14.罰があるなんて聞いていない
さて、ようやくわたしの日常も落ち着いてきたので、そろそろ悪役令嬢の方々について考えを巡らせようと思う。
ここにいる紅さまと翠さまは、そもそもわたしのことを嫌っていなかったからかなり好意的にお世話をしてくれている。
(こんな平民の野生児初めて見ただろうに。)
わたしも來姫様の次に好きだ。
残りの方々は、わたしと顔を合わせない場所で侍女をされているらしい。
やっぱり恨まれているのかな、わたし。
それをぽつりと呟くと、紅さんにぎょっと振り返られた。
「…雛姫様、いい?あの子たちのことはもう忘れるんだ」
肩をがっしり掴まれて諭すように言われ、謎の剣幕におされる。
「え、けれどわたしのせいで望む方との結婚が伸びてしまわれたので…」
「それは雛姫様だってそうでしょ?」
「わたしはまあ、もう納得してるのでいいんですけど」
納得というか諦めというか。
流石にこうなった以上無理に逃げるのが得策じゃないことくらいわかる。
地の果てまで追いかけてきそうだし、今度こそ監禁されてもおかしくない。
それこそ薬漬けとかにされたって文句は言えない。
紅さんはいまだにわたしが逃げたいといえば手を貸してくれる気でいるらしい。
前そっと教えてくれた。
けど彼女の手は取らない。
彼女のたくさん居る妹や、一族全てを犠牲にするなんて無責任なこと、わたしにはできないから。
それに紅さん自身の命だって引き換えにはしたくないから。
「そうだ、どちらでお勤めかご存知ですか?お元気か確認するだけ…」
「だめだよ、雛姫様、ねっ今日はボクと剣の練習でもするかい?」
不自然な話のそらし方に訝しむ。
「もしかして、わたしが知らない罰を余計に受けていたりしますか?」
「うっ…」
ばっと顔を背けられたので確信した。
紅さんは嘘が苦手だ。
あんまり貴族らしくなくて可愛らしい。
わたしは思案する。
「ではこうしましょう。全ての王を呼び出してください。予定が付けばいつでも構いませんので」
と紅さんにお願いすれば、ちょっぴり青ざめた顔のまま慌てて出て行ったのだった。
入れ違いで來姫様がいらっしゃる。
「知ってしまったのねえ。」
「來姫様はご存知だったんですね」
「ええ、ごめんなさいねえ、言えなかったのよお」
「あ、それはいいんです!でも、力を貸してもらえませんか?」
「いいわあ、わたくしは雛姫様の望む通りにするわあ。…本当は全員地獄へ堕としてやりたかったのだけどお。」
やっぱり好戦的なんだよなあ。
「わたしは今意外と幸せなんです。」
來姫様と一緒にいるのは楽しいし、紅さんと翠さんのことも好きになってきているから。
それになんだかんだで王たちはわたしのことを大切にしてくれている。
たまに強引だけど、そこは今のところは目を瞑ってあげている。
「だから、ここまでの道のりは彼女たちに無理やり作られたものだったけれど、恨んではいないんですよ」
「でもお、貴女の幸せは別の道でもよかったはずなのよお。ぜつり…いえ、なんでもないのだけどお、わたくし心配なのよお」
…絶倫?絶倫って言おうとした?
王って絶倫なの!?
「わたくしにとって貴女は親戚の娘よお。それを自制の利かない獣に渡すのはまだ嫌なのよお」
言い方変えたけどつまり絶倫だと。
いや大丈夫、かれらももう少し、具体的にはわたしの身長が150cmを超えるまでは我慢してくれるはずだ。
「それに12人分の跡継ぎなんてえ、一人で産むのは無理だわあ」
ぎゅっと抱き締めてくれる來姫様好き!!
「來姫、雛姫にあまり変な入れ知恵をするな。余らは跡継ぎは求めておらぬ」
いつの間にか部屋に王たちが勢ぞろいしていた。
いつでもいいとは言ったのだけど、案の定すっとんできたらしい。
わたしに甘すぎるよね。
国は大丈夫なのかな。
そういえば、入室許可してないぞ。
とむくれれば、「何度呼んでも返事をしなかったではないか」とじとっと見られた。
気づかなかったらしい。
しょうがないね、來姫様とお話ししてたんだから!
「あらあ、じゃあどうするおつもりなのかしらあ。折角だしここで教えてくださらない?」
「余らはしかるべき時が来た際には王位を兄弟の子らに譲るつもりである」
国を治めるための血筋は他にもいるし、その人たちの能力が劣っているわけではないらしい。
「…そうなのねえ。いいわ。納得したわあ。詳しいお話しはまたしましょう。」
いつものように妖艶に微笑んだ後、何故か來姫様は全員をきちっと睨んだ。
まだお怒りらしい。
來姫様のお怒りの原因は、わたしをすぐに情で塗れた目でみることらしい。
よく、「まだ子供なのよお」と言っているので前世風にいうとこのクソロリコン共が!ってことなんだと思う。
ひとまずはわたしに場を譲ってくれるらしい來姫様に背中を押していただいたので
「皆様にはわたしに内緒でお与えになっている追加の罰をお止めになっていただきたく今日はお呼び立てしました」
と言うと。
王たちはことごとくにっこりと誤魔化しの笑顔を浮かべる。
しらばっくれる気らしい。
「まず、來姫様に詳細をわたしにお伝えする許可をくださいませ」
代表して竜王陛下にお願いすると、むっと眉根を寄せられた。
嫌っぽい。
「その後、その命令を取り消した証書をお見せくださいませ」
さらに深くなる眉の溝。
もっと嫌っぽい。
でも、今日は2人きりじゃないし怖くない。
「もしできないと仰るなら」
ぐるりと陛下方を見る。
わたしだっていつもやられっぱなしじゃない。
「皆様への贈り物、二度とわたしから差し上げないことにします」
ちらりと作りかけの刺繍を見せる。
まあこれは來姫様にあげるやつだけど。
「雛、俺は紅姫に罰は与えていない。本当だ」
焦って声を上げたのは犬王陛下。
ちらりと來姫様を見れば頷いてくれたので、正しいらしい。
まあそれはわかってたけど。
次いで蛇王陛下を見れば、「私もですよ」と言われた。
こちらも來姫様が頷いてくれたので正しいらしい。
こっちは翠さんが隠し事がお上手なので不安だったけれど大丈夫だったようで一安心。
「では、お二方の分はお作りします。まだ練習中なので少し待ってくださいね」
にこっと笑いかければ2人はほっとしたようで、笑顔を返してくれた。
その代わり、他の王たちの圧みたいなのがぐっと増す。
鳥王陛下が前いっていたけれど、この方たちは不平等を何より嫌う。
つまり、嫉妬深いのだ。
「どうします?」
と声をかければ、昂さまが溜息を吐きながら他の王たちと目を合わせた。
「雛姫の要求を呑もう。」
しばらく何やら呪術で話し合ったらしく、ちょっと時間が経ってからようやく許可がでた。
よし、大勝利だ。
「だが」
という言葉に緩みかけた口元を噛みしめる。
「余らも断腸の思いではある。もうひとつ、何か要求しても構わぬか?」
むむ、勝手に罰を与えたのはそっちなのになあ。
悩むように考えこむと、「でなければ余らも其方の要求を呑むことはできぬ」とか抜かしやがった。
刺繍くらいじゃちょっと弱かったか。
うん、じゃあ仕方がない。
「…できないことでないなら」
といったとき、來姫様がぱちっと扇を閉じた。
そちらを見れば、「おばか」という顔をしている。
「では來姫へ、其方と会えぬという約束を取りやめるよう申し入れてくれぬか?呼ばれるまで会えぬというのは身が裂かれそうなほどに辛い」
なんだ、そんなことかとわたしは安心し、
「わかりました。2人きりじゃないならいいですよ」
と安請け合いしたのだった。
***
ということで王たちは仕事へ戻っていった。
わたしの部屋の前に文官たちが集合しそうだったしね!
悪かったとは思ってるよ!ちょっとだけ。
互いの譲歩のもとではあるが、まあわたしの希望通りだしっと思っていると。
「本当に雛姫様は迂闊ねえ、かわいいわあ」
眉を下げたままよしよしなでなでされる。
「大丈夫ですよ、2人きりじゃないっていうのは來姫様とか紅さんとか翠さんが一緒でもいいってことですよ?」
「なるほど、そうねえ、ふふ、成長しているみたいで嬉しいわあ」
來姫様の想定よりいい結果になったとわかってもらえてわたしも嬉しい。
王たち+わたし、とかいう危険極まりない状況にはわたしだってしない。
あの人たちがちょっとずつわたしのことを抱く準備をしているっていうのに気づいちゃったからね。
まだ先延ばしにさせてほしい。
心の準備というか覚悟はできていないから。
ということで、おおむね勝利ということでいいのではないだろうか!
面倒くさい刺繍の12枚くらいやってやろう。
気合を入れるとわたしはまずは來姫様への贈り物を仕上げることにしたのだった。
余談だけれど。
來姫様からの詳細と各王から届いた書類を確認してもう一回怒った。
鈴様たちの精神を蝕むタイプの罰をお与えになっていたようで、早めに気づけて本当によかった。
彼女たちからは『心底感謝しているので何かあれば力になります』という手紙が届いたので、こちらこそ奴らが何かしたらすぐに言うようにお返事を返した。
それから文通が続いており、すこし打ち解けた気がする。
本当によかった。
藤姫様と桃姫様からだけは音沙汰がないので心配していたら雨様が『心配は不要です。私にお任せください』とお手紙をくださった。
時間はかかるかもしれないけれど、いつかまたみなさんで、お茶会ができたらいいのに。
まあ陛下方が流石に許さないだろうけど。
おねだりしてみてもいいかもしれない。




