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魔女さんは決意する

 エッ…………子作りがしたいッ!

 近頃『万星の魔女』フェルミア・ウェルクルクスはそんなことばかり考えていた。


 世界に4人しか認定されていない力のある魔術師の称号である魔女。そのうちの1人が彼女である。

 魔導の深淵を見たものとして名高い見た目だけはうら若き少女の脳内は、絶賛ピンク一色であった。


 無論、彼女だって誰でもいいという訳ではない。フェルミアは10人がいたら6.7人は振り向くだろうという、絶世とは言えないが普通に整っている容姿をしていた。

 彼女が致したい相手は数年前にダンジョンと呼ばれるモンスターが跋扈している場所で拾ってなんやかんやで弟子にした青年である。

 青年の名をアーフィスと言う。


 彼を拾って数年。料理洗濯掃除などを全て任せてきた。もはやフェルミアはアーフィスなしでは生きていけないと言っても過言ではない

 一度上がった生活力はなかなか下げることはできないのである。

 フェルミアは己の生活のため、そして150年生きてきてようやく抱いた初恋をなんとか実らせるために

 彼女は策を弄する事にした。




「アーフィス。子供って良いと思わないか?」


 ある日の昼下がり、

 弟子が淹れた紅茶を上品にすすりながら、魔女が口を開く。


「薮から棒にどうしました師匠」


 唐突な見た目は可憐な少女の問いにポットを片手に携えたまま首をかしげる青年。


「いやね。先日街に買い物をすることがあったのだけれどもね。そこでたまたま子供連れの親子がいたのだよ。その親子がとても幸せそうに見えたものでね。羨ましいなと思ったって話さ」


「師匠もそういうの思ったりするんですね」


「おいおい、君ィ。私だって女なんだぞ?女の全員が全員とは言わないが、私だって子供が欲しいという気持ちがない訳ではないのだよ。しかしながら残念なことに良い相手がいないのだこれが。近くに良い相手がちょうどいたらいいのだけれどな。うむ、近くにいたらな。全く困ったものだ」


 フェルミアは様子を伺うようにチラチラと視線をアーフィスに送る。


「そういえば師匠は今までにお付き合いされた方とかはいないんですか?」


 食いついてきたか? さて、完全に掛かるまでまだ泳がせないといけないな。そういえば前に読んだ本で男は処女が好きという文章を見たな。それとなくアピールしてみるか? まぁ、処女なのは事実なんだが


「なかなかいいと思える男がいなくてな。ま、まぁ? 幾度となく求愛は? そらもう何人いやもう数え切れないぐらいの男にはされてきたが? 私の弟子の条件にすら満たない者共ばかりでな。いい縁がなかったのだよ。だから一度もそう言った経験はない。ないからな!」


 フェルミアの押しが強い説明を聞いたアーフィスは


「あぁ、はい。わかりました。

 良い人が見つかるといいですね師匠」


 と柔らかく微笑みつつフェルミアにエールを送る。


「…………そうだな」



 どうやら私の自然すぎる話題振りによってどうやら世間話の一つとして取られてしまったようだな。なるほどなるほど、別のアプローチを考えないといけないな。







「……というわけなんだが」


「けけけ、久しぶりに誘いがあったから来てやったらくっだらねー」


 とても愉快そうに髪の所々が撥ねたままのくすんだ赤毛の少女が笑う


「くだらないとはなんだ。くだらないとは」


 金髪の少女が不貞腐れたように頬を少し膨らませた。


「つまりアレだろぉ? 押し倒してばーんってやればいいんじゃねぇの? あ、ヤられる側だったか、こりゃあ失敬失敬」


 ぺちこんと煽るように己の額を叩く少女。

 彼女の名前はメラリア。メラリア・バーンフェルムズ。またの名を『灰燼の魔女』と言う。


「なにがばーんだ。自分だって生娘な癖に、適当なこと言うんじゃあないぞ」


「ばーか、ヘタレなあんたと違ってアタシは好きな奴できたらガンガンいくっつーの。でもそうだな、フェルミアがそこまで入れ込んでるやつは気になるな。ちょっくらアタシも告白してみっか」


 赤髪の少女がそう告げて立ち上がろうとするや否や、一瞬で金髪の少女の背後に無数の淡く輝く魔力の塊が現れる。

 その輝く光の球の一つ一つがそれだけで人を消し飛ばす威力を含んでいた。


「けけけ、冗談だから落ち着け。流石にアタシとはいえそれ喰らえばタダじゃ済まない。まぁ、死なないがな。というか必死すぎだろ、ばくわら」


 赤髪の少女は降参と言ったように手を上げたまま上げた腰を再び椅子に下ろす。


「まぁ、自分から襲えねーっていうなら……」


 そう言ってメラリアはフェルミアに自分の思いついた作戦を伝えていく。


「……ほうほうほう。なるほど、メラリア。いやはや、君が考えたにしては意外と策士じゃないか」


「いまからやっか? お?」



 

   



 よしよし、弟子は隣の部屋にいるな?


 隣の部屋で座って読書中のアーフィスの姿を確認した後、フェルミアは扉をそろりと閉めてから部屋の中を再度確認する。


 本はあらかじめ多少散乱させた。椅子も自然に見えるように倒している。

 うむ、うむ。完璧だ。

 メラリアの策だと、あとは私が水を被りいかにも怪しげな薬が入ってるようにしか見えないこの瓶を悲鳴をあげながら落として倒れ込めばいいだけだな。


 さぁ、アーフィス。年貢の納め時だぞ。


 ……む、冷たい


 フェルミアは自分にかけた水に少し顔をしかめる。


 さ、さぁやるぞ


「キャー」


 フェルミアは迫真の演技だと思い込んでる悲鳴をあげた後、ガラス瓶床に落としてから倒れこむ。

 ガラス瓶は思ったより強度があり割れなかったが、些細な問題と考えて作戦を続行する。


「どうしたんですか師匠って何が!?」


 彼女の悲鳴を聞いたのか隣から顔を覗かせた青年は状況を見て目を丸くする。


「あ、アーフィスか……あぁ、なんてことだ。くっ、私が高い所にあった本を取ろうとしてついつい椅子から偶然。そうだ、偶然足を踏み外してしまったばかりに……くっ、不味いことになった。実に不味いな。かかってしまったやつが非常に不味い。あぁ、大変なことだ。なんということだ。実はだな、この掛かってしまった液体はだな。私があくまでも他の薬の調合する為なのだが、その他の薬に使うための素材がとぉーッても強力な媚薬なのだ。私は精神がとても強靭だからこうやってまだ冷静を保てているが、あぁ今はまだ私の心がタフだから耐えられているが稀代の魔女である私でもそろそろきつい。それでだなこの媚薬の効果を治すためにはだな。そのだな、いっ異性の体液が必要なのだ。薬の効果を解くために必要なのだよ我が弟子ぃ。なるべく早く摂取しないと私ですらどうなるか分からん。

 何かいい解決方法はないだろうか我が弟子よ!」


 セ、セリフ考えてなかった……! いや、でも咄嗟に話したにしては中々よかったのではないだろうか?


「なるほど、師匠…………目をつぶって口を開けてください」



「ッ!! 解決策を思いついたのだな?わかった従おうではないか!」


 フェルミアは目をギュッと瞑らせる


「いや、師匠とりあえず口を突き出すのではなく開けてもらっていいですかね?」


 あけっ!? いきなりそこまで行くのか!? いやまだはや……いや、君に考えがあるのだろう。口を開くのは……うむ吝かでもない!


 アーフィスは服の中を漁って、中に液体の入った瓶の蓋をあけると、フェルミアの開いた口に瓶の口を突っ込んだ。


「んぐ!? んぎゅ!」


 そのままフェルミアは口中に流れ込んで来た液体を飲み込んでしまう。


「……な、なんだ? 今私は何を飲んだのだ??」


「エリクサーです。薬の効果ならエリクサーさえ飲ましたら治るかと」


「えっ、エリクサー!?………………う……うむ。ど、どうやら治ったようだ。エリクサーなんて持っていたとはな……チッ……ししかし、助かったぞ我が弟子よ……しばし私は部屋にこもるぞ、開けてくれるなよ?」


 フェルミアはそう告げてそそくさと部屋に撤退した。


 ファァァァァァァック!!!

 くそう、くそう、くそう! 途中まで完璧だったと思ったのに、アーフィスの奴なんでエリクサーなんか持ってるんだ!

 ……ん?


 フェルミアの脳にある記憶が蘇る。


『我が弟子ぃ。何事にも備えておいて損という事はないのだよ。というわけでこれをやろうではないか、なぁにエリクサーだ。気にするな。お守り代わりみたいなもんだ。必要だと思ったらすぐ使いたまえよ?抱え落ちほど愚かなことはないぞ肝に命じておくがいい』


 私じゃないかぁぁぁぁぁぁ! あの時の私をぶん殴ってやりたい! 何が備えておいて損ということは……


 ……でもいくらああ言ったとはいえ、エリクサーを惜しまず即座に私に使ってくれるのは……うむ…………悪くないな。


 少女は1人顔を綻ばせるのであった。

3.4話で完結予定

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