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9.逃走

真夜中。

おかしいな、わたしちゃんと眠ったはずなのに。

何かぞわりとしたものを感じて目が覚めてしまった。


「おや、目を覚ましてしまったかな」

至近距離で囁かれた声に、身が固まる。


確かにこの小屋はセキュリティががばがばだ。

鍵なんてないし。

けど誰も来ないような場所だし問題ないと思っていたのに。


どくどくと血が巡る感覚がする。

誰、だ。


「そのまま大人しくしていて」

するりと頬を撫でられ、ぞっとする。

待って、本当に誰。


暗くて顔まで見えないけれど、大きな種族ではない。

腕は兄様と変わらないくらいだし、鼠族かな。

だからといって上に圧し掛かられては動けないんですけれど。

わたしの一族は脆弱なので!

くそ!


「だ、だれですか、離れてください!」

「大人しくしていてって言ったよね」

口に手を添えられ、言葉を封じられる。


え、わたしここで死ぬ?

いやもうその方がいいかな、とちょっと自棄になったところでこの不審者がわたしの右手の甲を見ていることに気付いた。



あ~~~~!

バレたかな!?

侵入者って!!!



「ああ、やっぱり君だね。」

少し硬かった声が嬉しそうな声になったと思うと、口から手を離されて体を抱き抱えられていた。

「僕は鼠王。」


あ、死。

これは死す。


「そそそそそそ鼠王(そおう)陛下、このような場所へ一体どのようなご用向きでいらっしゃいますか!!」

平伏しようにも体ががっちり抱えられているので無理だった。

精一杯頭を下げる。


「君…いや、貴方様でしょうか」

ひえ、神の末裔ってばれてる?なんでなんで!!

「おや、貴方様はご存知ないのですね。その印が何かを。」

ちゅっと右手の甲に口づけられる。



召喚の力ってだけじゃないの!?

だとしたらわたしまたやらかした!?

神の末裔ってこれがあるとバレるんだっけ?

もうなんでわたしの記憶曖昧なのかな!!



「これがある限り、未来永劫私と貴女様は結ばれたことになります。花嫁は貴方様だ」



このセリフで、わたしは完全にやらかしたことを悟った。

召喚の力がなんなのかわかっていなかったけれど、少なくとも得ると王に察知されるようだ。

全くこちらにはわからないけど王と結ばれているらしい。



ひ、一人だけだしまだ!!

一人なら逃げられるよね!?

個別ルートではないはずだ、まだ!!



「あああああの、わたしは名も無き一族ですので鼠王陛下にそのように仰っていただくなど畏れ多く!!」

ひとまず貴女様とかそのあたりから剥がしていきましょう、ね!


「欲のない方だ。では何と呼ぼうか」

ひとまず敬語がなくなったのでよしとする。

どこかで誰かに聞かれたら終わりだもの!


ふと、雲が動いたのか、閉めたはずの木窓の隙間からほんのり入る月明かりで漸くお顔が見れた。

鼠族に多い灰色の髪は胸辺りまであり、いまはそれを一つに結わえている。

瞳は鼠なら本来黒いはずだけど、なんだか白っぽいかな。

けど顔見れない方がよかった!!!

イケオジ!!!

人間換算すると40手前くらいの渋さと穏やかさを兼ね揃えたイケオジです。


無理死ぬ。

イケオジなのは遠目に見たし知っていたけどこの距離無理顔がいい。

「ひひひひ雛と申します。あの!本当に!何かの間違いかと存じますので今日は、あの!!」

帰れといいたいけどいえない。


「ああ、そうだったね。見つけるのに2日もかかってしまって居ても立っても居られなくて。明日の昼にまた来るよ、雛姫。待っていてね」

わたしをベッドに戻し、頬へ口付けると入ってきたであろう木窓から出て行った。



まずい、ここが安寧の地ではなくなってしまった。




***




翌朝。

あの後気絶するように眠ったけれどまだ朝だ、よかった。


心を落ち着かせるために日課となりつつある井戸周りでの書と歌の練習だ。

「あら、あなたは?」

急に現れた人影にびくりと体を揺らす。


そこには鼠族の少女と犬族の少女。

どちらも当たり前のようにお美しい。

「あたくしは鼠族の鈴よ」

声をかけたのはこちらで、たっぷりの灰色の髪と黒い瞳。

わたしよりは大きいけれど、小柄でまさしくハムスターみたいなお嬢様だ。


「ぼくは犬族の紅だよ」

なんの犬かな、尖った茶色の耳と短い髪に、こちらも黒い瞳。

すらりと細身で中世的なお顔立ち。



なんだか親し気だけどこの二人は悪役令嬢では!?

鈴姫のほうはわたしを本来牢屋に入れたはずの!


「わ、わたしは雛と申します。」

「そう、雛姫様と仰るのね」

「雛姫はなぜここに?」

「な、なぜ…とは…」

視線を逸らし、わたしはしらばっくれることを選択します。



もう色々ありすぎて脳のキャパシティを超えてしまった気がする。

一人になりたい。



「おおおおお見苦しいところをお見せいたしたようですのでわたしはこれで失礼いたします!!」

がばっと頭をさげ、わたしは森のほうへ走り出した。

鈴姫様が何故かわたしの手を握ろうとしてきたように見えたから。


「あっ!お待ちになって!!紅!」

「わかってるよ、鈴!」

すかさず追いかけて来たらしい紅姫様の声が聞こえたが、わたしは振り返らない。


さすがに上級貴族のお姫様は森まで入ってこないよね!!






***





どうやら森までは入ってこなかったようで、わたしは一安心、と息を吐いた。

隠密を使うと今度は鼠王に見つかるかもしれないし、使えないなあと木の上で落ち着く。


「…いやわたしあの人たちに助けを求めてもよかったのでは?」

動転していて逃げてきてしまったけれど、別にあの方たちは危険ではなかったよね?


いじめてくる風でもなかったし。

手を伸ばされてびっくりしただけなのだ。

何せ体に染みついた習慣がね?

上級貴族に会う機会なんてそうそうないからつい。


今度会えたら謝ろうと決め、わたしは森深くへ入ることにしたのだった。

だって鼠王が怖いからね。



折角だしこのまま逃げちゃえ、なんて軽く考えたことをわたしは後悔することになる。



夕方ごろ、おそるおそる小屋へ帰ると。

そこにわたしが約10日過ごした小屋は跡形もありませんでした。








※鼠王の読みを間違えておりましたので修正しています※


毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。

『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着(あい)される』

https://ncode.syosetu.com/n6804fq/

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