。


 ……うわぁぁぁぁぁ。見た!? 今のアーフィスの表情!脈アリ! これは脈アリといっても良いのではないだろうか!? いやっほぉぉぉ!!


 …………アーフィスが掛けてくれた上着あったかい……


 少女は大事そうに上着を抱きしめるのであった。

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