10.溺れるほどに愛される後日談-酉
わたしはぼんやりと目の前の光景を眺めていた。
次々と運び込まれる衣装。
そして装飾品。
それを指揮する鳥王陛下。
「雛、これは全てあなたの婚礼衣装だよ」
漸く運び終わった頃に爆弾を投下された。
いや30着くらいあるじゃん。
「全部着て、1着選んで欲しい」
わたしが選ぶのかー。
正直全く興味がない。
12人の王との婚礼の儀とか謎じゃない?
「婚礼の儀は12日間行うからね。他の王もそれぞれ用意しているから、雛は12着きることになるね」
え、そんなにやるの!?今から憂鬱だ。いやでもたしかに平等にしようとするとそうなるの…?
どれもこれも重くて動きにくい服だから気乗りしない。
「私のおすすめはこれかな」
淡い水色の衣装は鳥王陛下と並べば映えるだろう。
「こちらもいいね」
ワンポイントで淡いピンクが入っているのは鳥王陛下の髪の色だったりするのだろう。
「…あの、わたしあんまり高価な布とか見たことないですし、婚礼の衣装もぴんときていなくて」
どんなのがいいのかわかりません。
前世では婚礼といえば白だったけれど、ここではそんな決まりはないし。
なんちゃってチャイナだし赤かと思いきやそうでもなさそうだ。
どれもかわいいけれど、本当に拘りはない。
正直この雛の顔ってかわいいから(自分でいうのもおかしいけれど)何でも似合うと思う。
陛下が命じたまま侍女たち…というか紅さんと翠さんが着付けてくれる。
「あの、どれがいいんでしょう?」
こっそり尋ねたものの
「お好きなものを選ばれてよろしいかと存じます」
「そうだよ、さすが鳥王陛下、センスがいいから多分全部似合うよ」
と言われてしまってはますますわからない。
全て着てみたところでやっぱり首を傾げてしまう。
「好きなものはなかった?」
「あ、いえ。どれもとっても素敵でした。でもわたしには選ぶのは難しくて」
今の今まである物を使いまわす生活だった。
服を選ぶなんてしたことがない。
すっかりその思考が身についていたのか、どれがいいとかがわからなくなってしまっている。
「そうか、では一旦こちらへおいで」
衣装が掛かっているのを見ながら、鳥王陛下がわたしをクッションの上に座らせてくれる。
その後ろからそっと抱き寄せられた。
まだ紅さんと翠さんがいるから恥ずかしい。
「ああ、まだ慣れないんだね。かわいいな。」
嬉しそうに微笑むと、紅さんと翠さんを部屋から出した。
意図を汲んでくれて少しほっとする。
「では私の選んだものでもいいかな?できれば雛に選んで欲しかったのだけど、無理強いしたくはないからね」
この方は、最初にわたしを怖がらせたことをずっと気に病んでいるようで、殊更優しくしてくれる。
今も抱き締めてはいるけれど、本当にそれだけだ。
なんなら背もたれの役割を果たしてくれているといっても過言ではない。
「う…待ってください、選びます」
そういう人にわたしはちょっぴり弱い。
だって優しくしてくれているのに意地悪するなんてできない。
「そう?ああ、じゃあその時には私の名を呼んで欲しい。私の真名は仁という」
頷き、再び衣装に目を向ける。
どれもこれも本当に美しい。
ひとつだけ、さっきまで気が付かなかったけれど、何かの鳥が刺繍されているものがあった。
布と同じ色の糸で刺繍されているため、よくみなければわからない。
「あれはなんの鳥ですか?」
「ああ、あれは私だよ。瑞鳥と呼ばれていて、雛にも力を貸している」
ああ、『召喚』の。と納得した。
『召喚』は古き祖の動物たちが各王の体に宿っており、その力を引き出して使うのだそうだ。
だから『召喚』の力を得ると王と繋がり、その力を使うと王とのつながりが深くなるのだと教わった。
もっと早く知っていたら、と少し悔やまないでもない。
で、その鳥が瑞鳥らしい。
瑞鳥という種類の鳥がいるわけではないから、想像上の姿で補完してあるのだろうけれど。
その刺繍がとても美しかった。
「これにします、仁さま」
約束通り名を呼ぶと、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「あれを選んでくれるのだね、ありがとう」
30着もあってあれだけ刺繍してあるのだから、きっとわたしは正解を選んだんだと思う。
再び侍女たちを呼び、衣装を片付けた後。
わたしたちは庭に出てお茶を楽しんでいた。
なんというか、仁さまは女子会をしている気分になる。
線も細いし髪もピンクで長いし。
所作も嫋やかだし顔立ちもちょっと中性的だし。
もうほぼ女子と見做していいのでは?
…わたし疲れているのかもしれない。
連日王と2人切りにされてアピールというか手籠めにされようとしていて。
「雛が私のことを怖がらないのであれば、女性扱いでも構わないよ」
うっかりしていたわたしの口が心の声を漏らしてしまったらしい。
苦笑交じりに許可を出されたのでちょっと慌てる。
「こ、怖くはないです。もう」
「そう?だけど初対面の印象はよくなかったよね」
「それは全員そうです、あまりお気になさらずに!」
あわあわと手を動かせば、それをそっと制される。
あ、カップを落としそうだった。危ない。
「雛にひとつだけアドバイスをあげるよ」
やっぱり苦笑したままの仁さまが、少しだけ目を伏せて影のある顔をされる。
色っぽい。
「誰かひとりに気を傾けるのはよくないよ。私たちは見ての通り嫉妬深い。平等であって欲しい。勝手をいうけれど」
今のところ平等に興味がないはずだ、問題ない。
と力強く頷くと、「それはそれで寂しいけれど」とそっと笑われた。
なんか儚い。
わたしでも倒せそうだ(多分無理だけど)
「だから、その…私も雛の口付けを強請ってもいいかな」
えっかわいい…!!
控えめなその態度とてもかわいい!!
わたしは思わず強めに頷き、仁さまの顔を固定した。
うわあ、まつげ長!肌きめ細か!美女!!
これはほぼ美女。
わたしはいつもと違うどきどきを感じながら、そっと仁さまの唇に自分の唇を合わせた。
3秒ほどで離れようと体を引いたとき、離れないでと言わんばかりにわたしの腕をちょん、とつつかれる。
あれわたし女の子にキスしてたっけ、と錯覚してしまうほどかわいい。
あざとい。ずるい。
思わずもう3秒ほど伸ばしてしまった。
「ふふ、ありがとう」
少し顔を赤らめて目を逸らす仁さま。
え、恋する乙女みたいなんですけど?
最初の俺様っぽい尊大な雰囲気どこいきました?
「あの…もういっかい、してくれる?」
ちらっとこっちを見てからあわてて目を逸らす様がそれこそ生娘のようであまりに可愛らしく。
つい、「いいですよ」と言ってしまったわたしは馬鹿だと思う。
馬鹿だとだれか罵ってください。
「ほ、ほんとう!?」
がばっと肩を掴まれて、すぐに後悔した。
なんだか仁さまから抑えきれていない色気がじんわり溢れていて、わたしもあてられてしまったのだ。
そうだ、そういうことにしておいて。
だから、もう一回だけ、と自分に言い聞かせて、再度触れるだけの口付けをお見舞いしてやった。
「はあ…雛、」
艶めいた溜息交じりに名前を呼ばれ、なんだか背筋が粟立つ。
うっとりとした目のまわりが少し赤らんでいる。
その目から視線を逸らせないでいると、「ごめん、もういっかい」と今度は仁さまに口付けられた。
「雛、ひな…」
名前を熱を帯びた声で呼ばれ、口付けを落とされて体がぴくりと震える。
いつのまにか何度も何度も振るキスに、くたりと力が抜けてしまった頃。
「はあ…かわいい。」
先ほどとうってかわってぎらりと欲を帯びた目を向けられて、思わず後ずさる。
「ごめんね、怖くないから。お願い、逃げないで」
それに目ざとく気づいたのか、慌ててわたしを抱き絞める。
多分その目を見せないように。
「ありがとう、雛。」
ぽんぽんと背を軽く叩く仁さんに、今日はこれで満足してくれたんだなと結論付けた。
危うくわたしはこの人のことを少女認定するところだった。
少女の皮を被った狼だった、普通に。
けれど怖がるのはもうやめてあげようと思う。
優しくしてくれるうちは。
毛色は違いますがよかったらこちらもお願いします。完結済みです。
『光の勇者は竜の姫と月の騎士に執着される』
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