12.溺れるほどに愛される後日談-亥
「雛姫、我のことは汀と呼んでくれ。さて撫でてもかまわんな?」
入るや否やこれだ。
ちょっと待ってこの人普段物静かなイケオジなのになんでわたしと会うとこうなるかな!!
でれでれと相貌を崩してなでなでと全身撫でまわしてくるこの残念イケオジ…
たまに高い高いとか交えてくるしわたしのこと娘か何かだと思っているのだろうか。
「ああ、そうだ。今日はおまえに口付けてもらえるのだな?」
すとん、と降ろされると「さあ」と手を広げて待ち構えられる。
これは少し恥ずかしいけれど、今日で最後だ。
思い切っていくぞ。
「あの、かがんでくださいませ、届きません」
ぐっと背伸びして近づこうとしてみたものの、遥か高くにある顔に届くわけがない。
汀さまは12人の中では真ん中くらいの背と体格だけど、だからといってわたしが届くわけではないのだ。
「ああ、あまりに可愛らしくみとれておった。」
はははとゆるゆるの顔のまま言われて、わたしも思わず苦笑いだ。
なんて残念なイケオジなんだ。
ひょいっとわたしを抱き抱えると(幼女の抱き方だこれ)「これでよいか?」と聞かれたので頷く。
その口にちょん、と触れるだけのキスをすると満足げに降ろしてくれた。
汀さまやっぱりわたしのこと娘だと思ってる気がするなあ。
「お前は肉は好きか?猪領の特産なのだが」
と並べてくれたのは加工肉の数々。
ハムとかソーセージとかの類だ。
「好きです!!お肉!!」
思わず食い気味になってしまったのは許して欲しい。
だってこういう加工肉って高級でわたしたちは自分たちで加工したあやしいものしか食べたことないんだもの!
「そうか、では調理してやろう。庭でよいか」
***
バーベキューだこれ。
わたしは差し出された焼けたお肉をもぐもぐと頬張りながら気づいた。
「旨いか?」
「はい!!とても!!」
本当においしい。すばらしい。
こんなものを雛の体になってから食べたのは初めてだ。
「そうかそうか。せめてもう少々肉をつけねばな。」
するりと撫でられたのはお腹のあたりだった。
「…?」
汀さまはデブ専なのかな。
太りたくてもこの体はなかなか太らないと思うけど。
「数日で忘れるとは覚えが悪いのか?」
揶揄うように聞かれ、今度は下腹部をとんっと軽くつつかれた。
びりびりっと電気が走ったように背筋を駆け、膝から崩れ落ちそうになる。
これはあれだ、竜王陛下がやってたやつ!!
「体は覚えていたのだな」
嬉しそうに笑うと、立てないわたしをそっと抱き上げた。
「また焼いてやるからたくさん食すのだぞ?」
「は、はい…?」
唐突に部屋に入り、わたしを抱き抱えたまま椅子に腰かける。
なんだか体がおかしい。
あの日よりも、だ。
「今日で全員の名を受けたことになるのだが、どうだ?」
どうだ、といわれてもなんの変化も無いと思うのだけど。
意味がわからない。
ふっと笑った汀さまが、鏡を出して見せてくれる。
「…!?め、めが…!?」
驚いた、虹色になっている。
あれだ、これヒロインがエンディングでなるやつ。
今の今まですっかり忘れていた。
これは王たちの真名を知るとなるってことだったのかな。
それにしてもすごい虹色。
さすがに本物の虹みたいにぱきっと色が分かれているわけじゃないけど、オパールみたいな色彩っていえばいいのかな?
いや気持ち悪いなこれ。
呆然としていると、汀さまがそっと頬を撫でてくれる。
「美しいから、よく見せてくれ」
優しい声に、少しだけほっとする。
どうやら気持ち悪いものではないらしい。
「竜王の見立てだが、これで雛姫にも二次性徴が来るのではないか、と」
その言葉通り、なのかなんだか体が熱い。
であればわたしこの人たちと契らなければ一生子供すら作れない体質だったってことかなあ。
なんだか最初から出来上がっていた道っぽくてむっとする。
残念ながら、神様とやらだった記憶はないのだ。
王たちに特別思い入れだってない。
いや流石に今は少しくらいは仲良くしてやってもいい、とは思ってるけど。
「急な変化に戸惑うだろうが、我らは其方にきちんと寄り添う故、存分に甘えるといい」
先ほどとは打って変わって撫で方がいやらしい。
「ん…」
小さく息を漏らすと、「これは犬王あたりは死ぬな」と呟いている。
「其方の色香が急に増した。有体にいうと今の其方は格別にうまそうだ」
聞きたくなかった。
だって汀さま以外はそんなわたしにもよ、欲情してたのに!
全員ロリコンだったのかな!?
そして最後の砦である汀さままで!!
なぜか首筋に口付られるとそのまま強く吸われてびくっとする。
「汀さま何を!!」
何をっていうかキスマークだわこれ。
「本当に何をしてくれやがってるんですか!!」
こんなの他の王に見られたら「平等に」って言われるにきまってる。
そんなことを許せば体中鬱血痕だらけになってしまう。そんなの嫌だ。
「我慢が効かんな、これは」
さっきまでわたしのことを娘のように扱っていただけに、急な変貌にわたしは目を白黒させてしまう。
「て、汀さままって、やだ」
思わずぎゅっと汀さまの胸元を握りしめて制止を求めるも、ちらりと見られただけで再び今度は鎖骨辺りに吸い付かれる。
衣の合わせが徐々にはだけて行き、ほぼ膨らみのない双丘(いや平らだけど)が見えそうになっている。
「汀さま、やだ、です!!」
いつものように麻痺薬をぶっかけ、"脚力"で蹴り飛ばす。
が。
「すまぬ、猫にひっかかれた程度だ。かわいいな、我らの花嫁は」
元気だ。
なんで!?
今までの方々はそれで手を引いていてくれたってことか。
で、猪だけに猪突猛進なところが意外とおありのこの汀さまは止まれない、と。
なるほど理解した。
理解と同時にわたしは迷わず「來姫様!」と叫び、次の瞬間には彼女の前に立っていたのだった。
「來姫さまああああああ」
「あら?今日は猪王陛下よねえ?どうかして?」
ばっとわたしの顔を見、はだけた服を見た來姫様は笑顔のまま一瞬固まった。
すると、殊更美しくわたしに微笑みかけて、「しばらくここで座ってなさいな。紅、翠!」
侍女さんたち2人を呼んだ。
わたしが首を傾げているあいだに何故かお風呂に入れられ、念入りに洗われたのだった。
気づけば鬱血痕はきれいさっぱりなくなっていた。
呪術かな?紅さんは呪術がお得意だったはずだし。
「戻ったわあ。雛姫様、王たち全員しばらく貴女との接触を禁止したわあ」
なんと、汀さまですら我慢できなかったということで來姫様は大層お怒りらしく。
まだ子供なのだから、とかなんとか相当言い含めた結果こういうことになったらしい。
やっぱり來姫様が最強な気がする。
この12日間とても大変だったけれど、來姫様がいるなら悪くないかもしれないななんて思いつつ、わたしは彼女の細い腰に抱き着いたのだった。
二次性徴が来てもこんなボンキュッボンにはなれないよなあとちょっぴり白目を剥きつつ。
***
そして來姫様に教わったのだけど。
わたしは神としての力を取り戻した所為で、寿命が延びたらしい。
嬉しくない。
伝説通り、どうやら"最後の一人を看取るまで"となりそうだというのが來姫様の見解だ。
だけど、「わたくしが死ぬまで一緒にいられるわあ」って來姫様が言ってくれたので、それはそれでよかったのかもしれないなんて思ったのだった。
数百年もあるなら、いつか王たちのことも好きになれる…かどうかは彼らの努力次第だと思う。
毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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