6.ジョブとお肉
「はあ…桃うまい」
むしゃむしゃと桃を齧りつつわたしは改めてゲームについて考える。
うん、無鉄砲だった。
冷静になった今ではあれはパニックだったのだなとわかる。
「今のわたしのジョブは、確か弓士。」
これはヒロインの最初のジョブで、"雛"が生まれてきて今まで磨いてきた武術の腕だ。
もちろんご飯を狩るための能力だ。ちなみに捌くこともできる。
が、ここには弓なんてない。
当然だけど正式な騎士以外はここ天空領に武器は持ち込めない。
ずるいよね、みんなは呪術が使えるんだから武器なんていらないの。
わたしはそれがなければ『召喚』にすがるしかない。
自分の身なんて自分以外の誰も守ってくれないのだから。
たしか持ち込めるギリギリのサイズの小さなナイフがあったはずなので、簡単な弓でも作ろうか。
そのあたりを飛んでいる小型種のドラゴンくらいなら狩れるかもしれない。
この天空領、標高が高すぎて鳥がいないのが痛い。
鳥肉の方が好きなのに。
ジョブを得るには、いくつかの条件が必要だ。
ゲームではそれは各ジョブの欠片的なアイテムだったけど。
現実世界であるここではそういうアイテムはない。
特になんの努力もしなくても、ストーリー通りに進めばわたしは『召喚士』というジョブを得る。
今も片足は突っ込んでると思うけど。
このゲームの面白いところは、何もしなければ召喚士を得て、それだけで十分攻略できるというところ。
他のジョブは本来必要ない。
が、他のジョブを得ていくとどんどん攻略が楽になるのだ。
(あと衣装がかわいい。現実のここで衣装なんて得られないけど)
悪役令嬢を倒す戦闘が楽になるのだから当たり前だけど。
逆に弓士と召喚士だけでは戦闘はかなりきつい。
考え事をしながら細い桃の枝を削ってできた弓に、適当な紐を結わえれば簡単な弓の完成だ。
地球でこんなおもちゃ、矢なんて飛びっこないけれど、ここはジョブの恩恵が得られる。
弓士であるわたしが使えばただの木の枝だろうと小型のドラゴンくらいは仕留められる…はず。
けど、ジョブを得るまでが大変なんだよなあ。
それまではただひたすらに鍛錬あるのみ、なのだもの。
とするとわたしにできるのは拳士のジョブを取得するくらい?
シャドウボクシングでもしてみる?
他には剣士、槍士、蹴士、歌士、書士なんかがあったはずだ。
歌と書はいわゆる後方支援ジョブ。能力をあげたりトラップを仕掛けたりできるのだ。
歌ったり書いたりしてれば取れるなら取っておくべきかもしれない。
いえここに引きこもると決めたはいいけれどやることがあまりにもなく。
ジョブを増やす以外に暇を潰せない。
たしか弓士のジョブを取得した時は、それをはっきり知覚できた。
と、このあたりまで考えをまとめたところでわたしは小型のドラゴンを狩りに行くことにした。
だっておなかすいたんだもの。やっぱり桃だけじゃ足りない。
都合よくこの建物の裏手は少々深めの森だ。
数日ぶりのお肉、待っていなさいよ。
***
わざと足音を立てながら、更に歌を歌いながら森を歩く。
小型のドラゴンと言えどやつらは動物の中では上位種なので、少々派手にしたほうが向こうも見つけてくれる。
矢は適当な枝数本だ。
雛は音痴だなあ。声は綺麗なのに。
しかし真面目に弓士としてジョブを得ていてくれて本当に助かった。
その代わり鍛えてこなかった腕力やら体力やらは全くないけれど。それは仕方がない。
がさり、と音がしたと思うと小型のドラゴンがこちらへ火球を放つところだった。
すかさず弓で射ると、目から脳を貫きあっさりと絶命した。
「おにっく~おにっく~」
上機嫌でそれを得ると、帰りは隠密を使って戻る。
血の匂いに他のが寄ってきても、もう食べられないからね。
ささっと井戸で血抜きしつつ解体する。
調味料も何もないけれど、桃だけよりよっぽどいい。
調理器具もフライパンくらいしかないから焼くか炙るかしかできないしね!
はあ。塩とか香草がないとちょっと臭いんだよね、ドラゴンの肉って。
けど背に腹は代えられない。
漂うあまりおいしくなさそうな香りにちょっと泣きそうになりつつ手を合わせる。
「いただきます」
いやまっず!!
わかってたけどまっず!!
食欲が失せそうだけど無心になって肉を食べる。
うん、一週間に一回くらいにしよう。
本当にまずい。
勿体ないのですべて胃袋に叩き込み、わたしは再度森へ入ることにした。
ハーブの数本生えてて欲しかったから。
結局暗くなるまで森を探索したけれど、ろくなハーブは生えていなかった。
明日は別の場所を探すしかない。
随分汚れてしまったので、井戸からたくさん水を汲んできてちょっとずつ沸かす。
バケツを直火で熱してるんだけど、これ大丈夫だよね?ね?
明日は石鹸も探そう、と固く決意した。
服もそろそろなくなってしまう。
毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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